TSF物書きゆるっと交流所イベント執筆作品集   作:汐風鈴

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Discordサーバー「TSF物書きゆるっと交流所」で開催された「お題deTSF【合意】」で執筆した作品です。合意以外に「海」「神社」のキーワードを含んでいます。

とある少年が家を継ぐ決心をする現代バトルファンタジー(?)です。


「掴むために小さくなった手」 お題deTSF【合意】

 我が家は母の一大権力で成り立っている。この港町唯一の神社の管理は代々我が家の女性に託されているため、誰も彼女の意向に逆らうことはできない。

 

「珠徳、話がある。ついて来なさい」

 

 母の口から「タマノリ」という名前を聞いたのは久しい。そもそも母は多忙なので、父からの伝言で済ませてしまうのだ。

 

「実は、ワタノミ様が新たな巫女を所望した。ワタノミ様は所望する人間の詳細はおっしゃらなかったので、長男の珠徳に任せる」

 

「しかし、巫女というのは女性が請け負うものでしょう。分家に任せるわけにはいかないのでしょうか」

 

 母は首を横に振って珠徳の意見を否定する。

 

「彼女らは神の恩恵を上手く扱えない。それに私は悪鬼の呪いで女子を生めない。だからこそ、珠徳に任せたい」

 

「ごめんなさい。いくら母さんの頼みでも俺にはできません。夜風に当たりたいのでお先に失礼します」

 

「了解した。気が変わったら言ってくれ。それと夜道には、ああ。行ってしまったか」

 

 珠徳は足早に母から離れて草履を履き、外に出て石段を下りる。茂みが多いせいもあるが、今日は新月のために暗く、星がいつも以上に輝いて見えた。昔から夜は怪異が出るから人は夜道にでないし、怪異が減った今も言い伝えが夜道に人を出さないようにしているのだ。

 

「さすがに寒くなってきたな」

 

 袖口や裾口が広い和装だとそこから風が入ってきて冷えてしまう。温めようと両腕を反対の腕の袖に入れると幾分かマシになる。

 

「俺に巫女なんてできるわけないのに。……なんだ? こんな場所に人なんて」

 

 悪寒がした。街灯の下のそれは人型だ。それはゆっくりとこちらを向く。

 

 角と赤い肌はまさしく赤鬼のそれだ。しかし、珠徳が驚愕したのはそこではない。悪鬼になって変容しているが、その鬼の顔は数少ない高校の友人だった。

 

「坂野、何でこんなところに。悪鬼め、取り憑いたな!」

 

「うん? お前の知り合いか。ちょうどいい、お前を食って鬼に戻ってこいつを飲み込む。ワタノミのガキなら男でも腹ごしらえになるだろうよ」

 

 赤鬼は大地を蹴ると珠徳の眼前にまで迫り、鳩尾を殴る。彼は吹き飛んで地面に転がるがすぐに立ち上がった。残った痛みに耐えながら立ち上がると、またも鬼は駆けてきて今度は蹴り上げた。肺の空気が一瞬にして急減し、大地に叩きつけられた瞬間にそれは無になった。

 

「坂野、俺だ。揚野珠徳だ、わかるなら目覚めてくれ」

 

「うるせぇ! 俺は赤鬼様だ、人間に下ることはねぇ。人間なんぞに子供なんぞに女なんぞに、揚野一族なんぞにぃ! 借り物なんぞにこの俺は負けない! 俺は自由だ、自由に人を襲うだけだ。それさえあればそれでよい!」

 

 口の中に広がる吐しゃ物の酸味を抑えながら立ち上がると鬼は頭突きを食らわせる。

 

 立って殴られを繰り返すうちに口内の鉄の味が広がり息を思うように吸えなくなり、ついに大地に伏した。うつ伏せから仰向けになって星空を眺める。

 

 震える手で何とか懐を探ると、小さな笛が出てきた。母に持たされたものだ。酸欠気味ながらも銀色の笛を思い切り吹くととても甲高い音が響き渡った。木々に隠れていた鳥がその音に驚いて一斉に飛び立つ。

 

「助けを呼ぼうったって、そうはいかねぇ。今直ぐここで取り込んでやろう。──って、急になんだこいつら!」

 

 男を葬ろうと足を進めた途端、狐が茂みから飛び出した。数え切れぬ狐の衆が波のように鬼を翻弄し、負傷した男に近づけまいとその身で彼を隠した。

 

「狐、ワタノミ様の眷属。なんとかなったか」

 

『ふん、安心するにはまだ早いわよ。従者の子、童の手を取って立ち上がることを許すわ』

 

 星海を覆うように俺の目の前に白く大きい掌が現れた。無意識にその手を取ると引っ張られて立たされる。そこには光を放つ一柱が降臨していた。

 

「あなたがワタノミ様、ですか」

 

『その通り。海神を飲み込みし稲荷とは童のことよ』

 

 ワタノミ様は嫉妬心が強い。かつて稲荷神の眷属だった頃、この町の海神の分霊を飲み込んで海神に向けられた信仰を奪ったのだという。海を思わせる躯体と秋の稲穂を思わせる毛髪は人を凌駕した証で、狐の耳と六本の尾はまさしく稲荷だ。

 

「失礼になりますが、ワタノミ様は如何様で降臨なされたので?」

 

『童は御前と契約しに来たの。強制というわけではないわ』

 

 主神はそう宣う。契約、詰まるところ手を貸すから代償を払えということだろう。しかし、今は四の五の言っている場合ではない。ここは髪の要求を飲み込む以外に道はないのだ。しかし、何も知らずに進むわけにはいかない。愉快に笑みを浮かべる狐の姿を残した神だ。何か考えていることがあるのだろう

 

「再度、失礼になりますが、巫女を要求したことは聞きました。……何が目的だ?」

 

 ※ ※ ※

 

『珠緒は何も話していないのね。そう警戒しないで。童は民を愛しているの。ゆえに悲しませないわ。巫女として少しの奉仕を任せるだけよ』

 

 その顔にはなんの濁りも見えない。恐らく契約の代償が大きすぎるなんてことはないだろう。

 

「承知しました。ワタノミ様との契約に合意致します」

 

『ふふ、契約成立ね。鬼の前という雰囲気は酷いけど仕方ないわ。正式な儀は後に回しましょう。ほら、こちらに来なさい』

 

 ワタノミ様は両手を広げる。珠徳は主のもとに寄ると、彼女は俺を抱き上げた。彼女は両者の顔同士を近づけて俺の唇を奪う。

 

 珠徳は彼女の温もりに包まれると眠気に誘われて瞳を閉じてしまう。何度かの寝息とともに光に包まれた。主のように髪は伸びて輝き、狐の耳と尾が生えて、体は縮んで丸みを帯びていった。ワタノミ様は従者の完成に微笑むと頬に口づけをして起こした。

 

「んん、わたのみしゃま?」

 

『ふふ、寝ぼけているのね。起きなさい、童の眷属を長く待たせすぎだわ』

 

 ワタノミ様は欠伸をする珠徳を降ろして立たせると珠徳はいつもの感覚と合わず、倒れそうになった。なんとか腕を振って耐えて立つと、振った腕は異様に細く白かった。

 

「なんか変、ってなんじゃこりゃあ!」

 

 主に比べれば貧相な体型だが、丸みを帯びて、胴や四肢が細くなったせいでいつもより冷える身体が女になったことを証明する。従者は試しに股の辺りを探ってみると17年も添い遂げてきた相棒が消失していた。

 

「俺の息子がぁ」

 

 股間のつるりとした部分に触れるとピリッとした感覚と共に身体が跳ねた。すぐに手を抜くと指先にその温かさが残っていて、男の好奇心が湧くのと同時にその消失の憂いが混じって溜息を吐いた。

 

「あ、主がおっしゃる代償というのは……」

 

『決まっているでしょう。男を辞めてもらうことよ。御前は一生狐の従者、僅かながら童の一部を取り込んでいるのだから長寿だしむさくるしい男から解放されたのだし、満足よね。大丈夫、従者ちゃんに付いてたあれは有効活用するわよ』

 

 ワタノミ様は袖から二尺半の大幣を取り出して、珠徳に授けた。彼は頷いて力を込めると半透明で青色の刃が現れまるで剣のような形をとる。

 

『海神の力の方が強いのね、嫉妬しちゃうわ。とりあえず、それが今の従者が使える神力よ。その力で悪鬼を浄化する。いいわね』

 

「はい、そこについては父から伝えられたので」

 

 神は右手を上げると狐が一斉に茂みに逃げ、赤鬼の姿が見えるようになった。それは余計なものが消えたと肩を鳴らして主とその従者を睨みつけた。

 

「くそが、ぬるいことしやがって。今すぐに葬ってやる」

 

「貰いものだけど、それができるほど俺はもう弱くない」

 

 赤鬼はさっきと同様に珠徳に急接近した。しかし、その姿は命として従者に昇格した珠徳にとって余裕で回避できるためにすぐに身を翻して赤鬼が突きだす拳を掴んで主と逆の方向に投げ飛ばした。そのまま悪鬼のもとに駆けると既に防御姿勢をとっていた。しかし、振り上げた剣は両腕を簡単に切り落とす。両腕が靄となって消えた途端に焦りを露呈した赤鬼は目を丸くして息を飲んだ。

 

「わ、悪かったよ。俺が悪かった。だから見逃して──」

 

 ──鬼の首は刎ねられた。青き一閃は荒波のような威力と雨だれのような静けさを兼ね備えている。珠徳は黒い靄の中から現れた坂野を抱き上げると主のもとに戻った。主は坂野を受け取ると完全に浄化してやる。

 

『我が従者、よく成し遂げたわね』

 

「主のお力添えあってのものでございます」

 

『珠緒との契約を思い出すわね』

 

 面を上げる許可を頂いた珠徳は先導して本殿に戻った。鳥居の下に母が立っていた。母は変貌した俺の姿を見て口を開けたまま唖然としていた。その目尻から頬に掛けて数粒の涙が伝う。目元が潤む母は駆けだして珠徳に抱き着いた。

 

「母さん。俺、巫女になった。決めた、継ぐよ。母さんがやってきたこと全部継ぐから。男でもましてや人でもなくなったけど」

 

 ただ思いついたことを口にするだけだが、言葉を紡いでいけばいくほど感情を隠すようにしていた母の真意が朧げに見えてくる。

 

「ごめんなさい、戦いに巻き込むことになってしまって。私はもうあなたたちを守る力がない」

 

『珠緒、言ったでしょう。悪鬼を全滅させることなんて不可能なのよ。だから悲しむことはないわ』

 

 母の背後に日光が当たって漏れる。大地を見守っていた星々は青空に姿を隠し始め、太陽が垣間見えた。

 

 女神は抱き合う親子を眺めて微笑むと一人で本殿に向かうのだった。

 




「第一話」感が強いです。話の閉め方が苦手だと痛感します。
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