ヤタガラス探偵事務所・帝都支部 ――デビルサマナーは大正の夜にバグを穿つ――』 作:ガチャガチャクツワムシ
しのぶとカナエによる「絶対零度」の説教、および道場での苛烈な「再教育」は、駆が適当に受け流しつつ、いつの間にか話をうやむやにすることで表面上は終息した。ボロボロになった服を整え、駆は嵐の去った中庭で、ようやく戻ってきた宇髄天元と二人きりで向き合った。
「……なるほどね。嫁が三人。しかも全員くのいちで、そいつらと連絡が途絶えた、と」
駆は指先で顎をさすり、信じられないものを見るような目で宇髄を見た。
「天元、お前さん……。一人でも面倒そうなのに、よく三人も嫁なんて貰う気になったね。そのバイタリティだけは尊敬するよ。……まあ、センスは相変わらず壊滅的だけど」
「黙れ! 俺様は祭りの神だ、嫁が三人いるのも派手で当然だろうが!」
宇髄は鼻で笑ったが、その瞳には嫁たちを案じる色が混じっている。駆はそんな彼に、先ほど姉妹の逆鱗に触れる原因となったサキュバスとリリムを再び示して言い放った。
「まあいいや。だったら余計に、こいつらを使えよ。潜入能力は言わずもがな……。何より、こいつらは悪魔だ。もし任務中に死んでも、俺がまた全書からロードして呼び直せばいいだけだからな。使い捨てろとは言わないが、人間よりよっぽど『使い勝手』がいいぞ」
駆はまるで道具の性能を説明するかのように淡々と、冷徹なまでの合理性を口にした。普通なら「仲魔」に対する非道な物言いに周囲が凍りつく場面だが──。
「あはは、サマナーの言う通りよ。肉体が消えても、また呼んでくれればいいしね」
「そうそう。死ぬのは慣れっこだし、次はもっと可愛く召喚してくれれば文句ないわよ」
サキュバスとリリムは、主人の言葉を否定するどころか、事も無げに、当然の権利であるかのように笑って受け入れた。
「…………」
さすがの宇髄も、その異常な主従関係には言葉を失った。
命を懸けて嫁を救おうとしている男にとって、「死んでも呼び直せばいい」と平然と言ってのける駆と、それを笑って受け入れる悪魔たちの価値観は、鬼よりも理解しがたい「ナニカ」に映ったのだ。
「……神代。テメェ、思ってた以上にマトモじゃねぇな……」
ドン引きして一歩身を引く宇髄に対し、駆は心底不思議そうに肩をすくめた。
「何だよ。効率の話をしてるんだ。死ねば再構成すればいい。これはデビルサマナーにとっても、そして使い魔である悪魔にとっても共通認識だぜ。この世界の人間が抱くような、たった一つしかない『命』という重苦しい概念は、俺たちには存在しねぇんだ。……それとも、もっと情に訴えるような三流脚本みたいなセリフが聞きたかったか?」
駆はそう吐き捨てると、戸惑う宇髄を置き去りにして、遊郭への「ハデな」潜入準備に取り掛かるのだった。その背中は、この世界の理から完全に切り離された、召喚師(サマナー)としての冷徹な異質さを色濃く漂わせていた。