「ふぅ……」
ナギサは薄暗い部屋で、ティーテーブルに備え付けた椅子へ腰掛け、紅茶を飲み下していた
場所は本校舎より少しに離れた位置にある特別棟
ティーパーティーのみが知る緊急避難用のセーフハウス……
ここに入れるのは選ばれた者のみ
「もう、こんな時間ですか……」
テーブルの上に置かれた小さな懐中時計を見つめ、呟く
これで……全てが決まる
エデン条約を前にした最終調整日程、今日の試験を以て補習授業部の面々は退学となり、自身は調印式まで雲隠れ
一番の障害たるシャーレの先生、独立傭兵レイヴン、そのパートナーのラスティもこれで何もできなくなる
私の勝ちだ、そうナギサは確信していた
あんな手まで使ったんだ……負けるわけがない、それに心残りはもうない……あるとすれば
「ごめんなさい、ヒフミさん……全ては、平和のため…なのです」
自分とよく話をしてくれた、仲良くしてくれた相手……ヒフミのことと
「ごめんなさい、先生、レイヴンさん、ラスティさん……」
最後まで、全員が救われる未来を望んでいた先生達の事のが気がかりであった
コンッコンッコンッ……
突如、部屋に響くノック音、こんな時間に誰が……と思ったが、使いの物だろうと判断し一言
「……紅茶でしたらもう結構です」
そう言って追い返そうとする、しかしそんなナギサの言葉を無視し、扉が開かれる
「残念だが紅茶はない、あるのは貴様の歪んだ思想だ」
部屋に入ってきたのは、胸元に『ORCA』っと刺繍された黒いスーツを来ている見慣れた人がいた
「レイヴン……さん?」
「レイヴンは既に死んだ……」
「……何を……言って……」
「今ここに居るのは……ORCA旅団……」
「『マクシミリアン・テルミドール』だ」
「ORCA……旅団……?」
テルミドールに続き、もう1人、その人と同じように黒いスーツを着ている人が入ってくる
「浦和……ハナコ……さん?」
「あら、随分と不安そうなお顔ですが……あぁ、それもそうですよね、正義実現委員会が殆ど傍に居ない現状、不安に思う事は正常です、ナギサさん」
「ど、どうして、あなた達が此処に……」
「それはこのセーフハウスをどうやって知ったのか、という意味ですか? それとも、私達が何故此処に居るのか、という問いかけでしょうか? ふふっ♡」
「そうです……一体、どうやって」
「前者であれば、簡単な話です、私は全てのセーフハウスを把握しているからですよ、合計八十七個、そのローテーションテーブルさえも、ね?」
「……ッ!」
「変則的な運用も凡そ把握しています、例えば……今の様に警備が少なく、単独及び少数の護衛のみで身を隠す際は、この秘密の屋根裏部屋に隠れるという事も♡」
その情報はティーパーティーとその供回りしか知らない情報である筈だった。誰が情報を流したのかは知らないが…とにかく今は人を呼ぼうと動く……が
「……動くな」
「……ッ!?」
いつの間に入ってきていたのか……自分の背後にいたのはテルミドールとハナコと同じように黒いスーツを来ている生徒がナギサの背後に回る
「白洲、アズサ……ッ!」
「………」
「護衛を呼ぼうとしても無駄だ、既にORCA旅団のメンバーが排除済みだ」
「まさか……裏切り者は一人では無く……!?」
「……あらあら、察しが悪いみたいですね、私もアズサちゃんもテルミドールさんも、ただの駒に過ぎませんよ、指揮官は別にいます」
「それは一体……」
誰だ、そう言いかけた所で……あることに気づいたナギサは、一つの質問を彼女達に問いかける
「先生は……先生は……何処に?」
「おや、気になりますか?」
「…………もしや……先生も、先生も!貴方達と同じ!」
「それならご安心を……先生は私たちとはなんの関係もありません」
「ならば、ならば何故ここにいないのですか!?あの人ならば、裏切り者の貴方達を逃すわけが……」
「先生は今現在………重傷を負い、ベットで眠っています」
「…………は?」
重傷……誰が……先生が?
ありえない、そんなわけがない
そんな言葉がナギサの脳に流れ続けるそんな様子を見ながら、ハナコはふふふっ…と笑う
「嘘ではありませんよ?アズサちゃん、テルミドールさん」
「了解」
「なに……ッ!」
「動くなと、言ったはずだ」
アズサはナギサを椅子に縛りつけ、テルミドールは脅すように銃を向けるナギサはギリっと歯を食いしばる
「……そんなわけがありません、あの……あの先生が!あの方は!!」
「ふふっ、なんとも傲慢……浅はか、ですねぇ」
「なんですって?」
「その質問に答える前に……一つ、私からも聞きたいことがあります」
「この後に及んで何を…!」
「補習授業部の件ですよ、果たして此処までやる必要はあったかと思いまして」
そのハナコの言葉に、ナギサは分かり易く顔を顰めた
その言葉の意図するところを理解したからだ
「ナギサさんの立場からすれば色々と思い含む事もあるでしょう、その事自体は否定しません……」
「しかし、シャーレと独立傭兵まで動員して、その上ゲヘナ自治区にまで手を伸ばし、少々度が過ぎてはいませんか?」
「………」
「私とアズサちゃんに関しては分かります、普段の行動や言動から訝しむのは当然です……ですが、ヒフミちゃんやコハルちゃんに対しては、あんまりではありませんか」
「それは……」
口を開き、云い淀む
人を信じることができず、人を怪しむことしかできなかったこんな自分でも……ヒフミ、彼女だけは信頼でき……さまざまな話をしたりした
彼女だけは、ナギサとしっかり話をしてくれた……けれど
「確かに、お二人には……特に、ヒフミさんには申し訳ない事をしました、そして……先生やレイヴンさん、ラスティさんにも……」
「……なら」
「彼女との間柄だけは守れたらと、そう思っていました……しかし、後悔はしておりません」
「……ほう?」
「すべては、トリニティの平穏ために!」
「……そうですか……ふ……ふふ……ふふふっ♡」
それを聞き、大いに笑うハナコ
それに対し何を笑っていると怒鳴りそうなるナギサ……するとハナコは自分の端末を取り出す
「大義のための犠牲……それは先生やレイヴンさんやラスティさんも入っているのですね?」
「……それは」
「私たちを……嘘だらけのトリニティを守ろうとした、そこに住む生徒達を支えようとした優しい人達を、その犠牲なのですね?」
「……そうです、たとえ……例え先生やレイヴンさんやラスティさんだとしても………私とは違った、善人であったとしても!!」
ナギサの覚悟、それが揺らぐことも、その信念が曲がることもなかった…それが正義だと、確信しているのだから
だからこそ、ハナコは腹立たしかった
そうですか……そうですか……ふざけるんじゃありませんよ」
「……ッ」
「ああごめんなさい、つい言葉が………所でナギサさん、先ほど……先生はどうなったか?と聞きましたね?」
「ええ…そうです! 先生の身に、一体何が!!」
「何がだと……?…本当に心当たりがないのか……まいったな」
「心当たり……?」
「試験会場の爆破」
「ッ!?」
「あの時に……先生は酷い重傷を負いました」
「先生は……私達をあの爆破から庇ったのです……その時に、顔や体に火傷を負いました」
「そんな、そんな傷、見えなくて」
「先生が、隠していたのです……誰にもバレないように、ボロボロな服のその下……実はその時、かなりの傷を負っていたのです……それを、うまいこと隠していました」
「……」
「そして、レイヴンさんもラスティさんも、あの時の爆発で……」
「そんなはずはありません!!」
「レイヴンさんは今ここにいるじゃないですか!!なら先生も!」
「この方はレイヴンじゃありませんよ?」
「ORCA旅団のマクシミリアン・テルミドールですよ?」
「ナギサさん……モニタリングは、ちゃんと目を通していたのですか?」
「安心し切って……ちゃんと見ていなかったのではありませんか?」
ナギサはあの爆破が起きた後、小型ドローンや監視カメラなどで補習授業部の様子を見ていた……
けれどその時のナギサはかなり追い詰められていた
どんな手も使うとは言った……
けれど、爆破を行った後、急な罪悪感に襲われ、思わずその映像から目を離していた
ナギサは、爆破が成功し、試験会場が破壊されたことだけを確認して、そのほかのことには目を通していなかった
「……あの……時……先生は……」
「体を動かせるほどには元気……いや、違うな、元気なふりをしていた、部屋に戻るなり先生は倒れ……今もなお、意識はない」
「身体中には複数のやけど、外傷もひどく……さらには出血もひどいものでした」
「な、何故その時に、救護騎士団の方へ……」
「行けると思うのか?」
「ッ……」
「先生は言っていた、外部に漏れるのはまずいから……ここで治療を行うと」
「それにレイヴンさんはミレニアムではかなり慕われているそうですね、もしこの事がミレニアムに伝わってしまったら……」
「彼と関わりの深い人達が何をするか分かりませんよ?」
実際、真っ先に動きそうなのが
ノア、アスナ、ヒマリ、リオ、ウタハ……
いやミレニアムのほぼ全ての人が動きそうだ……
「そんな傷を……ですが、あの人達は………」
「ふざけるのも大概にしなさい、桐藤ナギサ」
冷たい声、周りの空気が全て凍ったような……そんな雰囲気が突如として発生する
それを言い放ったのは他でもないハナコ
「貴方は忘れてしまっている……先生とラスティさんは外の世界から来たヘイロー持たない人間……レイヴンさんはACの乗らなければ無力に等しい……私たちを吹き飛ばすほどの威力を持つ爆弾を使えば、傷くらい……負っても何も不思議ではないでしょ?」
「それ……は」
「貴方は甘い……考えが甘すぎるんです、先生なら大丈夫?レイヴンさんなら大丈夫?ラスティさんなら大丈夫?仮に先生がこれで無事だったとしましょう……」
「しかし、その心はどうですか?守ろうとした生徒に……爆殺されかけた先生達がどんな気持ちだったか……考えたことがあるのですか?」
「……」
「答えなさい!桐藤ナギサ!!」
「ッ!」
「(………怖い、ものすごく怖い……こんな会話は計画には無かったはず……だからこれは、ハナコの本当の気持ち……か)」
「(……まぁ、ナギサには響いているし、まぁいいけど……確かに俺はACに乗らなければ無力だけど……もう少し言い方はなかったのかね……)」
ハナコの声に押されてしまっているアズサ、結果さえ良ければいいやっと思っている
しかしハナコの言葉にも共感はできた……信じていたものに殺されかけた、心に傷を負うには十分なこと
「……先生ならば、レイヴンさんならば、ラスティさんならば……みなさんを救いながらうまく逃げ出すであろう……そう、考えていました、あの優しい人達なら……と」
「そうでしょうねぇ……そうでなければあんなとんでもないことをするはずがありません……善意で頑張っている人に鞭を打つ事なんてねえ」
「ぅ…っ」
「………私は善人ではありません……ですので、このようなこともできる」
罪悪感や自信に対しての嫌悪感に襲われているナギサに、ハナコはある写真を見せる……それは
「……ヒッ」
「これが……今の、先生達の現状です」
「…………」
血染めの包帯をきつく巻き付け、その隙間から複数のチューブとケーブルをつけられている先生
全身に放題を巻き、所々に機械が取り付けられているレイヴン
爆発した建物の破片が全身に突き刺さっているラスティ
「……かわいそうに、彼女はまたまだやりたい事があったはずなのに……それなのに……ああ……本当に、かわいそう」
「こんなに機械をつけて……本当に可哀想…………」
「……こんなに破片が刺さって……とても苦しかったんでしょねえ……」
「こ……こんな……こんな、状態に…?」
「ええ……爆破によって飛んできた障害物から私達を守って……シクシク」
「ぁ…ぁ…ぁ……」
「ヒフミちゃんやコハルちゃん、私たちともお話ができない状態でした」
「……ぃ、や、ぃゃ!……わだ、じはぁ!ぞんなぁづもりじゃ……!!」
「いったい誰がこんなことを……ああ、貴方でしたね……ナギサさん?」
限界だった、先生達をここまでやったのは温泉開発部の爆弾、けれどそれを指示し計画を立てたのは自分
自分が先生をこんな目に遭わしたのだ……その罪の知識が、どっと押し寄せ、唇がプルプルと震え出す
そんなナギサに、ハナコは追い打ちをかける
「けれど……貴方にとってこれは気にしない、必要なことなんですよね?」
「……ぇ?」
「え?って……何故そんな反応をするのですか?…これはナギサさんがだーーいすきな……革命を為すに必要な犠牲、大義の前の小義……でしょう?」
そう、平和のためには犠牲が必要……そう言ったのは他でもないナギサ
先生達とは違い、個も全も救う事はせず、個を捨て全を取ると言ったのもナギサだ
その個の犠牲が……他でもない先生達った、ただそれだけだ
ハナコはそう言っている
「結果的に、貴方は私たちの答案用紙を燃やせて……退学させることが容易くなった、貴方にとっては……最高なことでしょう?」
「……ち……ちが……わたし…は」
「何が違う、これだけ犠牲を出して起きながら自分はそんな事は関係ないと逃げるのか?」
「……あら、テルミドールさんも何か言いたげそうですね☆」
……まぁ俺も、少々ムカついてきたんでね
ナギサには申し訳ないが、もっと踏み込んでやるからな
「レイヴンと私は盟友だった、これからも何かをしていく予定だった」
「しかし、お前の身勝手で大切な友を失った」
「お前の言う、必要な犠牲によってな」
「……ぢがう!ぢがう!わ"だじは"!!」
「お前は、たかが1つの条約の為に、友を切り捨てた、人を殺した」
「それを正当化するのは実に愚かだ」
「心しておけ」
「お前の惰弱な発想が、人類を壊死させるのだと……」
「あ……あぁ……」
それそれ限界か……なら、仕上げに入ろう
「最後にORCA旅団、旅団長からの言伝がある」
テルミドールは、テープレコーダーを出し、録音した音声を流す
「ナギサ様、実は私、ORCA旅団の旅団長だったんです」
「あっ……」
ナギサはもう……壊れていた
「私の大切な友人を傷つけた事は絶対に許しません」
「言葉は不要ですね」
「あはは……楽しかったですよ?ナギサ様とのお友達ごっこ」
「……ごめ……ごめん……なさい……ごめんなさい!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
「あ"あ"あ"……」
「ごめんなさい…! ごめんなさい!!……ごめ…ん…………」
ナギサはプツン……と意識が途切れ、その場に倒れた、それをテルミドールが支え、ゆっくりと地面へ下ろしていった
「……」
「破綻した計画の、妥当な末路だ」
「だが、すまない事をした、ゆっくり休め……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「………ふぅ……ふふっ……スッキリしましたね」
「自分から計画したとはいえ、やっぱり……やりすぎじゃないか?」
「反省はしています……けれど後悔はしていません!」
「えぇ……(困惑)」
俺が元々立てた計画は、あの爆破事件を利用して、ナギサの落ち着きを崩し、最後のヒフミの録音でトドメだったはずだったんだが……
まさかハナコがあそこまで言って、ナギサのここを壊すとは思わないじゃん……
「まぁ、結構良い演技だと思うぞ、ORCA旅団長?」
「あうう……」
「本来は、テルミドールが旅団長なんだがな……」
「まあまあ、ヒフミちゃんじゃなければ立場的に……ね?」
「……とりあえず後でナギサちゃんには謝らないとね……ハナコちゃんも、レイヴン君も全部が終わったら……ね?」
「ええ…それはもちろん」
「まぁ、さすがにな……」
「ナギサちゃんはベットに運んで一安心、あとは……アリウスだね」
「そうだな、俺とラスティが学園近くで戦闘するから、そのタイミングでアズサは敵の誘導を頼む」
「上手く行けば、聖園ミカも釣り出せるはず」
こっからは、アズサ達次第だ
「ラスティ、ACの準備はできているか?」
『問題無い、ついでに戦友の新しいACも準備できている』
「了解、すぐに向かう」
「じゃあ、頼むぞ」
「うん、任せて」
「頑張ってくださいね、テルミドールさん♡」
「その名前は……まぁいいや」
そうして、テルミドール……レイヴンはACの元へ向かって行く
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「………」
ACの元に辿り着き、見上げる
「……まさか、新しく作成したのが、ローゼンタールのネクスト……『CR-HOGIRE オーギル ガンメタVer』だとはな……」
俺の目の前にあるのは、チャティがいつの間に作っていたAC、しかもよりによってネクストである
多分、俺のACからデータとか使用して作ったんだろうが……
あれプラモにあったよな?
ちなみに武装は
右腕に063ANAR
前衛仕様の063ANを想定した突撃型ライフル。BFFらしく、精度が高い
左腕に051ANNR
高いトータルバランスを誇る名銃、特に射撃精度に優れる
左背部にEC-O300
軽量で発射時の消耗を抑えたバランス型のレーザーキャノン
の装備がつけられている
なんかアリーヤに似ている構成だが、まぁいいだろう
ちなみにAMSは必要ない、見た目はネクストでも、俺のACシャイングみたいなハーフネクストみたいな感じだからリンクスじゃなくても操作出来る
ネクストに乗り込み、システムをつける
「ブフォッ」
おい……まてチャティ……
お前……COMの設定『主任』にしやがったな……!?
思わず吹いたじゃねぇか
『……戦友、こちらの準備はできている……大丈夫か?』
「ああWw……大丈夫……Www」
『……』
「あー……よし……始めるか」
『……了解した、手加減はしないでくれよ?』
「ラスティが本気で来てくれならな」
『行くぞ……戦友!!』
……これが終わったら絶対COMを変えよ
ナギサ……お労しや……
多分ゲームより酷いことになっているんですけど……気のせいですかね?
あとチャティ……かなりはっちゃけているな……
カーラが見たら大爆笑しているんだろうな……