身長189cm体重105kg体脂肪率5%で傭兵として紛争地域を駆け巡りロシア兵から「デンジャラス・ジャップ」と恐れられていた俺が久しぶりに帰国したら日本が宇宙人に乗っ取られていたので無双する 作:山岡さんの鮎
「wow!タカシ、ユーアーワンマンアーミー!(たかし、貴方は貴方1人で軍隊にすら匹敵します!)」
ジョンが青い眼を輝かせる。かつてフランス外人部隊にいた強者で、俺の頼れる相棒だ。
俺はロシア兵の死体の山に座り、夕焼け空を眺めていた。
「ジョン、この戦争はいつまで続くと思う?」
「さぁ、分からんね。でも、続けば続くほどいいだろう?俺たち傭兵は戦場が無いと食いっぱぐれちまうからな」
「…そうだな」
「んな訳で腹拵えだ!」
ジョンが野戦食糧(レーション)を投げて寄越した。無機質なパッケージの無機質な異国語に、なぜか気分が落ち込む。ちなみに俺は英語、中国語、ドイツ語をはじめ20ヶ国語を操れる。
今、思うことは一つ。故郷に帰って、温かい味噌汁が飲みたい。
こんな気分になるのは生まれて初めてだった。30年前に生を受けてから、神からのプレゼントである超強靭な肉体(身長189cm体重102kg体脂肪率5%)と世界最高峰の戦闘知能(Battle IQ 200)をひたすらに磨き上げ、そして…行使する。それにのみ悦びを感じていた筈だった。
しかし、今はやたらと野戦食糧(レーション)が不味く感じる。
ジョンが煙草を燻らせ始めた。もう野戦食糧(レーション)を食べ終えたようだ。優れた兵士のファクター、それは数多あるがその一つとして「早食い」が挙げられる。いつ銃弾が飛んでくるか知れない戦場に於いて、摂食という無防備な姿を曝け出すのはあまりcoolでは無い。ちなみに俺は牛丼屋のキング牛丼を2分で完食する強靭な消化機能を持っている。ジョンは3分ってところだ。まぁ、合格点と言える。
その時、微かな羽音のようなものが耳に届いた。同時に、背筋が凍るような戦慄が走る。
振り向くと、鼻先にドローンが飛んでいた。
「たかし!危ねぇ!」
ジョンの叫びも、俺の耳には届かなかった。あとコンマ1秒も経たずして、自爆ドローンは爆破するだろう。かつて何度も見た凄惨な爆死体が頭に浮かんだ。俺もあのうちの1人になるのか…?
一般人なら反応できずに死んだだろう。プロでも避けきれずに死んだだろう。しかし俺は「超プロ」。
光より速い左ジャブをドローンに突き出した。この時、手は「開手」。目的とするのは破壊ではなかった。ドローンの本体部分を掴み、ジャブの「引き」の要領で後方に投げ飛ばした。
手放したのとほぼ同時に爆発は起こった。しかし俺の「引き」は神速。背中に受ける爆風から察するに3mは距離を取れた。
野生動物以上の反射神経とバネをもつ俺ならバックステップで避けても取れる距離は同じだっただろう。だが、正面から爆風を受けるのと背面から受けるのでは訳が違う。人体に於いて背面というのは正面部分の10倍もの耐久力を持つ。加えて俺の強靭な肉体の防御力は常人の100倍以上だ。
つまり、ドローンの攻撃を1/1000以下に抑えた事になる。ちなみに俺は中学時代に数学オリンピックで優勝したこともあるのでこのくらいの計算は暗算でできる。
それでもドローンの爆破は強力だ。後ろ髪の毛先が焦げてしまった。
危ないところだった。俺はポケットからチェを取り出し火をつけた。
爆風で巻き上げられた粉塵が次第に落ち着くに連れて、俺の目にはとても嫌な光景が映り始めた。
…俺も必死だった。久しぶりに「死」が頭をよぎった程だ。だからドローンを投げる位置を調整する余裕など無かった。
上半身が消し飛んだジョンに、俺は煙草を供えた。
「ちゅ…注進!注進致します!」
アンドレイ大尉は、慌ただしい下士官の声に、顔すら上げなかった。その視線は手元の「老人と海」に釘付けだ。顔がほんのり赤らんでいるのはテーブルの「スピリタス」が原因だろう。古びたレコードからは「カチューシャ」が流れている。理想的なロシア軍人と言えるだろう。
「ジョン…死亡!」
アンドレイ大尉の白い眉毛がピクリと動いた。彼は「老人と海」をそっと閉じた。
「ほう…あの傭兵部隊【ヘル・ウォーグル】のNo.2、【リーサル・ウェポン・ヒューマン】こと、ジョンで間違いないな…?」
「その通りでございます!」
「我が軍の被害は?」
「歩兵中隊が一個隊全滅!同士たちは命を代償にしジョンを討ち取ったようです…!」
下士官は感激のあまり嗚咽を堪えきれなかった。
「つまり、今は【デンジャラス・ジャップ】こと、たかしが単独行動を執っている訳だな…?」
「そうなります」
「なぜもっと早く言わないんだ!」
アンドレイはスピリタスの瓶を持ち、下士官の頭に思い切り振り下ろした。
「今すぐ出撃だ!たかしを討てば我が軍は大いに勝利へと近づくであろう!私も勲章ものだ!ええい、貴様、上官を前に何を寝ている!?起きろ!」
しかし下士官は永遠に起きなかった。アンドレイ大尉は老齢に差し掛かっているとはいえ、身長207cm体重120kg体脂肪率16%の巨漢なのだ。
「我が部隊の戦力はT-34が3台に迫撃砲5機…そして鍛え抜かれたロシア男児からなる歩兵1000人!くっくっく…たかしめ、今日がお前の命日となるだろう」
出会ったのはレバノンだった。それから長年、コンビとしてあらゆる戦場を駆け巡った。次第に仲間は増えていき、俺たちは最強の傭兵部隊【ヘル・ウォーグル】として恐れられるようになった。
ジョンの死体は川に流した。涙が止まらなかった。
しかし、ここは戦場。命のやり取りをする場所だ。ジョンもいつかはこうなる運命だったのだ。
頭が重くなっているのを感じる。1週間以上寝ずに戦っているせいだ。少しだけ睡眠をとる事にした。
故郷の夢を見た。…
「…おい!おい!起きろ!」
目覚めると、目の前には銃口が突きつけられていた。囲まれている…ロシア兵が、10人ってとこか。ま、余裕だ。寝てる間に撃ち殺さなかったのがお前らの運の尽き。
「おい…こいつイエローだけどよ…もしかしたらたかしじゃないか?」
臆病そうな小太りのロシア兵が言う。
「そんな訳あるか!伝説の【デンジャラス・ジャップ】がこんな無防備に寝てる訳ないだろ」
吊り目のロシア兵が返す。こいつがリーダーだな…と直感した。でも実にどうでもいい事だ。3秒後にはコイツらは全員肉塊と化すのだから…。
「第一よ、たかし討伐作戦なんての、無理があるんだよ!なんでもあのジョンが死んだらしいが、ありえねえ。俺はリビアでジョンと一戦交えた事があるが、人間とは思えねえ戦闘力だった。100万ルーブル賭けてもいいがジョンが死んだってのはガセ情報だ。そりゃあ、もし本当で、敵がたかし一人なら、この作戦も成功するかも知れねえが…」
たかし討伐作戦だと?
俺は思わず口角を上げた。迂闊だったな。そういう事なら計画は変更だ…。
「それで、このイエローはどうするんだよ」
「そりゃあ捕虜にして拷問よ!これが楽しくて俺は職業軍人にまでなったのさ。我が部隊にジュネーヴ条約は通用しねぇ。あっはっは…おい、怖いかモンキー?」
吊り目野郎の意地悪な質問にも、俺は動じない。性善説を前提とした条約など形骸化するのも当然と言える。
俺の計画としては、まずコイツらについていき敵の本拠地についたところで──開戦。一対多の戦闘に於ける定石──ゲリラ戦だ。