ヤタガラス探偵事務所・帝都支部 ――デビルサマナーは大正の夜にバグを穿つ――』 作:ガチャガチャクツワムシ
産屋敷邸の手入れが去れた庭園。
産屋敷に促され、駆は悲鳴嶼や胡蝶姉妹を伴って外へと出ていた。抜けるような青空の下、駆は産屋敷と対峙し、一人の専門家として丁寧に言葉を選び始めた。
「……なるほど。神代、君の言う『最上位の悪魔』とは、具体的にどういった存在なのかな?」
産屋敷の穏やかな問いに、駆は庭の木々を見渡しながら静かに頷いた。
「そうですね。最上位の悪魔とは、いわば『神話の中に記された神そのもの』を指します。例えば、火の神ヒノカグツチのようなはるかに格上の存在がこの地に現界すれば……それは鬼の被害などという次元を遥かに超え、この国全土が数日のうちに灰燼に帰すことを意味します」
場に重苦しい戦慄が走る中、駆は手元のコンプを軽く叩き始めた。
「自分が、この世界に来る前にヤタガラスから命じられていた本来の任務は、人形遣いのような『はるかに格上』のサマナーが絡んでいたと想定されてなく、下位や中位の悪魔でこと足りると自分も本部も考えておりました」
「この地でも鬼を何体か消滅させましたが、上弦の鬼でも中位の悪魔で対応可能と判断しておりました」
駆は少し苦い顔をして、自身の体調を確認するように拳を握った。
「……ですが……問題があったのは、この世界のMAGの薄さです。想定以上に自分のMAGを消費し回復も儘ならない。そんな状態では、フィン・マックールのような上位個体の『格』に見合うだけのエネルギーを注ぎ込める事が出来ず。燃料が無いのに無理に動かそうとして、本来の力を発揮させることはできませんでした。その上、自分の肉体がもたなくなり、あんなことになりましたが」
駆は今度は不敵な笑みを浮かべ、広い庭の中央へと歩み出た。ここからは「現場」の顔だ。
「……効率を重視して下位や中位で回す時期は終わりました。産屋敷様、ここで自分の新しい仲魔の『誕生儀式』を披露させてもらいます。MAGの回復手段を得られたので、上位の龍神を産み出します。……邪教の館・簡易接続。悪魔合体、開始だ!」
駆がコンプを操作した瞬間、快晴の空に突如として黒雲が立ち込め、庭園全体に凄まじい風圧と異界のプレッシャーが吹き荒れた。光の渦が天を突き、巨大な影が旋回しながら降り立つ。
「──来い。属性【氷結・電撃】、上位悪魔……『セイリュウ』!」
咆哮と共に現れたのは、庭の木々を遥かに見下ろす巨躯を誇る、青く輝く東方の守護龍だった。その鱗が放つ冷気と、角から散る激しい雷光に、悲鳴嶼や胡蝶姉妹は息を呑み、圧倒的な神性に言葉を失った。
「……産屋敷様、俺はこいつを軸に『修練の地』でMAGを補給し、奴らが現れる前に更なる戦力を揃えてみせます。……ここからが、本当の意味での『神話の戦い』になりますよ」
青き龍を背中に携え、風にコートをなびかせる駆。その背中には、最悪の事態を見据えた、プロのサマナーとしての冷徹な覚悟が宿っていた。