ヤタガラス探偵事務所・帝都支部 ――デビルサマナーは大正の夜にバグを穿つ――』   作:ガチャガチャクツワムシ

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牛馬の洗礼

 産屋敷邸での柱合会議を経て、鬼殺隊は未曾有の特訓期間──『柱稽古』へと突入した。だが、今回の稽古は例年とは一線を画していた。神代 駆の提案、そして四名の柱の承認により、選ばれた隊士たちが、駆の展開する「修練の間に近い異界」へと放り込まれたのである。

 「……いいか、ここは現実とは理(ロジック)が違う。死なない程度に調整はしてあるが、心までは保証しねえぞ」

 駆がガンプのシリンダーを弾くと、空間が黄金の幾何学模様に割れ、隊士たちは一瞬にして禍々しい霊気に満ちた異界へと転移させられた。そこに待ち構えていたのは、巨大な牛の頭を持つ剛力の怪物と、馬の頭を持つ俊敏な怪物。

 「召喚──地獄の門番、ゴズキ、メズキ。……おい、お前ら。適当に中級悪魔も呼び出してやる、コイツらに俺たちの『理』に慣らしてやれ」

 「ガハハハ! 任せろ主殿! 露払い者共、我等に会わせろよ!」

 ゴズキが咆哮を上げると、影から『妖獣ヌエ』や『龍王ミズチ』が次々と這い出してきた。

 「ヒヒィーン! 貴様ら、止まれば死ぬぞ! 冥府の風に置いていかれるなよ!」

 メズキが超高速で戦場を駆け抜け、蹄から放たれる『ザンマ(中級衝撃)』の真空刃が隊士たちの羽織を引き裂いていく。

 「ひ、ひぃぃぃぃっ! 何だよこれ! 空から火は降ってくるし、地面は凍るし、体が重くて動けないんだけどぉぉぉ!」

 善逸が鼻水を撒き散らしながら絶叫を上げる。周囲では、召喚された悪魔たちが絶え間なくスキルを乱射していた。

 「甘いぞ小僧! 『アギラオ(中級火炎)』! 焼き尽くしてやろうか!」

 ヌエの放つ雷撃『ジオンガ』と、ミズチの放つ『ブフーラ(中級氷結)』が交差する。さらには肉体を弱体化させる『タルンダ(攻撃力低下)』や『ラクンダ(防御力低下)』といったデバフの雨あられ。

 「おい、お前ら止まるな! 足を止めたらあいつらの『物理』の餌食だぞ!」

 駆の冷徹な声が響く。メズキの放つ『絶妙剣』が空間を切り裂き、ゴズキの『メガトンプレス』が大地を粉砕する。炭治郎は歯を食いしばり、日輪刀に宿る属性の理を必死に回転させていた。

 「あがががっ! 腕が変な方向に曲がったぁぁ!」

 一人の隊士がゴズキの棍棒に弾き飛ばされる。だが、その直後、後方に控えていた『天使パワー』が冷淡に杖を振るった。

 「──『メディラマ(中級全体回復)』。……主殿の命です。さあ、健やかに苦しみなさい」

 神々しい光が降り注ぎ、折れた骨が瞬時に接合される。

 「嘘だろ!? 岩柱様の稽古だって、死ぬかと思うくらいキツかったのに! あれがまだ、お天道様の下の『極楽』だったなんて……!」

「戻してくれ! ここは本物の地獄だああああ!!」

 さらには、3年前から何度か共任務をこなしてきた仲である、村田までもが白目を剥いて叫んでいた。

 「神代ぉ! 貴様、それでも人間か! 仲間に対する敬意とか、血も涙もねえのかよぉ!」

 「ははは、元気があっていいな村田。だが勘違いするなよ? あんたたちが今受けてるのは、あくまでお前ら『一般用』のメニューだ。……柱たちは、今この瞬間も、もっと深い階層で更に『上位のスキル』が乱れ飛ぶ本当の地獄を味わってるぜ」

 駆はリンゴを齧りながら、怨嗟の声を心地よいBGMでも聴くかのように笑って受け流した。その言葉に、ゴズキとメズキが深く頷き、不敵に笑う。

 「ガハハ! 左様よ! あの柱とかいう連中、上位悪魔相手に何度も魂を削られ、その度に蘇生されながら戦っておるわ!」

「ヒヒィーン! 貴様らのように甘い温情はない! あちらは一瞬の油断が文字通り『存在の消滅』に繋がる領域。それに比べれば、ここはまだ『お遊戯』よ!」

 悪魔たちの証言に、隊士たちの顔が土気色に変わる。今のこの苦しみが、柱たちの受けている試練に比べれば微々たるものだという絶望的な事実。

 「……う、嘘だ……。これ以上の地獄があるなんて……」

「頑張らなくていいんだよ炭治郎ぉぉ! 柱なんてならなくていいから帰ろうよぉぉ!」

 善逸が絶叫し、再び悪魔たちの猛攻が始まった。

 即死や万能魔法こそ封じられているものの、中級属性とデバフ、そして超高速の物理攻撃が休みなく襲いくるこの空間は、村田ら一般隊士たちの心身をも、異界の戦士のそれへと無理やり造り変えていった。

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