ヤタガラス探偵事務所・帝都支部 ――デビルサマナーは大正の夜にバグを穿つ――』 作:ガチャガチャクツワムシ
鬼舞辻無惨が消滅し、静寂が訪れようとしたその場に、突如として異界の「重圧」が降り注いだ。
空間がひび割れるような音と共に、一体の人形が浮遊しながら現れる。その背後には、この世のものとは思えぬ禍々しい影が並び立った。魔王ベルゼブブ、殺戮の女神カーリー、深淵の主アバドン、死の棺モト……そして、天を衝くほどの巨躯を揺らす九頭竜。
あまりの威圧感に、ボロボロの柱たちが反射的に刀を構え直すが、立ち上がることさえままならない。駆が喚び出したフィン・マックールやベリアルたちも、その格上の神威を前に一歩も動けず、ただ押し黙って主を護るように身構えるのが精一杯だった。
「……人形師……ッ!」
駆は震える足で立ち、銃口を向けた。人形の傍らには、意識を失ったままのしのぶが糸に縛られた状態で浮かんでいる。
『おやおや、そんなに殺気を向けないでくれ。私は今、最高の気分なんだ』
人形の口が、滑稽なほど滑らかに動く。
『素晴らしい「劇」だった。絶望に抗い、死線を越えて神話を塗り替える……。君たちが紡いだこの結末に、私は心から感動したよ。これ以上の余韻を汚すのは、趣味じゃない』
人形師は優雅な仕草で指を鳴らした。すると、しのぶの体を縛っていた漆黒の糸が解け、彼女の体はゆっくりと駆の方へと横たえられた。
『彼女は返そう。……ああ、それとこれは「退場」のご挨拶だ』
駆のガンプに、強制的なデータ通信が走る。それはこの世界に人形師が築き上げた複数の「拠点」を示す詳細な座標データだった。
『この世界にある私のガラクタ(拠点)をすべて破壊する権利を君に譲ろう。……後始末を押し付けるようで悪いが、私はもうこの世界には干渉しないと約束する。この劇の余韻に浸りながら、次の舞台を探しに行くとするよ』
人形師が告げると、背後に控えていた魔王や神たちが、霧のようにその姿を消していく。それらは人形師の本体がいる場所へと送還されたようだった。駆の仲魔たちも、ようやくその重圧から解放され、安堵したように消滅の粒子へと還っていった。
『さらばだ、神代駆。またどこかの「舞台」で会えることを楽しみにしているよ……』
言葉を最後に、依り代となっていた人形が内側から崩れるように自壊し、ただの木屑となって地面に散った。
後に残されたのは、昇りゆく朝日と、静かに寝息を立てるしのぶ、そして傷だらけで生き残った戦友たちだけだった。
「……ふっ、勝手に現れて、勝手に満足して消えやがって……」
駆は空になったガンプを下ろし、ようやく安堵の息を漏らした。
「天元、実弥、煉獄……悲鳴嶼さん。……終わったぞ。しのぶちゃんも、無事だ」
朝日の中で、駆は倒れ伏した戦友たちを見渡し、短く、だが誇らしげに告げた。
ついに全ての元凶が去り、勝利の朝が訪れました。