蛮族集落の貧弱ゆるふわ秀才少年(当社比) 作:人生はっぱたい
土と木の香りが立ち込める森の中……俺は必死に息を止めて獲物が来るのを待つ。必死に木陰に隠れ、耳を澄ませれば何処からか4足の獣が地面を蹴る音が聞こえる
「……来るか?」
俺はそっと手にした双剣を胸に構える……すると、猿叫の様な男達の叫び声が聞こえてくる。
木陰から顔を覗かせると、並み居る林木を薙ぎ倒しながら進む大柄なイノシシ……そしてそれを後ろから追いかけ、飛びかかる材木を素手で打ち砕く筋肉質な男達が居た。
男達は森の外まで響きそうな声を上げて俺を名を呼ぶ。
「カトキィィィィ!!!!」
「殺れ!首根っこ掻っ斬ったれ!!」
合図が来ると、俺は手にした双剣を握り直し地面を蹴って猿のように木に登りながら枝から枝へと飛び移り、獲物を見る……チャンスは一瞬。仲間が追い込んだこの一瞬が鍵だ。
そっと刃を構え、額にそっと寄せて……静かに呟いてみる。
「あいさぁ……!!」
ここだッ!そう思ったタイミングと出会えば、頭が思考するよりも先に身体が動き出し、木のてっぺんから飛び降りて落下の勢いに身を任せる。
すると、計算通り調度イノシシが俺の着地のタイミングで迫ってくる……瞬間、俺は力を込めて双剣をその突き進むイノシシの首根っこにおもいっきり突き刺し、身を捩らせて地面に着地する。
急所を疲れたイノシシはのたうち回りながら木々に打つかり……やがて一つの大樹に頭を打ちつかない、バタリと倒れてしまう。
俺はそのイノシシに近づき、そっと首根っこに突き刺さった刃を引き抜くいた。近くで見れば、そのイノシシは一般的な野猪とは違い遥かに大柄……大きさからして3〜4m、身体には不可思議な紋様が浮き出ている。
……このイノシシはただのイノシシでは無い。端的に魔物と呼ばれている、通常の生物から逸脱した力を持つ生き物だ……そして、今や世界各地に現れる人類の天敵となりつつある存在だ。
そしてその魔物を狩り、人々の生活を守る者を人は狩人と呼んだ。
申し遅れた。俺の名前は『カトキ』
辺境の森の中にある集落『ハジカの村』に住む一般的な青年だ。
いや、嘘をついた。一般的では無いかもしれない……俺はむしろ村の中では貧弱な部類だ……おかげでみんなから良く誂われる始末。港比べても落ちこぼれと言わざるおえない……
すると、先ほどイノシシを追っていた屈強な男達が駆け寄ってくる。
「おぅい!カトキ!無事かぁ?」
「大丈夫か?もやしっ子!!」
「おうさ。大丈夫。」
この男達は俺の村の狩人……俺よりも一回り二回り大きな巨体、筋肉量は俺の倍はあろうかとの肉体美だ。今日は色々あって森まで魔物狩りに来ていた……とある魔物の内臓が薬になるので、その調達だ。
……しかし、俺達は用紙に書いてもらった目当ての魔物の模写と、目の前のイノシシの魔物の亡骸を見比べる。
用紙に写るのは、一角はえた角が特徴的なウサギのモンスター……目の前にいるのは口からはみ出た2本の牙が特徴的なイノシシ……姿形がまるで違う。
すると、狩人の一人が唸りながら呟く。
「また違う魔物狩っちまったい。こいつ、目当ての魔物じゃねぇや。」
「またか……どうしたもんかねぇ。これで8体目だ。」
うぅむ。森に入ってしばらく経つが、狩った魔物みなこんな感じで目当ての獲物になかなか巡り会えない。……待てよ?改めて考えると俺達獲物が目に入ったら問答無用で斬り殺してるから確認する暇がなかったな……なら……
「う〜む。」
「ん?どうしたカトキ。神妙な顔して……」
「……なぁ、折角目当ての魔物の模写貰ったんだから、出てきた魔物とこの模写見比べてから襲うのは駄目かな?」
その言葉を聞いて狩人二人は大きく目を見開き、もう一度用紙に描かれた模写を見て声を上げる。
「おぉっ!そりゃ名案だ!」
「さっすがカトキ。我が村一の秀才、王国の学園に行く奴は頭の出来が違うな!」
「褒めるなよ、照れるぞ。」
我ながら良い提案をした。
実は俺は今度から村を離れて王都の学園に向かい、魔物を狩る狩人になる為の正式な勉学を積む事になっている。
いまや王国だけでなく、我が村も魔物の脅威に晒されている為に……そして、長年冷戦とまでは行かなくとも、ギクシャクした関係の我が村と王国の間に何かしらのパイプを繋げられれば……とおもっている。
王国の方はだいぶこちらを警戒しているらしい……何故かって?さぁ……詳しくは知らない。大昔に王国と喧嘩したとかしなかったとかそんな話は聞いた覚えがある程度だ。
兎も角、俺は村代表として王都に向かう訳だが……当然初めての試み。村の皆は色々と心配もしてくる。
「しかし大丈夫か?お前は頭がいいがもやしっ子だからなぁ……」
「大斧の一つも片手で振り回せないんじゃなぁ……こいつもって練習するか?」
そう言って狩人の一人が背中からその背丈ほど(おおよそ2m弱と言った所だろうか?)もある大斧を下ろして俺に手渡ししてくる……持てと言うことなのだろうが、俺はそれを持ち上げることすら叶わない……
「やめとく。俺はこっちの双剣のほうが性に合ってる。」
「切れ味は良いかもだが、そんな軽い剣で王都でもやっていけるのか?」
「んだ、王国と言うからには手練も多かろう……こんな大斧よりも遥かに巨大な鉄槌を両手持ちして操る者もいるだろうしな。」
「う……そ、そうかな?やっぱ?」
俺は村一番の秀才と呼んでもらえるのと同時に、村一番のもやしっ子でもある。力比べじゃ5個下の妹にも負け……というか、赤子意外に力比べで勝った試しがないほどだ。
オマケに他の皆ほど雄々しくもない………全く、男として恥ずかしい限りだ。力も弱いから皆のような大剣や太刀やメイスも使えず、こんな双剣で戦わなければならない。幸い身軽ではあるからその辺のかみ合わせは良かったのだが……
「お前の叔父様は若い頃に素手で竜を仕留めたこともあるんだぞ?俺お前もそれくらいにならねば……」
「素手で竜はいくら何でも厳しいだろ…………まぁ素手で大熊を仕留められるくらいにはな。お前は我が村の代表として王国に赴くのだから……温室育ちの貧弱っ子丸出しのままでは恥をかくぞ?」
「うぅ……面目ない……!」
確かに俺は皆と比べて細身だ。幾年も鍛え続けてはいるけど、やっぱり皆と比べても遥かに筋肉量が少ない。
皆倒木なんて片手で持ってくのに……俺が片手で持っていけるものは何てたかが知れてる……布袋に詰め込まれた小麦粉位だ……畜生……!!
「……まぁ、お前の事だ。皆まで言う必要もなかったな。さぁ
とりあえずこの魔物の皮と肉を剥ごうや。」
「牙が邪魔だな……根本から引っこ抜いておくか。」
そう言って狩人二人は黙々と魔物の解体作業にはいる……俺も手伝えたからいいのだが、俺はまだまだで皮や肉をバグのは得意だが、骨や牙の処理が難しい……村の皆みたいにへし折ったり引っこ抜いて取り除いたりができないからだ。
俺ももっと強くならなければ…………!!!
次の集落、草むらからがさっと動く音がする……とほぼ同時に俺や狩人の皆様は剥ぎ取りの為の手持ちナイフを草むらへなごつける……獣の断末魔と共に、地面に血がにじみ出てくるのであった。
――――――――――
王都『ナスカディア』
場所はその都市に建つ魔物の脅威に対抗する為の冒険者や狩人を育てる巨大な学園『カディア狩人学園』……その職員室だ。
新入生が来るまでのこり幾ばくもない中、新たに来る生徒を、少しでも覚えようと教員達が書類に目を光らせていた。その中の一人……今年始めて生徒を受け持つ女性が、じっと書類を睨見つけていた。
「えっと……大魔道士の血縁の貴族に、竜人、近衛騎士の家系の子も居るな……今年は中々豊作じゃない?」
ざっと手を通すだけでも粒ぞろいに見える……よい調子で新入生の情報を頭に入れる先生であったが、ふと一人の少年の書類で手が止まる。
「……んっ?……えぇ……この子私が受け持つの……?」
先生の手に持つ書類に書かれた名は……『カトキ』
出身はハジカ……この辺りでは有名な蛮族村だ。
そこに住む者達は皆魔物を素手でなぎ倒し、木々を素手で圧し折り、15mまでなら川を徒歩で移動でき、一度敵と見定めれば根まで叩き潰し、その肉を食って生きるとまで言われている。
もちろん誇張が幾つか入っていようが、その昔王国との小競り合いになった時には、森のなかに立ち入った国軍を皆殺しにして来たと言う。
それから膠着状態が続いたが、代替わりと「あそこはやべぇ」と言う共通意識の元、今はお互い何者も害さず、何者にも害されず……一つの国が蛮族の集落一つに対してたじろぐというあり得なさすぎる構造が誕生した。
そんなバケモノじみた集落からの生徒と言うそれだけでも気がかりな案件だ。同時にこのカトキと言う少年……特別入試の合格者でもある。
学園とするからには当然入試が存在し、その入試にもさまざまな種類が存在する。一般的な入試から、貴族や王国からの推薦等様々だ。
特別入試はその中の一つであり、特定の魔物の自力討伐と簡単なテストをクリアする事で入学へと切符を手にすることができる入試だ。所謂スポーツ推薦の様な物だ。
当然、相対する魔物は高い危険度を誇り、毎年一人でるか出ないか程の高い壁となっている。それこそ実力が足りないなら普通に勉強して一般入試を受けた方が良いほどに。
「……あぁ……この試験受かる子は皆癖強が多いって聞くし、初めて担任受け持つ私に務まるかな……しかも初めての蛮族村出身の子なんて……」
余談だが、実は過去にも、先生の言うこの蛮族村の若者が特別入試の討伐対処を倒した事がある。
では、なぜカトキが初めての入学者なのかと言えば答えは単純で……それ以前の全員が筆記試験に引っ掛かったからである。
学園の入試テストとしては間違いなく簡単な部類にはいるのだが、まぁ、得意不得意はあるということなのだろうか。ともあれその最低限のテストも答えられなければ論外ということで落とされたのだという。
そんな色々と外れ値な蛮族の若者…………彼だけではなく、今年は色々と一癖ある面子が学園の門を叩いている。彼女は自身の胃が痛くのを感じながら、再び書類の海に目を落とすのであった。
カトキ君:蛮族村で一番のもやしっ子秀才、儚い虚弱体質系少年(当社比)。虚弱で重い獲物が持てないので軽い双剣使いである。
蛮族村の方々:動く影があったら殺す。声がしたら殺す。気配がしたら殺す。何もしてなくても巻き添えで殺す。諸外国からの扱いはほぼ北センチネル島。皆が思ってるほど蛮族じゃないけど当人達が思ってる程真っ当な部族じゃない。