ヤタガラス探偵事務所・帝都支部 ――デビルサマナーは大正の夜にバグを穿つ――』 作:ガチャガチャクツワムシ
「一月の猶予」が始まって残り五日目。
駆は、産屋敷邸の裏手にある広間へと足を運んだ。襖を開けた瞬間、心地よい熱気と笑い声が彼を包み込む。
「よォ、遅かったじゃねェか! 神代ォ!」
不死川実弥が、既に出来上がった様子で真っ赤な顔をして声を張り上げる。そこには宇髄天元、煉獄杏寿郎、冨岡義勇、伊黒小芭内、甘露寺蜜璃、時透無一郎。そして胡蝶しのぶとカナエの姉妹、さらには宇髄の三人の妻たちまでもが、晴れやかな笑顔で座っていた。
「悪いな、少し長引いた。……代わりに、とっておきを持ってきたぜ」
駆はガンプを操作し、インベントリから色とりどりのボトルを取り出した。
男性陣には最高級のウイスキーと大吟醸。女性陣には宝石のようなワインと濃厚な果実酒。そして最年少の無一郎には、酒精の入っていない最高級の果汁ジュースを手渡した。
「……すごく、甘い。果物の森を丸ごと飲んでるみたいだ」
ふわりと目を丸くする無一郎の反応に、座は和やかな笑いに包まれる。そんな中、ふと冨岡が、揺れる杯を見つめたまま駆に問いかけた。
「……神代。俺たちは、お前の師匠の仲魔であるスカサハ殿やクー・フーリン殿から、その槍術や魔力の扱いを叩き込まれた。あの神域の技に触れたからこそ、余計に気になる……。あの者たちを従える、お前の『師匠』とは、一体どんな男なんだ?」
その言葉に、他の柱たちも一斉に頷いた。彼らにとって、スカサハやクー・フーリン、そして知恵を授けてくれたトートやサラスヴァティといった存在は、もはや敬意を超えて畏怖の対象ですらある。それら伝説の英傑を束ねる主(あるじ)の姿を、想像せずにはいられなかったのだ。
一方、サマナーの基礎理論を駆から直接学んでいたしのぶも、興味深げに瞳を輝かせる。
「ほう! 神代に稽古をつけた師匠か。さぞかし派手な御仁なんだろうな!」
宇髄も身を乗り出す。駆は少しだけ遠い目をして、懐から端末を取り出した。画面には二人の人物が映し出される。
「一言で言うなら『まともな奴が一人もいねえ』かな。まず、この胡散臭い紳士が久遠寺 鴉(くおんじ からす)。俺のサマナーとしての師匠だ。見ての通り犯罪組織の首領にしか見えねえだろ? 実際、あんたたちを鍛えたスカサハやトートを仲魔にしてるのが、このジジイだ」
写真の中の久遠寺は、悪知恵の働きそうな品のある笑みを浮かべている。
柱たちは絶句した。自分たちを圧倒した「神々」を従えているのが、このどこか飄々とした、油断のならない雰囲気の現代人だという事実に。
「そしてこっちが、俺の格闘術の師匠……鬼龍院 蓮(きりゅういん れん)。街の『姐さん』だ。スカサハ師匠とはまた違うベクトルで、格闘の理を極めた人だよ」
次に映し出されたのは、184センチの筋骨隆々な体格に燃えるような赤のポニーテール、バッチリ決めた派手なメイクの人物。
「……え、ええと……女性……なのですか?」
「いや、男だ。……心は乙女(オネェ)らしいがな。普段は温厚で慈悲深いが、怒らせると能面みたいに無表情になって、素手でコンクリートを砕く。ハイヒールのまま回し蹴りしてくるんだぜ、信じられるか?」
「カカカ! 派手だな! 派手すぎて笑えてくるぜ!」
宇髄が爆笑し、面々も「上には上がいるものだ……」と戦慄と興味の入り混じった表情を浮かべる。伝説級の仲魔たちを相手に特訓してきた柱たちでさえ、駆が生き抜いてきた「現代の魔境」の深淵には圧倒されていた。
駆は端末をしまい、どこか誇らしげに、けれど寂しげに笑った。
「まあ、あの人たちに比べりゃ、無惨なんてまだ可愛げがあった方だよ。……待たせてるからな、そろそろ帰って顔を見せてやらねえと、何されるか分かったもんじゃねえ」
元の世界へ、自分は帰る。
喧騒と笑い声。器が触れ合う音。
それら全てが、神代駆という男がこの世界に生きた、何よりも確かな証だった。