ヤタガラス探偵事務所・帝都支部 ――デビルサマナーは大正の夜にバグを穿つ――』 作:ガチャガチャクツワムシ
修行開始から数時間。炭治郎たちの体はボロボロになり、練習刀は刃こぼれだらけだったが、その瞳には確かな光が宿り始めていた。オニの重圧を『一文字斬り』で弾き返し、玄弥も『暴れまくり』の反動を制御しつつある。
その光景を、少し離れた場所から固唾を呑んで見守る一団があった。鉄珍を筆頭とした里の職人たちだ。自分たちが打つ刀が、異界の理(スキル)を宿した時、一体どのような現象を引き起こすのか。その真髄を見極めるべく、彼らもまた「見学」に訪れていた。
「……ふむ。理屈は分かってきたみたいだな。なら、仕上げだ。職人さんたちも、これから打って貰う刀に宿る事になるスキルを、その目で見ておくといい」
駆は齧りかけのリンゴを放り捨てると、ゆっくりと腰を上げた。その手には、愛用のガンプ。
「オニ、お疲れさん、下がっていいぞ。……次は、俺の模擬戦だ」
駆がシリンダーを高速で回転させ、引き金を引く。溢れ出すMAGが渦を巻き、空間を切り裂いて一人の戦鎧を纏った男が姿を現した。
「召喚──ヨシツネ」
さらに駆は、あらゆる属性の「性質」を職人たちに見せつけるため、立て続けにトリガーを引いた。
「先程よりも上位の属性の理を全て見せてやる。──来い、キングフロスト、ホウオウ、ガルーダ、タケミカヅチ、パワー、ピシャーチャ!」
空間が歪み、巨大な雪だるまの王、燃え盛る神鳥、嵐を纏う怪鳥、雷光を背負う武神、翼を持つ天使、そして不気味な怨霊が次々と降臨した。その圧倒的な魔圧に、里の職人たちは「ひぃっ」と声を漏らし、炭治郎たちは息を呑む。
「……神代さん、その方は一体……?」
「ああ、こいつは源九郎義経。あんたたちの世界でも有名だろ? ……もっとも、死後にこっち側の理で『悪魔』として再構成された姿だけどな」
駆のさらりとした言葉に、その場にいた全員が凍りついた。
「よし……つね!? 源義経公ですか!? 歴史の本に載っている、あの……!?」
「ええええっ!? 本物の義経様!? 嘘、すっごく格好いいじゃない! 立ち姿がもう凛々しくて素敵……!」
炭治郎が驚愕し、甘露寺が頬を染めて身悶えする。職人たちは伝説の英雄の登場に「南無三……」と拝み始めた。義経は不敵に笑い、自らの得物の柄に手をかけた。
「はっはっは! 良い面構えだ。主殿、今日は俺の相手をしてやろうというのか? 些か、骨を折ることになるぞ!」
駆は笑いながらダガーナイフを抜き放ち、ガンプを構えた。
「行くぞ。……ま、死なない程度に遊んでやるよ。ヨシツネ、出し惜しみはなしだ。お前らも、各々の属性を最大限に回せ。上位のスキル位の威力になるまで引き上げろ」
駆が地を蹴った瞬間、ヨシツネの全身から立ち昇る闘気が嵐となって周囲をなぎ倒した。ヨシツネが地を蹴る。その瞬間、彼の姿が八つに分身したかのような錯覚を覚えるほどの超高速移動──『八艘飛び』が放たれた。
「……っ! 速すぎる!」
炭治郎達には分身したように見えている中、八方からヨシツネの斬撃が迫り、同時にキングフロストの氷結『マハブフーラ』が山肌を瞬時に凍結させ、ホウオウの火炎『アギラオ』が天を焦がす。タケミカヅチの電撃『ジオンガ』が閃光を放ち、ガルーダの衝撃『マハザンマ』が真空の刃で周囲の巨岩を断つ。しかし、それだけではない。パワーが放つ破魔の輝き『ハマオン』が浄化の光を撒き散らし、ピシャーチャが呪殺の霧『ムドオン』を駆にむかって這わせる。それらに対抗するように、
「悪いな、こっちも纏めて倒せる対処法は持ってるんだ。──『デスバウンド』!『メギド』!」
駆が放った一撃は、空間そのものを激しく波打たせ、全方位へと広がる衝撃の「壁」となって義経の分身を打ち砕き、迫る全属性の魔術を真っ向から相殺した。激突の余波で、鍛錬場の地面がクレーターのように陥没し、凄まじい土煙が舞い上がる。
「……今回は、ここまでにするか」
駆が静かにガンプを収めると、土煙の中から義経たちが涼しい顔で歩み寄ってきた。
「はっはっは! いやはや、主殿の剛力には恐れ入る。職人殿、今のを見たか? これがお主らがこれから打つ刀に宿るべき『可能性』だ」
呆然と立ち尽くす炭治郎たち。そして、あまりの衝撃に言葉を失いながらも、その目に異常なまでの熱を灯す職人たち。鉄珍様が震える手で、凍てつき、焼け焦げ、光と闇に打たれた地面を撫でた。
「……これじゃ。氷、火、雷、風、そして光と闇……。万象を宿す『器』……。打ってやる、打ってやるぞ、この命に代えても! 職人の矜持を見せてくれるわ!」
「いいか、今あんたたちが練習刀で使ったのは、こいつらが持つ力のごく一部だ。上位のスキルは、肉体だけじゃなく空間や因果さえも切り裂く。上弦の鬼を倒したいなら、せめて今の模擬戦の『風』くらいにはついてきてもらわないとな」
駆の冷徹な言葉に、炭治郎たちは己の未熟さを痛感しながらも、目の前に示された「武の極致」に、魂を震わせていた。