仮面ライダーエッガー   作:燃堂極小力

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初投稿です。
よろしくお願いします。


1.殻を破る者は…

 

 作戦名:「食品工場避難支援」

 作戦エリア:(株)太陽食品工場

 作戦開始時刻:14:00(イチヨンマル)

 投入部隊:「ネスト5(防衛班)

 作戦指揮:不良木 織久(ふらき おりひさ)

 

 概要:倉庫内にて複数の『シガイウィルス』感染者が発生。警備員が初期処理に失敗したため付近をパトロールしていたネスト5へ出動要請。当該施設は以前から職員の音信不通や奇行が目立っておりマークされていた。なおネスト3(調査班)より従業員、警備員を含めた102名の他、社会科見学で訪れていた小学校1年児26名、引率の教員2名も救助対象となる。留意されたし。

 

 

 

 ――「15:27(イチゴーニーナナ)民間人の保護および戦闘開始より40分が経過。感染Lv1,2の約7割の除去に成功……」

 

 堅牢な簡易バリケードの中。隊長が本部へ現状を通達する声が聞こえる。恐怖で冷え切った身体は次第に歯をガタガタ震えさせ始めた。

 

 頭までイカれ始めたらしい。

 

 仲間が乱れ撃つ銃と私の歯が高速で擦れ合う音は妙にセッションを奏でているようで、ちょっと楽しいとさえ感じ始めた。

 

「まだLv3に変異する兆候を見せている個体はいないが負傷者多数……おまけに……いや、何でも無い失礼した」

 

 銃剣をテディベアの様に大事に抱き考える人の像の5倍丸まって震えている私を見て隊長は言葉を探している。

「戦意喪失して安全圏に引きこもった腰抜け野郎」とでも続けるつもりだったのかな。

 

「誰か動ける『ライダーシステム』を寄越してくれると助かるんだが」

 

 隊長と司令部のオペレータとの通信を私のインカムも拾っていた。

 

 『既にダイナソードがそちらへ向かっています。到着までもうしばしお待ちを』

 

「……まったく。相変わらず鼻の良い……失敬。了解だ」

 

 『ライダーシステム』『ダイナソード』

 

 使い捨ての駒にさえなれない最底辺クソザコ隊員の私には詳しい情報は共有されてない。

「なんか凄い」こと「めっちゃ強い」と言うことは隊長から聞かされていた。

 

 お初にお目にかかる喜びは別に無かった「最初から連れて来いよ」とか「もっとたくさん作れよ」とか頭の中はそればっかり。

 

まぁ隊長いわく、作ろうと思ってた作れる物でも無く

使える人間も「選ばれた人」に限るらしい。

 

選ばれるってなに……?

死神かなんか?

 

「隊長……」

 

壁で隔てられた向こう側から弱々しい先輩の声が聞こえる。

隊長が漏らした声なき声でバッドニュースである事を確信した。

 

「生きてるのか?」

 

「えぇ。生きているどころか意識もあります。ショック状態ですが。気絶していた方が楽だろうに……」

 

「すぐ救護班へ連れて行ってやってくれ」

 

「了解です」

 

 いいなぁ……私も一緒に……。

 

「ひっ……」

 

 ひっ……は無いだろ私。と思ったが。

 

いや。無理も無い。右目を潰されて、左腕、右脚をもがれた人を見たら誰だってこれくらいは……。

 

「良いよな。お前は。コイツも戦意喪失なんて理由で安全域まで下がれたんなら……体育の授業じゃねぇんだぞ?」

 

 謝罪の言葉を口にしようにも「すすすす……」しか出てこない。目を合わせることも出来ない……。

 

 きっと炊いたご飯を一週間くらい放置してしまった炊飯器の中を見るような目で私を見てるんだろう。

 

 でも……シガイが向けてくる「何処から食ってやろうか?コイツは腹か太腿が柔らかそうだ」みたいな食欲旺盛な視線よりはずっとマシかも……。

 

「下らないこと言ってる余裕があるならさっさと連れて行け!」

 

「し、失礼しました!」

 

 負傷者を担いだ先輩は隊長の怒り慣れていない怒号に背筋を伸ばすと、私の前を去る。

 

 はい。くだらないこと考えててすみませんでした……。

 

「あ……い、行けるかも……」

 

 よし。戦える……私はまだ……!

 震えは……止まってないけど。

 

「こちらネスト5リーダー。救護班応答を願う。一刻を争う重傷者が向かった。そちらから迎え……」

 

「キャァァァァァァァァーーー!!!」

 

 ……やれやれ。誰?海外のホラー映画でしか聞かないようなハイトーンな悲鳴と一緒に銃声を鳴らしたの。

 

 隊長の通信の邪魔をするんじゃないよ。

 

 にしても、モンスターが働く子供の悲鳴をエネルギーに変換する会社に行ったら重宝されるんじゃない?ってくらいだったな。

 

「蘭丸……お前……」

 

「……へ?」

 

 声の主は……私でした。ハイ。ようやくバリケードの外へ飛び出し、休ませて貰った分も働かなきゃと思った矢先。

 

「よし……やっと行く気になったか。俺もすぐに合流する。みんな待ってるぞ」

 

 先輩への叱責で少し警戒が解けた隊長に「軟体動物か?」みたいな奇妙な走り方で迫るゾンビ(シガイ)を涙とヨダレと鼻水で少し汚い銃剣で射殺してしまったのでした。

 

「い、今のはまぐれで……」

 

「まぐれでも何でも俺を助けてくれたのは事実だろう。さぁ行け。その調子で他の仲間も助けてこい」

 

「私にはそんなこと……」

 

作戦序盤(さっき)までの威勢はどうした?」

 

「あれは無我夢中でつい……」

 

「良いからとっとと行けぇ!」

 

「は、はぃぃぃいい!!!」

 

 べちっ、べちっ。隊長の怒鳴りと裏返る叫び声を突撃の銅鑼の代わりにした私は少しふっくらとしている両頬を赤くなるほど力いっぱいに叩いた。

 

「よ、よぉーし……負けないぞぉ……!」

 

 そうだ。あんな奴ら怖くないんだ。

 

動きは不規則で激しいけれど俊敏性は無い、知能は私でさえ勝てると思える程からっきしで……強いて言えば数が多い事ぐらい……

 

いや。実際問題。数がちょっとシャレになって無いんだ。

 

おばちゃんが言ってたっけな。

1匹見つけたら30匹は居ると思え……だったっけ……?

 

やば……ゴチャゴチャ考えてないでさっさと行けばよかった。

膝がガクガクと大爆笑しはじめた……。

 

 ――そこのアンタ!ちょっとジャマ!

 

「……ひょ?」

 

女の人の声なのか、はたまた声変わり前の少年の声なのか。

凛々しさを感じるハスキーな声が私の背中に投げつけられた。

 

カシャカシャと小刻みな金属音を立てて走り込んできたのはご当地ヒーローのような装備の人……人なの?

 

「失礼! 頭借りるよ!」

 

「うおっとぉ……!」

 

見上げた景色は……スローモーションにさえ感じられた。

 

覆われた視界が再び空を映すまでの時間も、ヘルメットを上から押され首が圧迫される苦しみでさえもゆっくりとやって来た。

 

 私の身長は165cm。女性の中でも比較的デカイ方だ。子供の頃よく「背ばかり大きくなって、中身がまるで伴ってない」なんて言われて来たものだが。

 

 果たして……ヒト(ないし人型の何か)が自分の頭上を飛び越して行く様を見上げるハードル目線に立った経験をした事がある人なんてどれほど居るだろうか。

 

「おっとっと……」

 

「大丈夫か……!」

 

 我に返ると頭を押し込まれた重圧が一気に身体中を駆け巡り私は後ろへよろめいた。ちょうど後ろに来ていた隊長が駆け足で支えてくれたので幸い倒れ込まず済む。

 

「何なんです……? あのタマゴマン……」

 

「間に合ってくれたか……アレが……」

 

ティラノサウルス(か、何か)の尻尾を模したしなる真っ赤な剣は私を飛び越してすぐに1体。刃を返してもう一体。

 

――ダイナソードだ。

 

 タマゴマンとは本当に良く呼んだ物だ。何かの冗談か? 目の錯覚か? なんて思ったが、私を飛び越していった「謎のヒーロー」は「頭、両肩、両肘、両拳、胸部、膝、爪先」に至るまでギザギザに割れた卵の殻を装備していた。

 

「……なんか……ダサくないですか?」

 

「おいおい。あれは戦うための装甲であって特撮ヒーローじゃ無いんだぞ? シガイを殲滅するのに特化したデザインが施されてるはずだ」

 

 デザインはともかくとして。性能に関してはまったく大袈裟な言葉では無さそうだった。

 

 次から次へとアスファルトをシガイの紫色の血で染め上げていった。

 

「すご……も、もう全部あの人だけで良いんじゃ……?」

 

 今度はさっきまでのヘタレてた私とは違う。合理と理性を持ち合わせた的確な分析だと思う。難しい言葉を並べればなんとなく頭が良さそうに聞こえるけれど。

 

 要は「ダイナソード超スゲェ、マジつえぇ。ぶっちゃけウチら足手まといじゃね?」コレだけの感想を集約した結果。 

 

 恐る恐る進言したけれど、隊長の返事はあっけなく、怒りも何も無い無機質なものだった。

  

「……言う通りだな。俺達の仕事はここまでだ」

 

「冗談のつもりだったんですけど……」

 

「アイツの事だ。邪魔者にされる前に退散するのがベストな選択だ。我々としてもこれ以上の戦闘は避けたい」

 

 アイツって? お知り合いなの?

 

 何はともあれ……ラッキー……?

 

 『ネスト5各員へ伝達。直ちに戦闘を放棄しトレーラーまで退避。無傷な者は負傷者へ手を貸してやれ』

 

 すぐ隣にいる隊長の肉声とインカムを通した隊長の声が被る。なんか変な感じだ。

 

 遠目に見える先輩が交戦中のシガイにコンバットナイフで攻撃を行おうとしているのが見える。そんなに撃退数が大事なのだろうか? どんな功績も生命が無きゃ過去なのになぁ……。

 

 『ネスト5、四番。気持ちは分かるが俺たちの仕事は終わりだ。ダイナソードのジャマだけはするな』

 

 シガイの噛みつき反撃を食らいそうになった所、アーマーの下に着ているジャケットの襟を引っ張られダイナソードにお尻でお餅を突かされる四番さん。

 

 実質名指しだ……でもダイナソードのお陰で無事そうで良かった。見た目は微妙でも……やっぱりヒーローみたいだ。

 

 コマの様に大胆で、踊り子の様にスタイリッシュな剣戟はシガイによる包囲をものともせず次から次へと襲い来る牙を斬り伏せていく。

 

「どうした? そんなに暴れたかったか?」

 

 ダイナソードの戦いぶりに見惚れていた私に隊長が語りかける。

 

せっかくやる気を出したのに活躍出来なかったのは悔しいけれど戦わないに越したことは無い。

 

 実はこの時点で私は既に、ダイナソードよりも遠くを見つめていた。工場の広い駐車場の正面から見える窓。

 

「27人……」

 

 ボソリと漏れた言葉を隊長は拾ってくれた。

 

「27人?なんの数字だ?」

 

「朝のローカルニュースでやってたんです。この太陽食品の工場に27名の小学生が職場体験に行く……って」

 

 救助された一般人は26人の小学生と引率の先生。……つまり。

 

 『ネスト5、応答願います!』

 

 『ネスト5リーダー。今度はどうした?』

 

 『ネスト3が聞き込みを行った際、学校側から提供された情報に誤りがあったとのご報告が……』

 

 応対をしているのは隊長だけれど情報は全ての隊員に共有されていた。私もしっかり聞かないと……。

 

 『工場を訪れていた児童は27名。後一人の安否の確認が取れていません……!!』

 

 慌てた様子のオペレーターさんの報告を聞いた瞬間、私は銃剣のポンプをガチャりと引き、声を裏返らせて叫んだ。

 

「ネスト5十三番! 鳥家 蘭丸(とりいえ らんまる)! 対象を視認! 保護に向かいます!」

 

「保護ってお前……!」

 

「工場から倉庫へ続く連絡通路の窓に小さな人影とそれを追う数本の触手を見ました! 罰なら後で受けます!」

 

あれ? 急を要しますと言うつもりだったのに。

これじゃあ

「命令なんて従わねぇよ!」って言ってるような物だな……?

 

 そんなやり取りに引っ掛かりつつも私は工場を目指し全力ダッシュした。さっきまでヘタレて何にも出来なかったくせにと言われたらそれまでだけれど……でも!

 

 今……行くから……っ!

 

「ちょっ! 危なっ!」

 

「すみませんっ! すぐ消えますので!」

 

 ダイナソードさん……様……?の剣を80度くらいのエビ反りで避け、進行を続ける。ジャマをするなとの命令だったけれどシガイを屠った後の剣のオーバーランだったし、私の鼻先も目も前髪も無事だ。問題は無いでしょう。

 

 走り続ける先には3体のシガイ。服を着ていない顔も無い姿の奴らは元から人間ではなく自然発生のウィルスの塊。容赦しない……!

 

「!aaaD ukin!!!!aaaaA!!!」

 

 隊員たちの間で流行っている俗称シガイ語を発しながら私に飛び掛かる3体。自然と身体が動く。

 

 銃のストックで左の奴の腹を小突く。弾ませるように銃口に装着された刃で右の奴の喉笛をぶっ刺す。

 

 真ん中の奴は……!

 

「えいっ……!」

 

 突き上げるようなヘルメット頭突きで顎を粉砕してやった。きっと、プロボクサーのアッパーよりもドキツイ一撃だったと思う。

 

「……やるねぇ」

 

 ダイナソードさんが私の背中に言葉を投げかけたけれど。アドレナリン的な奴とかテンパリングがどうので聞いていなかったけれど、たぶんドン引きしてる。

 

……テンパりの語源。別にテンパリングじゃないか……。

 

 〜〜〜

 

「あいつは重戦車か?」

 

 蘭丸が独断専行で駆け出して1分も経たぬ内。彼女が無我夢中で蹴散らして行ったシガイ3体は絶命こそしてはいないがスタミナを大きく削られ仰向けに転がっていた。

 

 そこを彼女の背中を見送るだけの不良木は呆れながらその3体を射殺し、撤退準備をしていた部下へ再度通信する。

 

「ネスト5リーダーより各員。負傷者の支援を行っている者はそのまま撤退。動ける者は俺と共にあのお転婆を追うぞ」

 

ダイナソードが不良木の肩をポンと叩く。

その姿は何処か馴れ馴れしく、張り詰めた現場には不釣り合いだ。

 

「……待った。私が行く。仮に『レベル3』が居るのなら頭数揃えたって死体が増えるだけだよ」

 

 淡々と語るダイナソード。煽りでも嫌味でも無い事実ではあったのだろうか。少しだけムッとする者は居ても不満を言葉にする者は居なかった。

 

不良木はただ一言。「……頼んだ」と呟く。

 

困った(良い)部下を持った。ね……隊長さん?」

 

マイペースに歩み始めるダイナソードがすれ違い様に彼に掛けた声色は仮面に隠された微笑みの表情を如実に表しているようだった。

 

「まったく。良い部下(しょうがない奴)だ」

 

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