ヤタガラス探偵事務所・帝都支部 ――デビルサマナーは大正の夜にバグを穿つ――』 作:ガチャガチャクツワムシ
下弦の伍である累との死闘が終わり、静寂が訪れるはずだった森に、異質な金属音が響き渡る。
人形遣いの実験体である改造鬼が姿を現し、近くにいた隊士を捕らえた。
「ぎゃあああかっ!?」
その隊士が喰らわれようとした瞬間、しのぶの懐にある「管」が激しく脈動した。
「ガウッ!!」
「フフッ……おいたが過ぎるわね」
しのぶが封を解くより早く、管から二つの光が飛び出す。
一筋の白光となったハヤタロウが腕を噛み千切り隊士を救出。
同時に、苛烈な嵐を纏ったウェンディーネが、鋭い風の刃で改造鬼を弾き飛ばした。
「なっ、何だこいつらは……!? 鬼か!?」
混乱し刀を抜こうとする新入りの隊士たちを、古参の隊士が厳しく制する。
「待て、刀を引け! そいつらは味方だ!」
「えっ……ですが、この姿は……!」
「いいから言う通りにしろ! あれはしのぶ様の指示で動いている! 事情を知らんお前たちがいては連携の邪魔になるだけだ。直ちに下がれ、全員退避だ!」
古参の隊士は新入りを突き飛ばすようにして後退させ、即座に現場を柱の二人に委ねた。
「……義勇さん、ここは私たちが食い止めますよ。これ以上の被害は出させません」
しのぶが鋭く告げ、袖に隠していた予備の管を指先で弾き、追加で召喚を行う。
顕現したのは、金属的な光沢を放つ五色の羽を広げた聖鳥、鳳凰。
そして、黒い霧のような塊から猿の顔や虎の四肢が突き出し、背負った巨大な蛇が鎌首をもたげる異形の怪物、鵺。
ハヤタロウ、ウェンディーネ、そしてホウオウにヌエ。
計4体の仲魔たちが、大正の森を異界の威圧感で塗りつぶしていく。
だが、改造鬼たちの目は、しのぶが懐に忍ばせている「魔石」と「チャクラドロップ」に釘付けになっていた。
駆から託され、仲魔たちを維持するために高純度のMAGを蓄えたその石は、マグネタイトの薄いこの世界において、抗いがたいほど芳醇な香りを放っていたからだ。
「アア……、……濃イ……。……ソレヲ、……食ラわせロ……ッ!」
改造鬼は飢餓感のままに声を漏らす。
4体の仲魔による波状攻撃に身を焼きながらも、一切の生存本能を捨てて、魔石を持つしのぶ一点へと殺到した。
物量と卑劣な連携によって仲魔たちが引き離された、その一瞬の隙。
死角から伸びた金属の触手が、しのぶの四肢を絡め取った。
「──っ!?」
触手は蛇のように彼女の体を這い回り、魔石のエネルギーを吸い上げるかのように締め上げていく。
日輪刀は手から零れ落ち、抵抗できない彼女を、改造鬼は自らの「核」へと引き寄せ、その口を大きく広げた。
しのぶの意識が遠のきかけた、その時。
那田蜘蛛山全体を震わせる、重厚な銃声が響き渡った。
──パァァァァン!!
物理法則を無視した弾道を描いた一弾が、しのぶを締め上げていた触手を、その根元ごと精密に粉砕した。
「……悪いな。俺の大事な知り合いを、補充用の電池扱いするのはやめてもらおうか」
静かな、しかし有無を言わせぬ圧力を伴った声。
闇の中からゆっくりと歩み出たのは、3年前と変わらぬ外套を翻し、手に馴染んだガンプを携えた男──神代 駆だった。
その背後には、以前の彼が引き連れていた悪魔達よりも、更に圧倒的な威圧感を放つ上位悪魔たちが静かに控えている。
「駆……さん……?」
地面に膝をつき、肩で息をするしのぶの前に、駆は確固たる守護者として立った。
「久しぶり、しのぶちゃん。……あとの掃除は、俺とこいつらでやる」
駆が軽く指を鳴らすと、彼と共に現れた上位悪魔たちが一斉に動き出す。
それは戦闘というよりは、文字通りの「一掃」だった。