ヤタガラス探偵事務所・帝都支部 ――デビルサマナーは大正の夜にバグを穿つ――』   作:ガチャガチャクツワムシ

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反撃の時、3年前の真実

「――ここの調査はもう終わりだ。全員、外に出るぞ」

 駆の短く、有無を言わさぬ指示に、柱たちは言葉を飲み込んで地下室を脱出した。地上の月明かりの下へ出た瞬間、駆はガンプの全機能を解放する。

「……召喚。四神を束ね、大空を統べろ。四神をも越えるのさらなる高み、コウリュウ!」

 夜空が黄金の輝きに割れ、四神の長たる『聖獣 コウリュウ』が顕現した。そのあまりに神々しい威容に、柱たちは息を呑み、圧倒される。

「……乗れ! この場所ごと、外道の跡形も残さず消し飛ばす」

 駆に促され、困惑しながらも黄金の龍の背に飛び乗る柱たち。コウリュウが天高く舞い上がり、眼下の廃寺が夜の闇に沈む豆粒のような点になった時、駆は再びガンプの端末を叩いた。

「……来い。その業火で、全てを無に帰せ。プロメテウス」

 ガンプから迸る青白い魔力が形を成し、巨大な炎の知恵を持つ『魔神 プロメテウス』が空中に実体化した。その手に宿る力は、この世界の「呼吸」とは根本的に異なる、高密度の万能魔力。

「……万物を一つ残らず、塵に還せ! メギドラオン!」

 駆の冷徹な号令と共に、プロメテウスが究極の万能魔法を練り上げる。

 放たれたのは、全てを透過する白銀の閃光。

 爆炎も衝撃波も発生しない。ただ、光が触れた箇所の「存在」そのものを否定するように、人形師(パペッティア)の実験室、そこに囚われていた肉塊、無惨な遺体、そして残存する穢れた磁場を、分子レベルで消滅させていく。

 光が収まった後、そこには完璧なまでの「無」が広がっていた。建物も、地下への入り口も、そこにあった歴史さえもが、ただの空虚へと書き換えられていた。

「メギドラオン」が消し去った跡地。完璧な「無」のクレーターを前に、駆は静かに、だが柱たちの胸を抉るような「あの日の続き」を語り始めた。

「……忘れたわけじゃないだろう。三年前。俺と四神達、そして煉獄、宇髄、冨岡、不死川。お前たち四人と共に、あの『人形』を叩き潰した後の……あの緊急会議のことを」

 その言葉に、名指しされた四人の柱達としのぶ、悲鳴嶼と当時まだ一般であった甘露寺と伊黒は表情が強ばる。当時まだ鬼殺隊に所属していなかった時透は、その異様な空気に飲まれ、静かに推移を見守るしかない。

「……あの戦闘で人形を壊したことで、奴にこの世界を感づかれた。だから俺は、あの直後の緊急会議でお前たちへ『鬼の即時殲滅』を提案するつもりだったんだ。奴が本格的な調査や介入を始める前に、鬼を根絶やしにしてこの世界の火種を消す。そうして人形師(パペッティア)に『もうこの世界を調べる価値はない』と思わせる……それが俺やヤタガラスが立てた、唯一の対抗策だった」

 だが、と駆は自嘲気味に瞳を細め、言葉を継いだ。

「あろうことか、会議の最中に、俺たちの戦いの余波が磁場を歪ませ、最上位悪魔の異界まで呼び寄せちまった。……あれは俺の計算違いであり、ただの想定外の『事故』だ。誰が悪いわけでもない。あの異界を放置すればこの世界に大きな悪影響が起きたことは明白だ。だから俺は中に飛び込んで閉じるしかなかった。それに三年前の俺じゃ人形師(パペッティア)には到底勝てない。奴がこの世界の詳細を調べ始める前に俺と言う存在が居なくなることが最善だったんだ」

「……南無阿弥陀仏。その三年間、貴殿が独りでどのような地獄を歩んだか……察するに余りある。我らの力不足を、どうか許してほしい」

 悲鳴嶼が深い悔恨の涙を流す。しのぶもまた、握りしめた拳を震わせ、駆の背負ったものの重さに唇を噛んだ。

「勘違いするなと言ったはずだ。あの状況で、あの選択肢しかなかった。それだけのことだ。……ただ、あの異界に入ったのが絶望だけじゃなかったのは、唯一の幸運だったな」

 駆はどこか遠くを見るような、それでいて強い敬意を宿した瞳で言葉を重ねる。

「そこで出会ったんだ。俺とは同じ『理』を持ちながら、最上位の神や魔王を従える奴らに。……彼らは本当に凄かった。魂を削りながらも、過酷な運命を切り拓くその高潔な姿に、俺は心から救われたし、今でも深く尊敬している。彼らとの出会いがあったからこそ、俺は自分をさらに強化することができたんだ。彼らが命を懸けて繋ぎ、俺に教えてくれた力が、今の俺には流れている」

 駆はガンプを腰に納め、冷徹な殺意を宿した瞳で夜明けの先を見据えた。

「……おかげで、ようやくあいつ……人形師(パペッティア)に食らいつける存在になれた。三年前なら一方的に弄ばれて終わりだったが、今は違う。……いつまでも過ぎたことに囚われてる暇はないぞ。奴の傲慢な『創作』を、俺たちの手でぶち壊してやる。――ここからは、俺達の反撃だ」

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