ヤタガラス探偵事務所・帝都支部 ――デビルサマナーは大正の夜にバグを穿つ――』 作:ガチャガチャクツワムシ
里の中央に「黄金の龍」が着地し、里中の刀鍛冶たちが腰を抜かすという未曾有の大混乱。その喧騒を背中で聞き流しながら、駆は目的の場所──里長である鉄地河原鉄珍の屋敷の門を叩いた。
「お初にお目にかかります、鉄珍様。産屋敷様よりお話は伺っているかと思います。……神代駆です」
現れたのは、ひょっとこの面を被り、どこか愛嬌のある仕草で歩く小柄な老人だった。鉄珍は面越しに駆をじろじろと眺め回し、それから高く、弾むような声で笑った。
「おお、お主が神代殿か。噂には聞いておったが、よもや龍に乗って現れるとは。里の連中がひっくり返っておるぞ、面白い子じゃの。……まあ、上がりなさい。茶を淹れよう」
鉄珍は駆を工房へと招き入れる。そこには、駆が先行して送り届けていた試作品の数々──異界の理を組み込んだ『練具』が並んでいた。
「これらの武器こ持ち主がお主か。実に興味深い、そして恐ろしい代物じゃの。里の若い連中には、まだこの理を理解させるのは早すぎるかもしれん。……だが、儂ら職人の血を沸かせるには、十分すぎるほどの上物じゃ」
鉄珍は職人特有の鋭い眼差しで駆を見据える。そこには、得体の知れない力への警戒よりも、新たな技術への純粋な好奇心が勝っていた。
「鉄珍様、そう言っていただけると助かります。挨拶代わりに……実演を兼ねて、この里の鍛錬の場を少しお借りしたい。見せたい存在がいるんです」
駆は里の広場へと移動し、ガンプを抜いた。集まった職人たちが、恐る恐る、しかし興味を抑えきれずに見守る中、駆は迷わずトリガーを引く。
「来い! 地霊イッポンダタラ!」
爆炎と共に、巨大な一本足と一本腕を持つ、鍛冶の化身が姿を現した。
召喚された瞬間、そいつは愛用の巨大な槌を振り回し、鼓膜を震わせるようなハイテンションな声を上げる。
「ヒャッハァーッ! 叩くぜぇ、叩くぜぇーッ!! 良い火、良い鉄、良い仕事だぁ!」
「うおぉっ!? な、なんじゃこの化身は!」
「一本足……! まさしく鍛冶の神話にある姿そのものではないか!」
職人たちがどよめき、同時にその熱気に当てられて目を輝かせる。
駆は試しにと、近くにあった手頃な一振りを受け取った。
「鉄珍様、試しにこの刀へ初級のスキル──火炎属性の『アギ』を付与してみます。ただ、事前に伝えておきます。……今の刀のままだと、壊れる可能性がありますよ。もしかしたらバキッといくかもしれない」
「ほう、壊れるかの。……構わん、やってみせなさい。壊れるということは、器が足りんということじゃからな。楽しみじゃの」
駆がイッポンダタラに目配せすると、怪異の槌が真っ赤に熱を帯び、刀身を鋭く叩いた。
瞬間、激しい熱量と共に刀身が赤く発光する。だが、その輝きは長くは続かなかった。
──パキィィッ。
乾いた音と共に、美しい波紋を描いていたはずの刀身がボロボロと崩れ落ちた。異界の法力という奔流に、日輪刀の強度が物理的に追いつかなかったのだ。
「……やはり、並の鉄では器になれませんか。すいません、一振りダメにしました」
「……いや。今の一瞬、確かに『理』が宿ったのを見たぞ。愉快じゃ、これほど愉快なことはないの! 職人の矜持にかけて、この異界の力を研ぎ澄ましてみせようぞ!」
それから数日の間、里の至る所で鉄を打つ音が、これまで以上に高く、激しく響き渡り始めた。イッポンダタラと里の職人たちが文字通り「熱く」ぶつかり合い、異界の素材をどう組み込むかの試行錯誤が続く。
そして数日後。
駆は、里の入り口へ目を向けた。隠の背に負われ、ようやく里に到着した少年の姿を捉える。
「さて……炭治郎もようやく着いたか」
駆は手元のガンプの弾倉を確認し、冷徹に、しかしどこか期待を込めた口調で独りごちた。
「あいつには、少し『特別』な特訓を受けてもらう必要があるからな。死ぬなよ、炭治郎」