ヤタガラス探偵事務所・帝都支部 ――デビルサマナーは大正の夜にバグを穿つ――』   作:ガチャガチャクツワムシ

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青い空と、掃除の始まり

東の空から差し込む朝日は、三日前と変わらず穏やかだった。

駆がようやく意識を取り戻したのは、蝶屋敷の一室だ。急速なMAG回復とMAG切れ、さらに最上位回復スキル「メシアライザー」をアザゼルの力で無理やりぶっ放した代償は重く、三日間の昏睡は強制的な身体のシャットダウンだった。

「……あ、気がつきましたか、神代さん」

傍らで声をかけたのは、自分よりだいぶ早く意識を取り戻したのかいつもの凛とした微笑みを浮かべたしのぶだ。その隣には、カナエも座っている。初めてのこの世界に来たときから、この姉妹との縁は深く続いていた。

「神代さん、三日も眠っていたんですよ。本当にお疲れ様でした」

カナエの穏やかな微笑みを受けながら、駆は重い体をゆっくりと起こした。

「……悪い。みんなの状況は」

「柱の皆さんは、神代さんの力で傷も癒え、それぞれの休息に入っています。……ただ」

しのぶが一度言葉を切り、静かに、だが重みのある声で告げた。

「産屋敷……お館様が亡くなられました。無惨が滅んだあの日、呪いから解き放たれ、安らかなお顔で……その生涯を終えられました」

駆は天井を見つめ、深く息を吐き出した。

かつて大菩薩を召喚し、産屋敷一族を縛る不条理な呪いを強引に断ち切った時、駆は耀哉に伝えていた。呪いは消せても、蝕まれた身体そのものは戻らない。それでも彼は、自分の代で悲願を達成できることを心から喜んでいた。

無惨が灰となり、一族を千年縛り続けた闇が霧散したその瞬間。耀哉の病床には、妻のあまね、そして輝利哉をはじめとする子供たちが全員揃っていた。さらに、駆の術で一命を取り留めた柱たちや炭治郎たち鬼殺隊も、一目会おうと部屋を囲んでいた。耀哉は、家族の温もりに包まれて静かに息を引き取ったという。

「……そうか。産屋敷様も、悲鳴嶼さんも、ようやく肩の荷が下りたんだな」

駆の言葉に、しのぶがもう一つの報告を重ねた。

「それと……珠世さんのことです。彼女もまた、無惨の消滅と共に、静かに最期を迎えられました。神代さんの放った浄化の光が、彼女の罪の意識さえも洗い流してくれたようだと……愈史郎君が言っていました」

駆は、かつて彼女と交わした言葉を思い出す。異界の知識を提供し、しのぶ達と共に「鬼を人間に戻す薬」を完成させた日々。彼女は死の間際、涙を流しながら「ようやく家族の元へ行ける」と微笑んでいたという。

「愈史郎は?」

「彼は……珠世さんの遺した医学と、彼女の生きた証を絵に残すために旅に出ました。神代さんに『死ぬなよ』と伝言を預かっています」

駆はふっと笑みを漏らした。あの偏屈な少年も、ようやく自分の足で歩き出したらしい。

「さて……少し休んだら、産屋敷様と悲鳴嶼さん、それに珠世さんの墓参りにも行かねえとな。それと、あのクソ人形師が押し付けてきた拠点のデータ。あれも全部ぶっ潰さねえと、安心して眠れねえ」

駆はサイドボードのガンプを手に取り、不敵な笑みを浮かべた。鬼はいなくなったが、平和を確かなものにするための「後始末」が残っている。

「あら、そんな病み上がりで無理を言うなら、姉さんと二人で特製の薬を用意しますよ?」

「うふふ、そうね。神代さんはもう少し『調教』が必要かしら」

しのぶとカナエの容赦ない微笑みに、駆は苦笑いを浮かべながらも、呪いの消えた新しい時代の風を感じていた。

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