ヤタガラス探偵事務所・帝都支部 ――デビルサマナーは大正の夜にバグを穿つ――』   作:ガチャガチャクツワムシ

18 / 92
放置された残骸の記録

闇に沈む一室。人形遣いは、網膜に投影される無機質なアラートを、煩わしげに指先で弾いた。

「……五月蝿いな。何だ、今の騒ぎは」

 那田蜘蛛山の深部に、以前から放置していた実験体。

 もはや調整の基準すら満たさず、研究の足しにもならないとして、回収すら行わずに捨て置いた「ガラクタ」の一つだ。

 それが何かの弾みで再起動し、勝手に動き出しては、あっけなく沈黙したらしい。

「ふん。所詮は基準に満たない失敗品か。やはりこの程度か」

 停止した実験体の体内から、自動で転送されてきた観測ログを、人形遣いは事務的に読み飛ばしていく。

 ノイズ混じりのログデータには、再起動したガラクタが破壊された末期の光景が記録されていた。

「…………ああ。戻ってきていたのか、彼は」

 姿を消して数ヶ月。

 変わらぬ手際で異界の理を断ち切る一振りの銃、ガンプ。

 神代 駆。

 その姿を確認しても、人形遣いの眉一つ動かない。

(……この地の鬼。吸血鬼や悪魔、様々な因子の断片。それらをいくつも併せ持ちながら、どれ一つとして極致に至っていない。中途半端に混ざり合っただけの、不完全なキメラだ)

 その本質をデータとして確定させた瞬間、人形遣いの中から実験体への興味は完全に霧散した。

「……興味を失いかけていたが。だがもう少し、情報を集めさせてもらおうかな」

 人形遣いは、次の「作品」――別の地点に放置してある観測用機械の接続を確認し、静かに次の獲物を探し始めた。

 

 

 一方、那田蜘蛛山。

 群がっていた改造鬼を一掃し終えた駆は、ガンプをホルスターに収めると、不意に激しい眩暈に襲われ、膝をつきかけた。

(……っ、不味いな。急激な環境な変化に体が追いつかねぇ)

 マグネタイトの濃い異界から、極端に薄いこの世界へ急に戻ってきた反動。

 深すぎる潜水から急浮上した際のような、どろりとした倦怠感と強烈な眠気が、容赦なく意識を塗りつぶしにかかる。

「駆くん!? 大丈夫ですか!?」

 駆け寄ろうとするしのぶを、駆は片手を挙げて制した。

「……悪い。少し、体にガタが来た。……このままだと、ここで寝落ちしそうだ」

 駆は重い腕を動かし、連れてきた上位悪魔たちをコンプへと還していく。

 だが、最後に残ったウェンディーネ、ホウオウ、ヌエの三体には、その場に残るよう命じた。

「……こいつらは、しのぶちゃんたちの護衛に残す。……産屋敷様への報告、頼めるか?」

 最低限の言葉を振り絞り、駆は古くからの付き合いであるハヤタロウの背に手を置いた。

「ハヤタロウ……頼む。いつもの『拠点』まで、運んでくれ」

「ガウッ!」

 ハヤタロウが短く応え、駆の体を支えるようにその背に乗せる。

 しのぶと義勇が呆然と見守る中、駆はハヤタロウの首筋に顔を埋めたまま、抗いがたい眠りの淵へと落ちていった。

 白光の疾風となったハヤタロウが、夜の森を駆け抜けていく。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。