TSF物書きゆるっと交流所イベント執筆作品集   作:汐風鈴

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Discordサーバー「TSF物書きゆるっと交流所」で開催された「お題deTSF【告白】」で執筆した作品です。合意以外に「チョコ」「逆〇〇」のキーワードを含んでいます。
それぞれの要素は薄いと思いますが、上手くいったはず……。そう、上手くいったんだ。私はちゃんとルールを遵守するTSF書きなんだ! そして、ジャンルもちゃんと「恋愛」なんだ! ……そういうことにしてください。


「チョコと腹違いとロスタイム」お題deTSF【告白】

 担当医の診断を聞いて、酒浪(さけなみ)(けい)はやっと女児になってしまった悪夢が現実であると理解した。

 

「とりあえず、早亜弥(さあや)さんと話そう。家に帰るぞ」

 

 父は記憶の中とは正反対の冷静な口調で、圭を黒色のカローラに乗せた。圭は何とか後部座席に座ると、地に着かない足が落ち着かず、なんだか宙ぶらりんになってしまった。

 

 カーナビから流れるニュースがはっきりと聞こえる。

 

 圭は父の沈黙が圭自身への期待の喪失を悟った。無理もない。圭は妹と違って平々凡々な男だ。腹違いの妹のような優秀さを持っていない。だから、今更期待されることはない。きっと元から不用品だったのだ。こうなってしまえば欠陥品である。悲哀を表に出しもしない父は圭のことを身から出た錆としか思っていないのだろう。

 

 座高が下がったせいだろうか。住み慣れた町も身体が変わってしまえば、全く異なるものに見えてくる。記憶の底に残っている古い町に見える。小学生の頃まではあの公園の遊具で遊んだとか。幼馴染の家に何度も訪問したとか。私立中学に入学した彼は圭と違って立派になっているのだろう。

 

 車窓に反射した美少女の憂う表情がそう説いてくるのだ。

 

「三年ぶりか」

 

 義母の早亜弥は血のつながりがないのにもかかわらず、母親の責任を果たしてくれた。父と違って抱える感情は薄いはずなのに。父の方が圭を知る機会があったというのに。

 

 手元には診断書とDNAの鑑定結果がまとめられたものがある。これは変わり果てた圭を圭だと証明する数少ない証拠である。奪われた過去の身分を取り戻すことはできない。大学の友人には頼れないし、先輩や教授ならなおさらだ。だから、手元のものを失くしてしまえばどこの誰でもなくなってしまう。

 

「いっそのこと……」

 

 車を降りて先導した父が玄関を開いて圭を中に入れる。リビングには前とそう変わらない女性が、紅茶とクッキーを用意して待っていた。義母は圭の姿を見た途端に立ち上がってこちらに駆け寄り、膝をついて全身で白髪の少女を抱きしめた。やわらかく優しい抱擁に、圭は呆気にとられた。少しの間続いた抱擁を解いた早亜弥は圭の手を引いて、食卓テーブルに連れて行く。

 

「圭君、なのよね。色々、圭君の口から聞きたいわ。いきなりは難しいだろうから、お菓子でも食べながらにしましょう」

 

 圭はちびちびとクッキーを摘まむ。苦い方が好きだったのに、今自然と手が伸びるのは甘いチョコチップを混ぜ込んだものばかりだ。一口、一口とクッキーを齧って飲み込む度に少しずつ語る。

 

 昨日の体調がよくなかった事。アルバイトが忙しく、疲労のせいにしていた事。一度眠れば解決すると思っていた事。朝、起きたら長い白髪の少女になっていた事。それから、担当医の説明。

 

 口から出てきたものは今までよりも拙いけれど、圭はどうにか絞り出した。その最中、圭の頭の中には医師の説明が反芻される。酒浪圭大学三年情報科の男の足跡を途切れさせる作業を迅速に進めなければならない。

 

「その、ひとまず、帰ります、俺。やらなきゃいけないことがいっぱいあるので」

 

「一晩ぐらい休んだらどう? やることがあるのはいいのだけれど、今は少し落ち着いた方がいいわ」

 

「……確かにそうかもしれません」

 

 今以上に、自分の断れない性格が恨めしかったことはない。二月になり、四年生への進級も目前だった。三年間の努力、積み上げた課題、続けてきたバイト。それら過去のすべてが水の泡になった事実は、圭の心を疲弊させるには十分すぎた。予定は消え、ただ空白になった時間だけが横たわっている。

 

 やるべきことを失った圭は、ソファーで横になり、生体認証すら通らなくなったスマートフォンを眺めて空白の時間を消す。

 玄関の開く音が、気分を床に沈殿させる静寂を無遠慮に引き裂いた。そうして聞き覚えのある少し低めの声が家の中に響き渡る。

 

「えっ、ちょっと、本当に? この子が兄さんなの?」

 

「ええ、DNA鑑定で結果も出ているから間違いないわ」

 

「そうなの?」

 

 圭の瞳に声の主が映った。それは腹違いの妹だ。最後に見た中学2年の頃から3年経って、圭が記憶から見えるものは彼女の面影だけである。両親の影響を受けた高身長とスレンダーな体型は目を見張るもので、圭は見上げることでしか表情を汲み取ることができない。

 

 妹のはソファーに座りなおした圭の隣に座ると、圭の顔を覗き込むように見下ろす。

 

 実波は微笑むと圭が一人暮らしを始めてからのことを話し始めた。彼女は高校受験に成功して、進学率が高い高校に入れたことや読者モデルとしてファッション雑誌に何度も載っていることを意気揚々と語った。

 

 圭は妹が自分と違って優秀であることを自覚している。圭は実波が兄を追うようにスポーツクラブや塾に入っていたことを相槌に混ぜていると、彼女はさらに目を輝かせて、その昔話を掘り起こした。

 

 物心がついた時から、実波は絶えず兄の背中を追っていた。それは幼心に芽生えた憧れが原因であり、彼が実家から離れることになってもその念が絶えることはない。

 

「兄さんが女の子になるなんてね。でも、大丈夫。ずっと助けられてきたから、アタシが兄さんの力になるよ」

 

 圭は妹の言葉に口を結んで俯いた。細い腕が、裁断して縫い直して今のサイズに合わせたボトムスを握って皺を寄せる。すると、ぞんざいな手縫いの口が開いてしまった。それを見た実波は立ち上がって圭の手を引く。

 

「さっそく、アタシの部屋に行こう。ずっとその服を着てるわけにもいかないでしょ。ほら、脱いで」

 

「ああ、うん」

 

 実波は二回、手を叩いて脱衣を急かすと、圭はそれに従い、両手で裾を以て裏返すようにしてTシャツを脱いで腰からボトムスを降ろした。すると、安全ピンで無理やり着られるようにした男性用下着を履いただけになった。

 

 全身鏡には、白磁の如き肌とシャツで擦れて勃起した桜色の乳房が露わになった少女の姿が映っている。幼く膨らんだ腹部と骨が浮き出た胸部と臀部がそれをさらに強調し、欲を掻き立てる魅力を放っていた。

 

「兄さん、とっても可愛くなったよね」

 

「でも、俺は俺のままでいたかった。こうなるとは思わなかったし……」

 

 圭のアイデンティティは経験と関係だけだった。小学生の頃から学力も体力も中の上で、地頭ならもっと下だ。。身長は180近かったが、体格には恵まれなかった。圭は母の血が濃いせいか、それとも若返ってでもいるのか、今は身長が140もない。

 

 一方で、実波は女子ながらも高身長で運動神経もよく、学力も学年で指折りに入るほどだ。圭を追う度に追い付いて、抜かしていく。そして、父は食卓でそのことを嘆くのだ。だからこそ、圭は打ちひしがれる。

 

「本当に、本当に可愛い。アタシもこんな風になれれば……」

 鏡に映る圭の後ろに実波が立っている。彼女は圭の両脇の下を押さえて軽々と持ち上げるとベッドに横たわらせて、圭の上に覆いかぶさった。実波は右手で圭の両手を頭の上にやって、左手で肩を押さえて、右脚で下半身を押さえて暴れないようにした。

 

「実波、なんのつもり——」

 

「——三年間、兄さんと離れていて、気づいた。私、兄さんが好き。目標達成を目指す真っ直ぐな姿が好き。苦しみの中で藻掻くのが好き。今も悩んでるけど、兄さんは切り抜けるわ。でも、道のりは今までより険しいと思うの。だから助けてあげる」

 

「俺はお前に助けられるつもりはない。全部持ってるお前に!」

 

 圭は実波の拘束を解こうと藻掻くが、やせ細った体では、筋肉がしっかりと束ねられた体には敵わない。実波は右手で両頬を挟んで無理やり圭の顔を固定するとそこに自身の唇を接近させた。

 

「黙って。……兄さんはアタシに従っていればいいの。今の姿じゃ兄さんって言うより妹って感じ。これからはアタシと兄さん、逆の立場でいきましょう。アタシのことはお姉ちゃんって呼んで。アタシも圭ちゃんって呼ぶから。じゃなきゃお下がりはあげられないわ。いいわね」

 

 圭は歯を食いしばって押し黙る。

「ふふっ、威勢はいいのね。今はこれで許してあげるわ」

 

 実波は唇を咥えるように接吻するとそのまま舌を入れる。彼女は自身の唾液を圭の口内に流し込むと、それに耐えられない圭は口を開けて喉を鳴らしてしまった。それを見逃さない実波は右腕を首元に左腕を腰に回して圭の上体を起こした。そして、彼女は舌で圭の口の中の唾液をかき出し、盃を煽るように圭の頭を上にして、ゴクリと飲み込んだ。

 

 圭はベッドに降ろされた。口づけのせいで意識がぼんやりとしていて、圭は深呼吸で一杯一杯だ。頬を赤らめた実波を見上げることしかできなかった。

 

「うん、なかなかに良かったわ、口の中に残ったチョコの香りが特に。じゃあ、そこに置いてある洋服なら今のにい……圭ちゃんに合うはずだから全部持って行っていいわよ。じゃあ、アタシはアルバイトいかなきゃだから」

 

 頬に軽いキスをして、実波は自室を後にした。

 

 圭はずっと抱えていた憂鬱と告白された衝撃が混じって、仰向けのままでいる。数度、深呼吸をして立ち上がる。箪笥に掛けられた深いベージュのワンピースを体に当てて、その姿が鏡に映った。。

 

 妙に様になっていて、嫌悪する自身でも見惚れてしまった。息を飲むと甘ったるいチョコの香りが立つ。

 

「ビターチョコのほうが好きだったんだけどなぁ」

 

 俺は実波の人形になれば、欠陥品でなくなるのだろうか。

 

 独り言は高く、鈴のように心地よい。ワンピースに袖を通した姿に『酒浪圭』の面影は残っていなかった。

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