桜「中東のライダー?」   作:ヤシの木の里

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モクモクさん

翌朝。

 

桜が目を覚ますと、卓の上に朝食が並んでいた。昨日とは違う店のものだった。鯖の味噌煮、ほうれん草のおひたし、豆腐の味噌汁、白飯。容器のシールには別の店名が書かれている。

 

桜は箸をとった。味噌煮を一口。

 

しょっぱくなかった。

 

出汁の甘みがあって、味噌の塩分がちょうどよく、鯖の脂と調和している。桜は二口、三口と食べた。気づけば鯖を半分食べていた。昨日は三口で止まったのに。

 

ライダーは向かいで自分の分を食べながら、何も言わなかった。ただ桜が食べているのを見て、僅かに目を細めた。

 

朝食のあと、桜は目を閉じた。

 

「モクモクさん」

 

もう名前がついていた。昨日、ライダーが最後に呼んだ名前。モクモクさん。桜の中にいる、あの小さなもこもこした塊。

 

今日のモクモクさんは——カーテンに隠れていた。

 

暗闇の中で、窓辺の布の陰に、薄紫の小さな塊がもぞもぞと潜り込んでいる。顔だけ出して、こちらを窺っている。

 

「カーテンに隠れてます」

 

「うん」

 

「隠れたいみたいです」

 

「隠れさせてあげなさい」

 

桜は何もしなかった。ただ見ていた。モクモクさんがカーテンの陰に隠れて、こちらを覗いて、また引っ込んで。しばらくそうしていた。

 

やがてモクモクさんはカーテンから出てきた。自分から。

 

桜は目を開けた。今日は泣かなかった。でも、胸のあたりが温かかった。

 

---

 

午後。

 

ライダーは桜と話をした。自身の境遇について。

 

「よく、知りません」

 

「…そうか」

 

「はい」

 

「どう感じている」

 

「……わかりません」

 

モクモクさんに聞いてみた。目を閉じて。

 

モクモクさんは丸くなって、顔を隠していた。恨んでいるのか、悲しいのか、わからない。モクモクさん自身もわからないようだった。

 

「わからないそうです」

 

「そうか」

 

ライダーは茶を淹れた。桜の分には砂糖を少し。

 

衛宮士郎のことも話した。桜が「先輩」と呼ぶ少年。セイバーのマスター。桜が毎日夕食を作りに通っていた家。

 

「先輩は——」

 

桜の声が詰まった。

 

「先輩は、知ってるんですか。私がいなくなったこと」

 

「衛宮士郎、と言ったか。学校まで見に行ったが、心配している様子だったな。来週には接触する。すまないが、それまではここにいてほしい」

 

ここにいてほしい。控えめな言い方だ。

 

「それは、どうしてですか?」

 

「昨夜、キャスターが殺害された。恐らくアサシンによるものだ。情報が集まり、拠点の構築が終わるまでは安全を優先させてほしい」

 

「先輩に、会えますか?」

 

「会える。必ず」

 

桜は茶を啜った。温かかった。

 

臓硯の話もした。間桐臓硯。蟲蔵。桜は、間桐臓硯が虫を使うことを淡々と話した。それが桜に何をしたのかは言わず、ただ、家長であり、虫を使うということだけを。

 

「そして、いずれはおまえが二度とあの屋敷に戻らなくていいようにしよう」

 

桜は頷かなかった。何も言えなかった。

 

---

 

三日目の朝。

 

モクモクさんは誰かの膝にいたがっていた。

 

暗闇の中で、薄紫の小さな塊が、きょろきょろと周囲を見回している。膝を探している。座れる場所を。安心できる場所を。

 

「誰かの膝にいたいみたいです」

 

「誰の膝だ」

 

「わからない……でも、あったかいところ」

 

「おまえの膝ではどうだ」

 

桜は正座をほどき、あぐらを組んだ。膝の上に——モクモクさんが乗った気がした。小さくて、軽くて、少しだけ冷たい。

 

両手をそっと膝の上に置いた。包み込むように。

 

「……乗りました」

 

「どんな顔をしてる」

 

「顔はないんですけど——でも、なんだか、ほっとしてる感じです」

 

「よろしい」

 

モクモクさんは桜の膝の上で丸くなった。

 

---

 

四日目の午後。

 

モクモクさんは顔をつねりたがっていた。

 

「顔を?」

 

「つねりたいみたいです。誰かの、じゃなくて——自分の」

 

ライダーは何も言わなかった。待っていた。

 

桜は両手を自分の顔に持っていった。頬を、指先でむにむにと押した。つねるというより、もにゅもにゅと揉んでいる。右の頬を左手で、左の頬を右手で。

 

変な感触だった。自分の顔なのに、初めて触るような感覚。頬は柔らかかった。こんなに柔らかかったのか。

 

むにむに。もにゅもにゅ。

 

桜は——笑った。

 

小さく。ほんの微かに。自分の顔をもにゅもにゅしている自分がおかしくて。

 

笑ったあと、両手で自分の肩を抱いた。あの抱きしめ方。初日にライダーに教わった。

 

モクモクさんが胸のあたりで、満足そうにしている気がした。

 

---

 

五日目の朝。

 

モクモクさんは——おんぶされたがっていた。

 

「誰かに目を閉じておんぶされたい、って」

 

「誰に」

 

「わからないです。でも、大きい人に。背中が広い人に」

 

桜は目を閉じたまま黙った。間桐の屋敷で、誰かの背中に乗った記憶はなかった。お爺様の背中はない。慎二の背中もない。遠坂の家にいた頃の記憶は——ほとんどない。

 

ライダーが立ち上がる音がした。

 

「私がしようか」

 

桜は目を開けた。

 

ライダーが背を向けて屈んでいた。大きな背中。広い肩幅。鎖帷子はないが、タートルネックの下に厚みのある体躯がある。

 

「えっ——でも——」

 

「嫌なら無理にとは言わん」

 

桜は迷った。三秒。五秒。

 

立ち上がった。ライダーの背中に手を置いた。

 

温かかった。

 

布越しに体温が伝わってきた。人の体温。バーサーカーの鉄の肌ではなく、蟲の冷たさでもなく、ただの——人の温もり。

 

桜はライダーの背中に身を預けた、ライダーの腕が桜の膝の裏を支え、ゆっくりと立ち上がった。

 

高かった。

 

視界が高くなった。目を閉じていたから見えなかったが、体が持ち上がる感覚があった。揺れている。ライダーが歩いている。部屋の中を、ゆっくりと。

 

背中は広くて、温かくて、しっかりしていた。

 

泣いてしまった。

 

声は出なかった。ただ涙が、ライダーの肩に落ちた。ぽたり、ぽたりと。タートルネックの布地に染みこんでいく。

 

ライダーは何も言わなかった。ただ歩いていた。部屋の中を、ゆっくりと、ゆっくりと。

 

桜は泣いた。モクモクさんも泣いていた。目を閉じた暗闇の中で、薄紫の小さな塊が、桜の胸のあたりで、静かに泣いていた。

 

しばらくして——泣き止んだ。

 

ライダーが桜を下ろした。クッションの上に。毛布をかけた。

 

「疲れたか」

 

「はい」

 

桜はまた横になった。

 

不思議だった。

 

会ってまだ三日。この人のことをほとんど知らない。名前すら——ライダーという、クラス名しか知らない。どこの国の人で、何をした人で、何を考えているのか。

 

なのに、気持ちが落ち着いていく。

 

モクモクさんと会うのは、毎回とても疲れる。泣くし、体がだるくなるし、眠くなる。でも——嫌な疲れではなかった。蟲蔵のあとの、あの吐き気をともなう消耗とは違う。走ったあとの心地よい疲れに近かった。

 

嫌な涙ではなかった。蟲蔵で流す涙は冷たくて、自分を溶かすようだった。モクモクさんと一緒に流す涙は——温かかった。流すたびに、何かが少しだけ軽くなる。

 

桜は毛布に顔を埋めた。

 

五日。たった五日。でも——間桐の屋敷にいた十一年間の、どの五日間よりも長くて、温かかった。

 

---

 

六日目の夕方。

 

桜が目を覚ますと、食事の時間だった。

 

ライダーが定食を並べている。今日は肉じゃがと焼き魚の定食。三つ目の店。毎日違う店を試しているらしい。

 

桜は箸をとった。肉じゃがを一口。

 

悪くない。でも——。

 

「ライダー」

 

「何だ」

 

「あの——明日は、肉じゃがじゃなくて」

 

桜は言葉を探した。喉の奥が詰まる感覚があった。自分の好みを言う。たったそれだけのことが、こんなに難しい。

 

「オムライスが——食べたいです」

 

言えた。

 

声が小さかった。ほとんど聞こえないくらいの声だった。でも——言えた。

 

ライダーは箸を置いた。

 

「オムライス。卵料理か」

 

「はい。ケチャップライスを卵で包んだ——」

 

「知っている。聖杯の知識にある。明日買いに——いや」

 

ライダーは桜を見た。

 

「作れるか」

 

桜は目を瞬いた。

 

「作れ——ます。先輩の家で、よく」

 

「ならば材料を買ってこよう。おまえが作れ。自分の味で」

 

桜の胸の奥で、何かが動いた。モクモクさんが——顔を上げた気がした。

 

「でも、今日は疲れてるので——」

 

「明日でいい。材料は私が買いに行く。おまえは今日の分を食べて休め」

 

「はい」

 

桜は肉じゃがを食べた。最後まで食べた。味噌汁も飲み干した。

 

---

 

翌朝。

 

卓の上に材料が並んでいた。卵、鶏肉、玉ねぎ、ケチャップ、バター、白飯。ライダーが早朝に買い出しに行ったらしい。卵のパックに付箋が貼ってあり「平飼い有精卵 品質良好」と書かれていた。情報調査スキル。

 

桜は流し台に立った。

 

「桜、いつもは誰のために料理はするんだ?」

 

「えっと、先輩の、ためです。美味しいって言ってもらいたいから」

 

「ふむ、そうか」

 

「今日は…」

 

ライダーのため、と言おうとして言えなかった。なにかが"違う"と言っている気がする。ライダーのために作るという形式、そして、きっと誰のためでもない、作れと言われたから作るという事実があった。

 

「今日は、モクモクさんのために作るといい」

 

「え、モクモクさんですか?」

 

「そうだ。モクモクさんに美味しいものを食べてもらうつもりでやってみなさい」

 

よく分からない、けれど分かる気がする。矛盾した気持ち。

 

三日ぶりだった。包丁を握るのは。間桐の屋敷では毎日のように台所に立っていたが、この部屋に来てからは一度も料理をしていなかった。

 

玉ねぎを刻んだ。鶏肉を切った。フライパンにバターを溶かし、玉ねぎを炒め、鶏肉を加えた。ケチャップを入れて白飯と混ぜ、皿に盛った。

 

卵を溶いた。フライパンに流し、半熟のうちにケチャップライスの上に滑らせた。

 

ケチャップで——何か書こうとして、やめた。

 

二人分を卓に置いた。

 

ライダーが一口食べた。

 

「……うまいな」

 

出来栄えはそこそこだった。卵の火の通りが少し強くて、ケチャップライスの味付けが濃かった。先輩の家で作るときの八割くらいの出来。

 

でも——嬉しかった。

 

自分で食べたいものを言って、自分で作って、食べてもらう。食べさせてあげる。私のために。

 

ライダーはオムライスを完食した。皿に残ったケチャップまで、パンで拭って食べた。パンは買い出しのときに一緒に買ってきたらしい。

 

「次はおまえの好みの塩加減を教えてくれ。定食屋の味付けは合わなかっただろう」

 

桜は——目を見開いた。

 

「気づいて——」

 

「初日。箸の止まり方でわかった」

 

鮭の定食。塩味が濃くて箸が止まった、あの瞬間を——この人は見ていたのだ。見ていて、何も言わなかった。桜が自分で言えるようになるまで、待っていた。

 

「ごめんなさい——あの時、言えなくて」

 

「謝る必要はない。言えなかったことを、今日言えた。それでいい」

 

桜は頷いた。

 

胸のあたりで、モクモクさんがもぐもぐしている気がした。オムライスを食べているのだろう。美味しいかな。美味しいといいな。

 

---

 

その夜。

 

桜が眠ったあと、ライダーは窓辺に座っていた。桜の身体は異常が多い。キャスターではないため詳しくは分からないが、物理的にも魔術的にも、桜の身体は損なわれているのが明らかだった。

 

日中に情報収集のため学校や街を回り、間桐、遠坂、衛宮について調べた。

 

間桐慎二という兄がいるらしいが妹とは思えない。契約の匂いがする。ライダーは契約を扱うサーヴァントであるため、この手の事情は直感的に理解した。

 

遠坂は姉だろうか。先日寝言で「姉さん」と言っていた。間桐と遠坂が魔術家系であるなら、契約のもとに子供を融通するなら両家の間が合理的だ。考えすぎかもしれないが、血筋や政略とは往々にしてそういうものだ。

 

そして衛宮。日本にしては広すぎる家に住む少年。特別なことは特に見当たらないが、主の藤村大河という女性が、どうやら入院中らしい。

 

この街では、少しずつ瘴気に人が蝕まれている。アサシンのせいだろうか。

 

曲刀を膝に置き、目を閉じている。眠ってはいない。見張りだ。毎夜の。桜が眠っている間、この部屋を守る。蟲が来ないように。闇が忍び込まないように。

 

夜が深くなった。午前二時。街の音がほとんど消えた。

 

ライダーは目を閉じたまま、口を開いた。

 

「そろそろだと思ったよ」

 

声は低く、静かだった。

 

「しかし、なかなかどうして。もう幕切れとはな」

 

首に、鋼の冷たさがあった。

 

大剣。喉元に、あと一寸で皮膚に触れる距離に、巨大な刃が添えられている。いつ来たのか。気配がなかった。探知結界に反応がなかった。音もなかった。ただ——気づいたときには、首に剣があった。

 

ライダーはアサシンが来れば対処できると考えていた。

 

聖杯戦争のアサシンのクラス。ハサン・サッバーハ。歴代の暗殺者。気配遮断のスキルを持つが、ライダーの探知はそれを補正できるはずだった。結界を張り、気配を探り、曲刀で応じる。それが想定だった。

 

しかし——一切悟られずに首元に剣を突きつけられるとは、思いもしなかった。

 

これは歴代のハサンではない。

 

「抵抗はせん」

 

ライダーは目を閉じたまま言った。

 

「切るがいい」

 

大剣は動かなかった。

 

一秒。二秒。三秒。

 

切らない。

 

「なぜ切らん」

 

沈黙。

 

そして——声が降った。

 

低く、重く、底のない声。砂と岩と千年の死を踏破した声。耳ではなく、意識の最も深い層に直接刻まれる声。

 

**「——アイユーブの王よ」**

 

ライダーの目が開いた。

 

琥珀色の瞳が、闇の中を見た。背後に——いた。黒い外套。巨大な体躯。天井に届くかと思うほどの背丈。右手に大剣。

 

そして顔——顔ではない。髑髏。人の顔の代わりに、骸骨の面が闇の中に浮かんでいる。

 

「なぜそれを——」

 

真名を知っている…?

 

ライダーの思考が加速した。聖杯戦争のアサシン。ハサン・サッバーハの名を冠する者。歴代の山の翁。だがこの存在は——歴代ではない。初代。全てのハサンの上に立つ者。概念に近い存在。

 

そして——生前の縁がある。

 

「そういうことか」

 

ライダーは息を吐いた。

 

「まさか、生前の縁がこうなるとはな」

 

ライダーはハサン・サッバーハと生前に縁があった。それも、状況を説明できるだけの縁が。

 

だが——。

 

「しかし、私と貴殿は会ったことがないはずだ」

 

ライダーの声が冷静に戻った。

 

「私が会ったことがあるのは、貴殿の意志を継いだあとの者だ。歴代のハサンたち。彼らと停戦を結んだ。貴殿は——初代。私の時代には、すでに伝説の存在だった」

 

髑髏は何も言わなかった。

 

大剣は首元に添えられたまま。動かない。切らない。だが退きもしない。

 

ライダーは髑髏を見つめた。

 

「いや、そうか」

 

理解した。

 

「貴殿は裁定に来たわけだな」

 

髑髏は動かなかった。

 

「あの停戦条約。私が貴殿の後継者たちと結んだ不可侵。それが正しかったのか。私がそれに値する人間だったのか。——貴殿は、それを見定めに来た」

 

沈黙。

 

だが否定もなかった。

 

ライダーは——微笑んだ。目尻の皺が深くなる、あの笑み。首に大剣を突きつけられたまま。

 

「よかろう。ならば見届けるがいい。わが道行きを」

 

大剣が離れた。

 

首元の冷たさが消えた。振り返ったとき——そこには何もなかった。黒い外套も、髑髏も、大剣も。気配の残滓すらない。最初からそこには誰もいなかったかのように。

 

ただ——部屋の空気が、ほんの僅かだけ重かった。砂と岩と死の匂いが、一瞬だけ残って、消えた。

 

ライダーは桜を見た。

 

桜は眠っていた。何も気づかずに。薄い毛布に包まれて、穏やかな寝息を立てて。モクモクさんも、きっと眠っているのだろう。

 

ライダーは曲刀を握り直した。

 

翁が来た。初代ハサン。あの存在が聖杯戦争に関与しているなら——状況は想定よりはるかに深刻だ。歴代のハサンではなく初代。概念に近い暗殺者。ライダーの結界すら素通りする隠密能力。そしてあの大剣。

 

裁定。見届ける。つまり——今すぐは切らない。だがいつでも切れる。ライダーの命も、桜の命も、この街の誰の命も。翁がその気になれば、一夜で全てが終わる。

 

これは——今日のうちに動かねばならない。

 

衛宮士郎。セイバーのマスター。桜が「先輩」と呼ぶ少年。

 

遠坂凛。アーチャーのマスター。桜の姉とおぼしき人物。そしておそらく——この聖杯戦争で最も優秀な魔術師。

 

同盟を結ぶ。桜の安全を確保するために。翁の脅威に対抗するために。そして——桜と先輩、桜と姉の心理的な繋がりを保つために。モクモクさんが安心して眠れる場所を、もっと広くするために。

 

ライダーは桜の肩に毛布をかけ直した。

 

「桜。少し出る。朝には戻る」

 

桜は寝返りを打ち、小さく唸った。

 

「……気をつけて」

 

寝ぼけた声だった。半分眠ったまま、無意識に出た言葉。

 

ライダーは一瞬だけ足を止めた。

 

それから——窓を開け、冬木の夜に出た。

 

月が出ていた。二月の細い月。冷たい風が頬を打った。間桐の屋敷の湿った空気とは違う、乾いた冬の風。

 

ライダーは屋根を走った。冬木の街並みを飛び越え、住宅街を抜け、衛宮邸の方角へ。

 

背後で——何かが見ている気がした。

 

髑髏の目。闇の奥から。

 

見届けるがいい。

 

ライダーは走った。

 

桜はウトウトとしつつ、ライダーが出ていったドアを見つめる。間桐家にいたときに感じていたことは、少しずつ変質してきている。きっと良い方に。けれど、それと同じくらい、寂しさを感じるようになった気もする。ライダー、あなたがドアから出ていって、温もりが一つ減って、生命がいつも私だけになるんです。

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