ヤタガラス探偵事務所・帝都支部 ――デビルサマナーは大正の夜にバグを穿つ――』 作:ガチャガチャクツワムシ
異界での激闘から数時間。神代(かみしろ)は、並んで門を出た悲鳴嶼と一度別れた。悲鳴嶼は自身の修練の成果を産屋敷へと報告しに、そして駆は、次の仲魔合体に必要な素材となる悪魔の最終調整を行うため、いつもの拠点へと戻った。
翌日。拠点の裏手に広がる開けた空き地。駆はコンプを起動し、周囲に異界で勧誘・選別した数体の強力な悪魔たちを実体化させていた。それらは素材として、静かにその時を待っている。
そんな折、空から鋭い鳴き声が響いた。
「カァーッ! 緊急連絡! 緊急連絡! 町外レニテ怪シイ人形の痕跡ヲ発見! 神代、直行セヨ! カァーッ!」
鎹鴉(かすがいがらす)が頭上を旋回しながら、騒がしく声を張り上げる。
「ようやく痕跡が見つかったか。何か手かがりがあると良いが」
駆が素材となる悪魔たちのデータを編み合わせようとしたその時、背後から四つの強烈な気配が近づいてきた。現れたのは、煉獄、実弥、天元、義勇の四柱――炎、風、音、水の柱たちだった。
「神代! 鴉の知らせを聞いたぞ。人形が見つかったのなら、我らも共に行かせてもらう!」
煉獄が快活に叫ぶが、その視線は駆の周囲に漂う「素材」の悪魔たちに釘付けになっていた。実弥や天元も、そこらの悪魔とは一線を画すその悍ましいプレッシャーに、無意識に刀の柄へ手をかける。
「……ついてくるのは勝手だが、少し待っていてくれよ。今、最高級の戦力を用意してるところだ」
駆は不敵に笑うと、屋外の広い空間を指し示し、コンプの決定キーを叩き込んだ。
「――邪教の館、最終プロセス。素材合体……そして、召喚!」
青空の下、突如として巨大な魔法陣が地面に展開され、素材となった悪魔たちが眩い光の粒子へと還元されていく。それらが渦を巻き、三つの巨大な影を形作っていった。
「な……なんだ、このプレッシャーは……空気が震えてやがる……!?」
天元が顔を歪めて一歩下がり、義勇も無言で眼前の「神域」の光景を凝視した。
光の中から現れたのは、白銀の毛並みを湛えて咆哮する虎、紅蓮の炎を纏い舞い踊る鳥、そして重厚な甲殻に蛇を巻き付けた巨大な亀。すでに傍らで静かに控えていたセイリュウに続く、最高位の神獣たち。
「――『ビャッコ』、『スザク』、『ゲンブ』。そして『セイリュウ』。四方位を護る神獣達だ。これが俺の現状における最高戦力だ」
野外の広大な空間ですら狭く感じさせるほどの神々しさと質量感。駆は召喚された四体の神獣を見渡し、プロとしての冷徹な算段を告げる。
「こいつらは単体でもそこらの悪魔を圧倒できるが、これが完成形じゃない。戦いの中でこいつらの練度を極限まで高め、最終的には四体を一つに統合し、より強固な存在へと昇華させるのが今後の予定だ。上位以上の連中と対等に渡り合うためにな」
四柱は、昨日の駆とは別人のような、この世の理を超越した「軍勢」の主たる姿に、ただ圧倒されるしかなかった。
「……よぉ、準備はいいか。こいつらを連れて、その『人形』の主を狩りに行くぜ」
駆は四神を引き連れ、呆然と立ち尽くす柱たちの横を通り抜け、戦場へと足を踏み出した。