ヤタガラス探偵事務所・帝都支部 ――デビルサマナーは大正の夜にバグを穿つ――』 作:ガチャガチャクツワムシ
肉壁と眼球がグチャグチャに蠢く、もはや列車とも呼べない「魔界」。そのど真ん中で、神代駆は欠伸をしながら立ち上がった。
周りでは、煉獄や炭治郎たちがどす黒い触手に絡め取られ、エナジーをズルズル吸い取られている。
「……随分と、深い眠りだねぇ。悪魔の力が混じっちゃ、自力で起きるのは無理か」
駆は懐からガンプを取り出し、シリンダーを弾いて装填を確認した。
師匠の教え通り、内心の警戒はこれっぽっちも表に出さない。ただの「仕事」だと自分に言い聞かせ、飄々とした態度のまま虚空に銃口を向ける。
「……ま、まずはパシリからだ。ザントマン、来なよ」
ガンプのトリガーを引くと、銃口から魔力が弾け、空間が歪んだ。
現れたのは、とんがり帽子を被った小柄な悪魔――ザントマンだ。
「ひひっ、お呼びですか、サマナー」
「仕事だよ。ザントマン、お前の『眠りの砂』を使いな。……ただし、寝かせるんじゃなくて、あいつらの『夢』に干渉して、俺の声を無理やり繋げ」
駆は不敵な薄笑いを浮かべたまま命じる。
「合点承知! ひひっ、お安い御用で、サマナー!」
――夢の中・炭治郎の深層意識
「家族が……みんな、生きてる……」
炭治郎は温かな家族の輪の中にいた。だが、その光景が悪魔の力でどす黒く歪み始める。本来なら首を斬れば起きられるはずが、その覚醒のエネルギーすらも、人形遣いが仕込んだ【精神吸収】のエサにされていた。
『……よぉ、炭治郎。聞こえてる?』
その時、炭治郎の脳内に、いつもの駆の食えない声が響いた。
「え……神代、さん……?」
『相変わらず、騒がしい夢を見てるねぇ。……悪いけど、ここからは剣士(きみら)の仕事じゃないんだ。君の首を斬る覚悟も、熱量も、全部あいつらのエサになってる。……だから、ここからはサマナーの領分だ』
「あ……く、ま……?」
『そう。ルールが変わっちゃってるんだよね。……ま、俺が『道』を作るまで、その絶望とやらを精々耐え抜いてなよ』
――無限列車・車内
ザントマンが役割を終えて消えると、駆はガンプの銃口を、蠢く列車の深部へと向けた。
「呼吸が効かない、物理も吸い取られる。……下弦の鬼にゃ過ぎたオモチャだ。悪趣味なことするなぁ、あいつは」
駆の瞳に、冷徹なサマナーの光が宿る。
「さて……。パシリの次は、掃除(リハビリ)の相手を呼ぶか」
駆はガンプのシリンダーを回し、魔力を込めた。
「……冥府の番犬。ケルベロス、来なよ」
ドォォォォンッ! という轟音と共に、車内を地獄の業火が焼き尽くす。
そこから現れたのは、白銀の身体を持つ獅子の様な姿をした――ケルベロスだ。
『……サマナー、命じろ。焼き尽くせばいいのか』
ケルベロスが吐き出す冥府の焔は、人形遣いが付与した悪魔の耐性すら無視して、魔界化した肉壁を消し炭に変えていく。
「……さあ、ケルベロス。リハビリの時間だ。派手にやろうか」
駆はケルベロスの背を軽く叩くと、ガンプを構えた。
ヤタガラスのサマナーが、悪魔の混じったこの魔窟を、力ずくで「解体」し始める。