ヤタガラス探偵事務所・帝都支部 ――デビルサマナーは大正の夜にバグを穿つ――』 作:ガチャガチャクツワムシ
吉原遊郭、その煌びやかな大門の前。
不夜城特有の喧騒と、微かな化粧と酒の匂いが混ざり合う夜の帳に、四人の男たちが顔を突き合わせていた。音柱・宇髄天元は、自身の嫁たちの救出という独自ルートへ踏み込むべく、一瞬にして夜の闇へと溶け消えている。
駆は、着慣れぬ豪奢な羽織を邪魔だとばかりに脱ぎ捨て、吉原の風景に完璧に同化する地味な奉公人の着物に着替えていた。その傍らには、いささか緊張した面持ちの炭治郎、善逸、伊之助の三人が控えている。
「……いいか。宇髄とは別行動だ。あちらはあちらのやり方がある。俺たちは俺たちのやり方で、今からこの街に潜む『不自然』を洗い出す」
駆は、束ねた数通の封筒を、淡々とした手つきで三人に分配した。
「これは『見受けの親書』だ。これを、指定した店に一通ずつ確実に届けてこい。宛名は『りり』と『さき』だ。いいか、店に入ったら店員に渡すんじゃなく、部屋の主人に直接手渡ししろ」
「はい! 駆さん! 承知しました! 主様も大事な手紙だと仰っていたんですね、必ずや!」
炭治郎が手紙を大切そうに懐へ収める。傍から見れば、熟練の奉公人の先輩が、不慣れな後輩たちに仕事を教える、吉原ではどこにでもある日常の一コマにしか見えない。
「……善逸。お前は放っておくと興奮して何しでかすか分からん。伊之助、お前が何かあったらこいつの首根っこを掴んでおけ。そして二人で動け。炭治郎は一人で任せる。いいな」
「ええっ!? なんで俺だけ伊之助と……! 駆さん、俺だって一人で格好良く女の人に手紙を届けたいのに!」
「……お前、放っておくと遊女にうつつを抜かすだろ。監視役だ。伊之助、頼んだぞ。こいつが女に色目を向けたり、余計な動きをしたら、殴っててでも止めろ」
「おう! 任せろ! この『猪突猛進』の伊之助様が、この弱虫を引きずり回してやるぜ!」
伊之助に強引に襟首を掴まれて連れ去られる善逸を見送り、炭治郎も深く頷いて人混みへと消えていった。
一人残された駆は、懐から自分用の手紙を一枚だけ取り出す。その封筒の裏には、肉眼では認識できないほど緻密な「悪魔召喚」の紋章が刻印されていた。
「……さて。宛先不明なんて、効率の悪い真似はさせないぞ。エラーを吐き出すのは、いつも隠された場所だからな」
駆は「主の使い」という凡庸な奉公人の顔を作り、音もなく人混みの雑踏へと紛れ込んだ。
手紙という名の「インデックス」を街中に配り歩くことで、吉原という巨大なデータベースの中で、情報が書き換えられた「エラー」の場所を物理的にあぶり出していく。それが、デビルサマナー・神代駆の冷徹な捜査手法だ。
「……二階、西側。……炭治郎が叩いた部屋の奥で、気配が一つ、不自然に膨れ上がったな。……当たり(ヒット)か」
駆は、頭のなかで集まった情報を一つに纏め、手に持った手紙を軽く弄びながら、獲物の喉元へと、一歩ずつ確実に、そして静寂に距離を詰め始めた。