ヤタガラス探偵事務所・帝都支部 ――デビルサマナーは大正の夜にバグを穿つ――』 作:ガチャガチャクツワムシ
里での激闘を越え、産屋敷邸の庭には、抜き放たれた数振りの刃が朝光を跳ね返していた。あの「暴れ馬」の練具を研究材料とし、鋼鐵塚が執念で打ち直し、駆が調整を施した新規格日輪刀──「神代モデル」。その性能試験に、柱たちは驚愕を隠せない。
「……ほう、これが神代殿の調整した刃か」
煉獄が炭治郎の刀を振るう。一閃ごとに黄金の微光が尾を引き、大気を微かに震わせる。
「以前、我々に一時貸与された『練具』に比べれば、純粋な破壊力や出力は一段落ちる。だが……」
「驚くべき馴染みの良さだ」
悲鳴嶼が数珠を鳴らし、その手応えを語る。
「まるで己の腕の延長。あの暴れ馬のような練具に振り回される危うさが一切ない。これならば、呼吸の型を阻害せず、むしろ内側から増幅させることができる」
「当たり前だ。あれはあくまで『異界の規格』を押し付けた代物だ。だが今回のは、日輪刀の特性を核に据え、あんたたちの技術を120%引き出すための専用ブースターなんだよ」
駆が不敵に笑う傍らで、無一郎や蜜璃が実際に里で「上位魔法スキル」を切り伏せた実感を語る。産屋敷耀哉は静かに微笑み、新たな希望の光をその瞳に映していた。
無限城の最深部。鬼舞辻無惨は、かつてないほどの昂揚感に身を震わせていた。
玉壺と半天狗、二体の上弦を失った屈辱など、今この瞬間の歓喜に比べれば塵芥に等しい。
「……ついに。ついに太陽を克服した者が現れたか!」
無惨の緋色の瞳が爛々と輝き、その顔に醜悪な笑みが浮かぶ。
炭治郎の妹、禰豆子が太陽の下で生きている──その報告は、千年もの間探し続けた「青い彼岸花」以上の価値を持つものだった。
「もはや『青い彼岸花』など探す必要はない。あの娘を喰らえば、私は真に完全な生物となれる! あの男や産屋敷など、その後でゆっくりと塵に帰してやればいいのだ」
無惨の膨れ上がる欲望は、そのまま無限城全体を激しく震わせる。目的が明確になった今、彼の手段は「殲滅」から「奪取」へと移行し、その執念は更なる凶行へと彼を突き動かした。
一方その頃。駆が元々いた世界──。
薄暗い人形師の隠れ家では、監視用に放たれた低級悪魔の視界を通じ、一連の流れを見ていた本人が、一人芝居のように両手を広げていた。
「ああ、素晴らしい! 完璧だ、実に私の脚本通りじゃないか!」
そこには、もはや恭しい敬語も、無惨への敬称もありはしない。本人がいないこの場において、人形師の本性が剥き出しになる。
「無惨があんなにも滑稽に、太陽だの完全な生物だのと狂喜乱舞してくれるおかげで、私の実験もさらに加速できる。あの男が執着を強めれば強めるほど、手段はいくらでも増えるからね」
彼はステップを踏むような足取りで、魔法陣が刻まれた作業机の周りを歩き回る。空中に浮かぶ、玉壺や半天狗が解体された記録を指先で弾いた。
「有象無象の鬼どもを幾ら失おうと、私にとっては最高のデータ収集だ。神代駆……君がこの世界の有象無象をどうアップデートするのか、そのサンプルさえ手に入ればそれでいい」
人形師は不気味に目を細め、複雑な数式を弄ぶ。
「さて、次は……もっと派手な舞台装置が必要だね。黒死牟、童磨、猗窩座……。彼らなら、もっと高位の悪魔と適合できるかな? あまり強力なのをブチ込むと、今度は器の方が魔圧に耐えきれず自壊してしまう。中級以上を融合させるのは、調整が本当にめんどくさいんだから」
人形師は空中の数式を書き換えながら、唇を歪めた。
「カーテンコールにはまだ早い。次は概念ごと書き換えるような、とっておきのバケモノを仕込んでやろうじゃないか」
黄金の刃を手にした鬼殺隊と、さらなる魔改造を施されようとしている上弦。物語は、最終決戦へと加速を始めていた。