ヤタガラス探偵事務所・帝都支部 ――デビルサマナーは大正の夜にバグを穿つ――』 作:ガチャガチャクツワムシ
自律起動した「人形」が異形の叫びを上げ、その四肢を鋭利な刃へと変貌させた瞬間、駆は躊躇なく空へと左手を突き上げた。
「――合図だ! 柱の皆さん、遠慮はいらねえ! 協力してこいつを一掃するぞ!」
打ち上げられたMAGの光弾を合図に、外周を守っていた煉獄、実弥、天元、義勇の四柱が、稲妻のような速さで中心部へと踏み込んでくる。
「待たせたな、神代! これが君の追っていた『敵』の遺物か!」
「ハッ、こんなガラクタ、俺たちがまとめて細切れにしてやらァ!」
煉獄の炎が、実弥の風が、そして天元が爆音を伴う斬撃と義勇の凪が、四神の猛攻と完璧に共鳴する。
セイリュウの氷結で逃げ場を奪い、ビャッコの雷光で装甲を焼き、最後は柱たちの剣技とゲンブの圧倒的な質量による圧壊。自律暴走した「人形」は、最強の布陣による波状攻撃を前に、為す術もなく粉々に砕け散った。
静寂が戻った廃村。
四神が静かにその威容を収め、柱たちが刀を納めようとした、その時。
散らばった人形の破片の一つ――歪にひび割れた頭部から、青白い光が漏れ出した。
『……やぁ、聞こえるかな。ヤタガラスのサマナー』
その声は、穏やかでありながら感情の起伏が一切感じられない、無機質で冷徹な響きだった。駆の背筋に、あの「次元回廊」が開くきっかけとなった事件で初めて対峙した際の、忌々しい記憶が走る。
「……人形師(パペッティア)」
『感謝するよ。私の人形が破壊されたことを感知して、この世界の座標を認知することができた。……あの裂け目から、君だけではなく私の作品もどうやら流れ着いていたようだね』
破片から響く声は、まるで隣で囁いているかのような不気味な明瞭さを持っていた。
『この世界……我々の世界とは理が異なるようだね。非常に興味深い。しばらくは、この世界の隅々まで私の「目」を行き渡らせることにしよう』
「ふざけんな。ここはお前の実験場じゃねえんだよ」
駆の拒絶に対し、人形の破片は一層冷たく、皮肉めいた響きを帯びて笑う。
『ふふ……その言い草、今の君には何ら関係のない話ではないかな? 君も私も、等しくこの世界に放り出された異物に過ぎないのだから。……それでは、また会おう、サマナー。次に会う時は、もっと「完成度」の高い作品を見せてあげるよ……』
「……抜かしやがれ。次に会う時は、その薄気味悪い声が出ねえように本体を引きずり出してやる」
駆の不敵な言い返しを最後に、ぷつりと光が消えた。
後に残されたのは、ただの泥にまみれたガラクタの山と、かつてないほど険しい表情を浮かべる駆の姿だった。
「神代……今のは一体、何なのだ?」
煉獄が心配そうに問いかけるが、駆はガンプをホルスターに叩き込み、空を見上げて鼻で笑った。
「……最悪の『再会』だ。ヤタガラスに報告しなきゃならねえことが、また一つ増えちまった。柱の皆さん、ここからが本当の地獄だぜ」