ヤタガラス探偵事務所・帝都支部 ――デビルサマナーは大正の夜にバグを穿つ――』 作:ガチャガチャクツワムシ
「あ、あ、あああああ……っ! 私の……私の芸術があぁぁ……!!」
玉壺がソロネの放つ浄化の光に呑み込まれ、その醜悪な執着と共に消滅していく。
その光景を、部屋の隅で縮こまって見ていた半天狗は、ガチガチと歯を鳴らして震え上がった。
「ひぃぃぃっ! 何じゃあいつは! 鬼より恐ろしい、あれは神か仏か!? 怖い、怖い、助けてくれぇぇ!」
戦う意思など微塵も見せず、ネズミのような素早さで床板を突き破り、外へと逃げ出した。だが、ただ逃げるだけではない。彼の背後からは、人形師の術式によって無理やり引き出された「負の魔力」が、どろりとした黒い霧となって溢れ出していた。
「……逃がすかよ、臆病風の塊が」
駆は愛銃ガンプを回しながら、背後の炭治郎たちに鋭い視線を送った。
「炭治郎、無一郎! 蜜璃ちゃんに玄弥も! あの爺さん、逃げ足だけは一丁前だ。だが、逃げるたびに人形師の仕込んだ『自動迎撃』が発動するぞ。……修行で叩き込んだ立ち回り、忘れるなよ!」
「はいっ! 行こう、みんな!」
炭治郎たちが一斉に外へ飛び出す。
案の定、里の森へ逃げ込もうとした半天狗の体が、逃走のストレスで急激に膨れ上がった。
「いじめないでくれぇ! 儂は何も悪くないぃぃ!」
その叫びと共に、半天狗の体から四体の分裂体──積怒、可楽、空喜、哀絶が弾け飛ぶ。だが、今回は本来の血鬼術だけではない。人形師が貸し与えた中級悪魔のコアが、それぞれの得物に凶悪な「属性の力」を強制付与していた。
積怒の錫杖からは中級電撃『ジオンガ』が、可楽の団扇からは中級衝撃『ザンマ』が、そして空喜の口からは中級火炎『マハラギ』の咆哮が放たれる。
「……っ! これが駆さんの言っていた『悪魔の力』か……! でも、見える。あの地獄のような特訓のおかげで、力の流れがはっきりと見えるぞ!」
炭治郎は、修行で手にした試験刀を正眼に構えた。
本来なら初見で命を刈り取る積怒の雷撃。だが、炭治郎は刀身に定着したスキル『突貫』を迷わず起動させる。
「水の呼吸、拾ノ型、生生流転……に、『突貫』の加速を乗せる!」
雷が着弾するよりも早く、物理法則を捻じ曲げた加速が炭治郎を突き動かした。雷撃の隙間を縫い、属性の圧力を「受け流す」のではなく「切り裂いて」前進する。
「無一郎! 右の風を頼む!」
「わかってる。……あのオニの攻撃に比べれば、まだ遅いよ。……『切込み』の真空で、あの風圧を相殺(キャンセル)するだけだね」
無一郎もまた、無表情ながらも鋭い一閃を放つ。可楽の巻き起こす暴風に対し、刀身の真空スキルをぶつけることで、衝撃波のエネルギーを無効化してみせた。
一方、屋敷に残った駆の前では、さらなる異変が起きていた。
半天狗が「殿」として置き去りにしたヌエやピシャーチャ、そして消滅しかけていた玉壺の残滓。それらが人形師のどす黒い魔力の糸によって、強引に編み上げられていく。
「……外法合体(デビルフュージョン)か。中級同士を無理やり掛け合わせて、上位の器をデッチ上げようって魂胆だな。反吐が出るぜ、その安っぽい錬金術によ」
肉塊が弾け、そこから這い出したのは、複数の首と無数の腕、そして黄金の鱗を持つ異形の巨獣──本来の悪魔合体ではあり得ない、歪な「キメラ」だった。
「グゥォォォォォンッ!!」
咆哮一つで屋敷の屋根が吹き飛ぶ。合体によって引き上げられた魔力は、周囲の空間を物理的に軋ませ、火炎と雷撃が混ざり合った混沌としたエネルギーを撒き散らした。
「いいぜ。露払いにしては、少しは骨がありそうだ。……ソロネ、手出しは無用だ。こいつは、俺が直接叩き潰す」
駆は上位天使を待機させると、あえて自らの足で地を蹴った。手にしたダガーナイフには、ガンプから流し込んだ高密度のMAGが黄金の光となって纏っている。
「物理には物理をぶつける……。それが俺の出した解答だ。──死ね、ゴミ溜めの塊が!」
キメラの放つ合体魔法が空間を焼き尽くそうとするが、駆はその最短距離を、物理法則を無視した踏み込みで突破する。巨獣の懐に潜り込み、黄金の刃を突き立てた。
「……丁寧に少しずつバラしてやるよ。三流作家のパッチワークが」
駆の一閃。それは単なる斬撃ではなく、空間そのものを切り分ける衝撃波。巨獣の腕が、首が、人形師の術式ごと「物理的に」解体されていく。再生しようとする肉体を、駆はガンプの零距離射撃で粉砕し続けた。