ヤタガラス探偵事務所・帝都支部 ――デビルサマナーは大正の夜にバグを穿つ――』 作:ガチャガチャクツワムシ
一方、里の森の中。炭治郎たちが追い詰めていた四体の分裂体にも、決定的な異変が起きていた。
「ひ、ひぃぃぃっ! 怖い、助けてくれぇ! 儂をいじめるなああぁぁ!」
半天狗の絶叫が夜の森に響き渡る。その瞬間、逃げ惑う本体を核にして、積怒が他の三体を強引に引き寄せ、肉の壁となって融合を始めた。
「……っ! 合体させる気か! させない!」
炭治郎が鋭く踏み込むが、それよりも早く、天から「人形師」のどす黒い術式が降り注ぐ。
『──上位魔法コア:マハラギダイン。出力、接続完了』
無機質なシステム音声が響くと同時に、合体した肉体から幼子の姿をした鬼──憎珀天が誕生した。背負った太鼓が不気味に脈動し、そこには本来の血鬼術を超えた、異界の上位魔法の刻印が禍々しく浮かび上がっている。
「……極悪人共め。弱き者を、これ以上虐めるな」
憎珀天が太鼓を叩いた瞬間、森の木々が龍の如き「木龍」へと変貌し、その口からは修行で見たそれとは比較にならない熱量の劫火が吐き出された。
「……っ! 熱い、さっきまでとは全然違う! 炭治郎、危ないっ!」
蜜璃が叫び、愛刀を振るう。だが、人形師から「上位魔法の欠片」を与えられた憎珀天の攻撃は、もはや単なる属性攻撃ではない。それは空間そのものを焼き尽くし、押し潰す「概念」の暴力へと変質していた。
「ひるむな! 駆さんに教わったことを思い出せ! 物理の理で、あの魔法の『軸』を叩き斬るんだ!」
炭治郎は、焦げるような熱気の中でスキルが宿った日輪刀を握り直し、上位魔法の嵐へと真っ向から突っ込んでいった。木龍が咆哮し、周囲の空間が歪むほどの圧力が襲いかかる。しかし、彼は義経との模擬戦で体感した「物理の風」を、その全身の感覚で捉えていた。
「……見えた! 糸だ! 魔法の構成を繋いでいる、あの『不純物』の糸!」
炭治郎の鼻が、人形師の残した薄汚い契約の臭いを嗅ぎ分ける。
「させないわよ……っ! 乙女の怒りを舐めないで!」
蜜璃がしなやかな太刀筋で木龍の頭部を弾き飛ばし、
「……邪魔。その魔法ごと、切り刻むだけだから」
無一郎が氷のように冷徹な一閃で追撃する。
「ガアアッ! こいつで風穴開けてやるぜぇ!!」
玄弥がガンプの衝撃波を零距離で叩き込み、憎珀天の体勢を完全に崩した。
そのわずかな隙を突き、炭治郎は刀身に宿る**『突貫』**の理を爆発させる。
「ヒノカミ神楽、円舞──!!」
燃え盛る炎の刃が、上位魔法の壁を無理やりこじ開けた。本来なら届かないはずの距離。だが、試験刀に刻まれた異界の法力は、炭治郎の踏み込みを「物理的に加速」させ、憎珀天の胸元へと到達させた。
凄まじい衝撃波が森を揺らし、憎珀天の太鼓の一つが砕け散る。人形師の術式が火花を散らし、一時的に魔法の供給が途絶えた。
「今だ! みんな、畳み掛けろ!」
呼応し、無一郎、蜜璃、そして玄弥の連撃が重なる。上位魔法という厚い衣を剥がされた憎珀天は、逃げ惑う本体を守るために必死に木龍を操るが、修行を完遂した剣士たちの前には、その防壁も紙細工に等しかった。
最後は、夜明けの光が森の端に差し込む中、炭治郎の一閃が逃げ隠れる半天狗の本体を捉えた。
「……あ、ああ……。儂は……何も……悪く……」
泣き言と共に、卑怯なネズミのような本体は灰へと変わっていく。人形師との契約が強制解除され、周囲に漂っていた異界の魔力も霧散していった。
戦いが終わり、朝日の中で炭治郎たちは膝をついた。
「はぁ、はぁ……。やった、のか……?」
炭治郎が肩で息をしながら呟き、
「……凄かったわね、みんな。私、ドキドキが止まらないわ!」
蜜璃が頬を紅潮させて微笑む。
「……悪くない。駆さんの言ってた通り、理屈さえわかれば斬れないものなんてないんだ」
無一郎が自身の刀を見つめて呟き、
「……ケッ、死ぬかと思ったぜ。……だが、悪くねえ気分だ」
玄弥が荒っぽく鼻を鳴らした。
そこへ、衣服に返り血すら浴びていない駆が、悠々と歩み寄ってくる。
「……お疲れ。どうにか間に合ったみたいだな」
駆はボロボロになった彼らの刀を見やり、満足げに口角を上げた。
「教えた通り、物理で理を叩き伏せた。合格だよ、あんたたちは」
その言葉と同時に、鋼鐵塚が精魂込めて打ち直した刀が、駆の手によって最終調整(エンチャント)を受ける。「神代モデル」として新生した日輪刀は、朝日に照らされ、異界の理を宿した黄金の輝きを放っていた。