ヤタガラス探偵事務所・帝都支部 ――デビルサマナーは大正の夜にバグを穿つ――』   作:ガチャガチャクツワムシ

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死線の回生、サマナーの福音

 瓦礫の山と化した吉原の街に、絶望の完成を告げる声が響く。

 宇髄天元は左手を失い、毒に侵され倒れ伏していた。伊之助は胸を深く貫かれ、善逸は瓦礫の下で身動きが取れない。炭治郎は震える足でかろうじて立ち上がっていたが、その喉元には妓夫太郎の毒鎌が肉薄していた。

 一方、堕姫は上空で帯を奔らせ、逃げ惑う人々や瓦礫を切り刻みながら高笑いを上げる。

「アハハッ! 見なさいよこの無様な姿を! 全員まとめて刻んで、お兄ちゃんの毒で腐らせてあげるわ!」

「……アハハッ、いい絶望だ。……お前ら全員、惨めに死ねよなぁ」

 勝利を確信した妓夫太郎が嘲笑い、炭治郎を屠らんとした、その瞬間。

「……やれやれ。たかが数十分席を外しただけで、これか。これじゃ『貸し』どころか『大赤字』だな」

 戦場の重苦しい空気を、場違いなほど軽やかで、それでいて底冷えする声が切り裂いた。

 瓦礫の影から姿を現したのは、神代駆。緊迫した空気などどこ吹く風といった様子で、肩に担いだガンプを指先で弄びながら、悠然と歩み寄ってくる。

「な、……駆さん……っ!?」

「よう、炭治郎。随分と派手にやられたな。……まあ、お前が無事ならそれでいい。……死ぬにはまだ早いぞ。回復スキル、『メディラマ』。……ついでだ、『アムリタ』も乗せてやる。これは俺からのサービスだ」

 駆が指先でシリンダーを弾くと、ガンプが小気味よい音を立てて回転し、青白い燐光を放ち始めた。

 その光が炭治郎や宇髄、そして瀕死の伊之助たちを包み込む。

 宇髄の血管を焼いていた毒が霧散し、止まっていた心臓が跳ねるように鼓動を再開した。炭治郎の折れた指も、伊之助の深く貫かれた傷口も、まるで時間を巻き戻したかのように塞がっていく。

「……毒が、消えた……? 傷まで……!? お前、一体何をした……」

 驚愕に目を見開く宇髄に対し、駆は口元に薄い笑みを浮かべた。

「動けるならさっさと刀を構えな、宇髄。せっかく俺のMAGを注ぎ込んでやったんだ。……死なせやしないから、存分に働け」

 駆は、呆然と立ち尽くす妓夫太郎と、上空で攻撃を止めて凝視する堕姫を、まるで道端の石ころでも見るような目で見つめた。その視線を受けた鬼たちが、同時に総毛立ち、一歩後退りする。

「……兄ちゃん、こいつ。……こいつ、あの時の……!」

「ああ、間違いない。……三年前、童磨様の獲物を掠め取り、先日も猗窩座とさえやり合って生き残った……あの『理外のガキ』か……ッ!」

 名前こそ知らぬが、鬼たちの間で共有されていた「最警戒対象」。

 だが、対する駆は、彼らの名前すら呼ぶことはなかった。

「……ああ、三年前の。……あの派手な氷使いと、先日会ったばかりの五月蝿い拳法家の仲間か。類は友を呼ぶっていうが、お前らもなかなかに不細工な磁場(オーラ)をしてるな」

 駆は、目の前の二人を値沈みするように眺め、鼻で笑った。

「磁場の混ざり方を見るに、お前ら二人で『一つ』の個体なんだな。……なるほど、道理で妙な歪み方をしてるわけだ。解くのが面倒なパズルだな」

「……この野郎……ッ! なめやがって……!」

 妓夫太郎が顔を歪め、殺意を爆発させる。だが、駆はさらに肩をすくめて挑発した。

「……あの氷使いや拳法家に比べれば、お前らの『位』は少し退屈だな。……一応、上弦なんだろ? 三年前や先日の経験からすれば、これならまた容易く『押し通せる』な。……さて、サッサと片付けて美味いもんでも食いに行こうぜ、宇髄」

 かつて上位の上弦を相手に立ち回り、生き延びてみせたサマナーの絶対的な自信。

 駆のヒールによって死線の淵から「全快」で引きずり戻された鬼殺隊の面々が、その不敵な言葉に呼応するように、再び牙を剥く。

「……行くぞ、宇髄、炭治郎。……さっさと終わらせて、この事件を終わらせるぞ」

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