ヤタガラス探偵事務所・帝都支部 ――デビルサマナーは大正の夜にバグを穿つ――』 作:ガチャガチャクツワムシ
数日後。まだ足取りに僅かな重さはあるものの、駆は自力で歩けるまでには回復していた。
彼は左右をカナエとしのぶに付き添われ、鬼殺隊の当主・産屋敷耀哉が待つ邸宅へと向かっていた。道中、そこには岩柱・悲鳴嶼行冥の姿もあった。
「……南無……。神代殿、貴殿が身を削り、一人の命を救った慈悲……この悲鳴嶼、深く感じ入る」
悲鳴嶼が数珠を鳴らし、涙を流しながら頭を下げる。駆は照れ隠しにガンプのホルスターを弄ったが、隣を歩くしのぶが彼の二の腕をしっかりと掴んで離さなかった。
「神代さん。もう、ジャックちゃんから全て聞いています。あなたがどれほど無理をしていたか、そのMAGの事情も。……感謝しています。でも、それ以上に悔しいんです。これからは、もっと私たちを頼ってください」
「そうですよ、神代さん。今は私たちは『仲間』でしょう? あなたがこの世界に馴染むまで、私たちがあなたのMAG(いのち)の代わりになります」
カナエも、優しく、だが断固とした口調で告げる。プロとして孤独を貫いてきた駆にとって、その言葉は重く、そして温かかった。
「……ああ、善処するよ。あんたらにそこまで言われちゃ、プロの面目も丸潰れだがな」
駆が苦笑した、その時だった。
陽光を遮るように、駆の目の前に「漆黒のノイズ」が走り、半透明の姿をしたヤタガラスの使者が現れた。
「おっと……。漸くお出ましかな、使者殿」
駆が足を止め使者の方を向くと、周囲の三人は驚愕し武器に手をかけたが、駆がそれを手で制した。
『──神代駆よ。死線を越え、因果を歪めたお前の実力を認めよう』
使者殿の冷徹な声が響く。
『お前に新たな権能を授ける。これよりこの地でも「悪魔合体」を解禁する。さらにお前の魂を、異界の深淵……「修練の地」へと接続した。そこへ向かえば、更なる力とMAGの回復を得られよう』
駆のコンプが激しく明滅し、新たなプログラムがインストールされていく。さらに、駆の足元には二つの輝く宝石のような瓶──『ソーマ』が置かれていた。
「これは……報酬か。ありがてえが……使者殿、ヤタガラスがタダでこんなもんをくれるわけねえよな?」
『……察しが良いな。警告だ。お前が上位悪魔であるフィン・マックールを呼び出し、強大な力を振るったことで、この世界の理に亀裂が生じた。いずれ、この地は最上位の悪魔たちが住まう……我らですら易々と関与することが出来ぬ「深淵の異界」と繋がるだろう』
その言葉に、その場に緊張が走る。
『備えよ、デビルサマナー神代駆。お前が救ったこの地の一時の平穏は、更なる混沌の前触れに過ぎぬ……』
それだけ言い残すと、使者は霧散するように消えていった。
手の中に残された二つの『ソーマ』の重み。そして、これから訪れるであろう、鬼以上の絶望──。
駆は、不安げな表情を浮かべる胡蝶姉妹と、静かに闘気を高める悲鳴嶼を見渡し、不敵に笑ってみせた。
「……ふん。漸く悪魔合体解禁か。面白くなってきやがった。……産屋敷様への報告は、少し内容が濃くなりそうだな」