いつかは魔王!   作:元近ちか

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第2話 運命の少女

「いつか魔王になる!」

 

 銀髪の青年は(こぶし)を握り、そう宣言した。

 村のおばあちゃんに、旅の目的を聞かれたからである。

 

「あらぁ……滅多(めった)なこと言うんじゃないよぉ」

 

 おばあちゃんが、穏やかに(なだ)める。

 しかし、青年は意に介さず、

 

「ふっ。おばあちゃん、忠告はムダだ。

 おれは他人の指図(さしず)は受けない。ただ、おれの意志と欲望だけに従う。

 その為に、おれは力を求める。この世で絶対の力の象徴(しょうちょう)……魔王になるんだ!」

「わしもそんな年頃があったのう」

 

 青年の隣にいるおじいちゃんが、しみじみと目を細めた。

 

 青年の背にはマント。腰には長剣という、旅人らしい服装。

 外見は20歳前後。黙っていれば繊麗(せんれい)な面持ちをしているが、自らの俗な言動で恵まれた容姿を(おとし)めている。

 

 昼下がりの村の広場。陽光(ようこう)(うら)らかで、時間だけがゆっくりと流れていた。

 ベンチに3人が座って並ぶ中、おばあちゃんが手を挙げた。

 

「はい、ハルちゃん。質問」

「なんだ?」

「この国でもね、100年前に『疫病(えきびょう)の魔王』っていうのが現れたのよ。

 スパイク村のお嫁さんが、結婚式を挙げている時に魔王になっちゃったの。

 魔王になりたいのなら、ハルちゃんも結婚式を()げたりするのかしら?」

「おお、めでたいのう」

 

 言葉の一部だけ拾ったらしい。おじいちゃんは、がっくりがっくり(うなず)いた。

 ハルちゃんと呼ばれた青年──ハルスフォートは、腕を組んでどう説明したものか悩んだ。

 

「……そりゃあ、魔王っていうのは誰でもなれるさ。

 ただの村人だろうと、この国の王様だろうと、盗賊だろうと、魔王の種は人間なら誰だって持っちゃいる。

 だが、全員がなるワケじゃない。3つの要因のいずれかを満たした人間が、魔王化のクジを引くのさ」

「で、いつ結婚するんじゃ?」

「しない」

 

 おじいちゃんの真性(しんせい)ボケをかわし、ハルスフォートは人差し指を1本立てた。

 

「1つ。激しい感情を(いだ)いた時。

 おばあちゃんが言っている事例がそうだ。結婚の喜びだろうと、殺される怒りだろうと関係ない。

 誰でも発現(はつげん)できる、最も多い事例だ」

「そうねぇ。イヤだわぁ、喜んでもダメだなんて」

 

 おばあちゃんのため息が、足の間に落ちた。

 ハルスフォートは構わず、立てる指を2本に増やす。

 

「2つ。血縁者(けつえんしゃ)に魔王化した人間がいる時。近ければ近いほど、当たりクジが多くなる。

 残念ながら、おれはこれに該当しない。

 どこぞの国じゃ、魔王化した人間の3親等(しんとう)以内は死刑、なんて法律があるらしい。

 ……まあ、その迫害(はくがい)のせいで、強い(うら)みや恐怖を抱えた血縁者(けつえんしゃ)から、更に魔王が続出したが」

「なんじゃ、そんな物騒な国。このレイワズ王国に産まれて良かったわい」

 

 おじいちゃんが、謎にふんぞり返る。

 そして、ハルスフォートは強調するように、3本の指を振った。

 

「3つ。高い魔力を持っている時」

 

 その言葉だけ、わずかに熱を帯びる。

 

「生来、人間には魔力の上限が存在する。この上限は基本的に変える事ができない。

 しかし、おれには力がある。その力をもってすれば──おれでも呪算紋(グリマ・グリフ)の10や20、増やす事ができる!」

「あたしの呪算紋(グリマ・グリフ)、2つらしいわぁ。小学校で測ったのよ」

「わしゃあ、5つじゃな。いやあ若いころは魔術師にならんかとスカウトされたもんじゃ。詠唱できんからムリだったのう」

 

 ほっほっほ、と老夫婦が笑い合う。

 自然に魔力マウントを取られた青年は、頬を引きつらせながらもグッと(こら)えた。

 

「──とにかく、クジなんて引けば引くほど当たる確率が上がる。

 だからおれは、魔王になるべく魔力を求めている。高い魔力に激しい感情を乗せれば、いずれ──」

 

 彼の物騒(ぶっそう)な言葉を中断させるように、おばあちゃんがお盆を差し出した。

 

「まあまあ。長話なんて、あたしら老人に任せればいいんだから」

 

 差し出された盆には、干し柿と、湯気の立つ番茶(ばんちゃ)()せられている。

 

「とにかく、魔女を倒してくれてありがとねぇ。お礼の干し柿だよ」

「ふん。おれは『魔女』とやらの魔力を狙っていただけだ。

 私欲を善意と解釈(かいしゃく)するとは、愚かな……」

 

 褒められたハルスフォートは、得意げに鼻を鳴らした。

 お盆の上の干し柿とお茶は、ちゃっかりと受け取る。

 

 甘味と渋みを(たしな)んでいると、広場の方から歓声が(はじ)けた。

 

「あはははっ! 次はリスティが鬼だぞー!」

「ええっ、待ってよぉ……!」

 

 子供たちの笑い声が、風に乗って流れてくる。

 秋帯(しゅうたい)特有の透き通った青空に、声が高く溶けていった。

 

 鬼ごっこだろうか。小さな影たちが四方へ散り、乾いた土を蹴る音が軽やかに続く。

 その中心に、ひとり──黒髪の少女が取り残されていた。

 

「リスティ」と名を呼ばれた少女は、追う事もなく立ち尽くし、指先だけが落ち着きなく揺れている。

 追うべき相手は沢山で、(まど)う間に離れていく。

 

「…………」

 

 迷いを抱えたままのその姿に、ハルスフォートがふらりと歩み寄る。

 そして、彼は手を差し出した。

 

「髪をよこせ」

「え……!?」

 

 初対面の青年から、謎の要求である。

 リスティは肩をびくりと震わせ、ハルスフォートから一歩引く。

 

「あの……誰、ですか? この村の人じゃないですよね……?」

 

 声は小さいが、大人相手に逃げも黙しもしない程度には気丈なようだ。

 ハルスフォートは、言葉を続ける。

 

「おれはハルスフォート。旅人だ。

 おまえが髪をよこせば、おれがガキどもを捕まえてやる」

 

 少女相手に、取引を持ちかけるハルスフォート。

 それに対し、彼女は柔らかく首を横に振った。

 

「……大丈夫です。

 他の人の手を借りなきゃいけないような、大それた遊びではないので」

 

 年不相応(としふそうおう)に大人びた口調。

 言い終えると、彼女は子供たちを追い始めた。

 

 逃げる子供たちに翻弄(ほんろう)される、小さな背を眺める。

 あの様子では、リスティは鬼を交代できずに終わるだろう。

 

 ハルスフォートは呆れたようにため息を吐き、ベンチに戻った。

 腰を下ろすと、おばあちゃんがぽつりと(こぼ)す。

 

「あの子、立派でいい子なんだけどねぇ……。

 甘えたい盛りの年なのに、たった一人で生きているんだよ」

 

 風が、言葉をさらう。

 

「『あたしの家で一緒に住まないか』なんて誘っても、断られちゃってねぇ……。

 もう老いぼれは、それ以上言えないよ」

 

 おばあちゃんの言葉に、ハルスフォートは自然とリスティの姿を目で追う。

 

 10歳かそこらの年頃だ。

 頼るべき両親もいない環境で生きるなら、大人相手に渡り合わなければならない時も多いだろう。

 だから、あんな大人びた態度なのか。

 

 逃げ回る子供たちに翻弄(ほんろう)されているリスティの様子を、ハルスフォートがただ眺めていると──。

 

「──お困りのようね」

 

 背後から落ちた声は、(りん)()んで、よく通る。

 

 振り返ると、15歳ほどの赤毛の少女が立っていた。

 黒の修道服(しゅうどうふく)に身を包んだシスターの姿は、穏やかな陽光(ようこう)の中でどこか浮いて見えた。

 

 しかし何より目を引くのは、背に負った棺桶。

 少女の細い体には不釣り合いなそれを、彼女は重さを感じさせずに背負っている。

 

「何……?」

 

 ハルスフォートの口から疑問が漏れるも、シスターが声をかけたのは彼ではないようだ。

 シスターはベンチの前を横切り、リスティの前に立つ。

 

「ねぇ、そこのお嬢さん。あたしがお節介(せっかい)を焼こうかしら?」

 

 クスリ、と笑いながら、シスターがリスティに提案する。

 

「いえ……別に困ってはいないです」

 

 ハルスフォートの時と同じように、お節介(せっかい)を断ろうとするリスティ。

 だが、有無(うむ)を言わせないように、シスターが言い(つの)る。

 

「イヤなこと、イヤって言えない性分(しょうぶん)でしょ?

 だから、手を貸すわ」

 

 瞬間。

 

「わっ!?」

「ええっ!?」

 

 言うが早いか、シスターは子供たちを次々と捕まえていく。

 棺桶の重さなど存在しないかのように、軽やかにシスターは笑った。

 

「今はあたしが鬼よ。捕まったら、あの子の所に行きなさい!」

 

 突然乱入してきたシスターに戸惑いながらも、捕まえられた子供たちは渋々リスティの元へと集まっていく。

 あっという間に、残り一人。

 

「へへーん! ここまで来れないだろ!」

 

 最後まで逃げ延びようとした一人の少年が、広場の木の上へとよじ登った。

 

「あら、そう?」

 

 木を見上げたシスターの足元に、淡い光がひらく。

 浮かび上がる呪算紋(グリマ・グリフ)の数は──。

 

「10……!」

 

 思わず、ハルスフォートの喉から漏れる。

 単純に言えば、ハルスフォートの10倍の魔力を、あのシスターは持っている。

 

「……良い獲物だ」

 

 ハルスフォートは人知れず舌なめずりし、視線をシスターに集中させる。

 シスターは彼の熱視線(ねっしせん)に気づく事なく、術を完成させた。

 

跳空(エアステア)!」

 

 タンッ!

 

 何もない空中を蹴る。

 見えない階段を駆け上がるように、樹上(じゅじょう)の少年と同じ高度まで跳躍(ちょうやく)した。

 

「捕まえたっ!」

「わわっ!?」

 

 木の上の子供を抱え、地上に降り立ったシスターを、子供たちが物珍しそうに取り囲んだ。

 

「すっげー! 魔術師!?」

「ねえねえ、シスターのお姉ちゃん! 名前はなんていうの?」

 

 目を輝かせる子供たちに対し、シスターは温和な笑みを浮かべて口を開く。

 

「あたしの名前は──」

 

 シスターは子供たちに温和(おんわ)な表情を(よそお)い──自称する。

 

「ジェーン。名無し(ジェーン・ドウ)よ」

 

 偽名として広く知られる名前で、シスターが自身を定義した。

 

名無し(ジェーン・ドウ)? どうして名前をおしえてくれないの?」

 

 小さな少女が、小首を(かし)げる。

 額にかかった髪が揺れ、その隙間から(のぞ)く瞳がジェーンを見上げた。

 

 ジェーンは、少女の頭にポンと手を置く。

 手の平で髪を()で、おどけたように答えた。

 

「んー、忘れちゃった。だからジェーンって呼んでね」

 

 軽く笑う。

 少女は目を丸くして(まばたき)きをしてから、すぐに顔をほころばせた。

 

「うん!」

 

 その声を合図にしたように、周りの子供たちも口々に笑い出す。

 疑う事を知らない子供たちを、ハルスフォートは冷ややかに見ていた。

 

「……世間知らずなガキ相手で良かったな」

 

 離れた場所で、低く漏らした言葉は、誰にも拾われないまま落ち葉と散る。

 

 偽名は、この世界では殊更(ことさら)不審に思われる。

 家名(かめい)が血筋と密接な関係にある以上、相手が魔王の身内か否かの判断材料だ。それを隠すなら、思考は悪い方向に倒れていく。

 

 ジェーンを囲うように、子供たちが輪を作った。

 小さな身体(からだ)が押し合い、土埃(つちぼこり)の匂いが風に乗る。

 

「ジェーン姉ちゃん、魔術師なの?」

「ええ、そうよ。

 あたしは、魔人を相手にする宵祓(よいばらい)だから」

「よいばらい?」

 

 オウム返しする少年に、ジェーンは指先で空をなぞり、言葉を選ぶ。

 

「人間の中にはね、魔王の手先である『魔人(まじん)』が潜んでいるのよ。

 見た目は、人間と同じ。でもね、人を殺したがる悪いヤツなの」

 

 ジェーンの声の、温度が下がる。

 

「あたしは、人を殺す魔人を、殺すのが仕事よ」

 

 一拍(いっぱく)の間を置き、能天気な少年がポン、と手を叩いた。

 

「へー! ジェーン姉ちゃんは正義の味方なんだ!」

 

 ジェーンは、(あご)を上げて笑んだ。

 

「……ま、そう思ってくれると、ありがたいわね」

 

 わあ、と子供たちから歓声が上がり、好奇心が次から次へと湧いてくる。

 

「その棺桶はなに?」

「商売道具が入ってるの。開けちゃダメよ」

「いつから宵祓(よいばらい)なの?」

「12歳の頃からね。その時に旅を始めたわ」

「ウサギと昼寝どっちがすき?」

「昼寝」

 

 矢継(やつ)(ばや)の質問に、(よど)みなく答えていくジェーン。

 その調子の良さに、子供たちはますます笑い声を大きくしていく。

 

 子供たちの喧騒(けんそう)の中。ジェーンは、一人だけ静かにしている子供に視線を流した。

 

 輪の外。

 一人だけ、距離を取って佇立(ちょりつ)する少女。リスティ。

 

 ジェーンは手を横に振り、子供たちのざわめきはわずかに静まる。

 

「──ところで、あんたたち。

 鬼ごっこするのはいいけど、全員が楽しくないと意味ないでしょ?」

「えー? なんのこと?」

 

 ジェーンが、視線でリスティを指し示す。

 

「あそこの女の子、ずっと鬼になってたじゃない。

 それって不公平よね? そんなことをする悪い子は、いつか魔王になるわよ」

 

 おどろおどろしい声色(こわいろ)を作って、ジェーンが子供たちを(おど)かす。

 子供たちは気まずそうに顔を見合わせた後、その中の少年がリスティに近寄った。

 

「じゃあ……リスティ。今度はかくれんぼしようよ」

「あ、はい。分かりました」

「今度は、オレが鬼な! ぜってーみんな見つけてやるから!」

 

 流れが変わり、リスティの肩から力が抜ける。

 

「は、はい。がんばります!」

「遊びでもがんばるのって、マジメだなー!」

「いいじゃん。いっしょに遊べれば!」

 

 子供たちの不和(ふわ)調停(ちょうてい)され、鬼役の子供が(こぶし)を突き上げる。

 

「じゃあ、かくれろー!」

 

 掛け声と同時に、子供たちが一斉に散っていく。

 土を蹴る音が、軽やかに広がった。

 

 リスティもまた、少しだけホッとしたような表情を見せ、足早にどこかへと去っていく。

 

 子供たちを見送ったジェーンは、棺桶を背負い直した。

 そのままベンチへと歩み寄り、数歩手前で立ち止まる。

 

 彼女は(すそ)を整え、静かに腰を折った。

 

「初めまして。要請をいただいて参じました、宵祓(よいばらい)のジェーン・ドウです。

 それで、あなたがたが『魔女』と呼んでいる人物は、どこで出没していますか?」

 

 おばあちゃんが、ポン、と手を打つ。

 

「ああ~。実は、もう大丈夫になっちゃったのよ。

 このお兄ちゃんが、魔女を倒したからねぇ」

 

 おばあちゃんが隣のハルスフォートを指すと、彼は堂々と胸を張った。

 

「そうだ。おれの手にかかれば、魔女などチリメンジャコに等しい」

 

 不遜(ふそん)な態度のハルスフォートへ、ジェーンは見定めるような視線を向けた。

 頭から足先まで、目線は上下に移動する。

 

「……あなた、名前は?」

「ハルスフォート。家名(かめい)はジェスベインだ」

 

 ジェーンは彼の名前を記憶の索引(さくいん)にかけ、数秒後に肩をすくめる。

 

「全っ然知らない。

 あなた、本当に魔女を倒したの?」

 

 無名の人間が倒したなどと信じられない。そんなニュアンスをこめた詰問(きつもん)

 しかし、ハルスフォートは(おく)する事なく事実を誇る。

 

「無論だ。杖のはしっこから氷出してきたが、剣術と魔術が両方そなわったおれが遅れをとるはずは無い」

「ふーん」

 

 ジェーンが(いぶか)しむように目を細め、ハルスフォートを質問で探った。

 

「それじゃ、その魔女って金髪だった?」

「夜に遭遇したから、分からなかったな」

呪算紋(グリマ・グリフ)はベラドンナとヤモリ?」

魔式装具(マギスレイヴ)を使っていたので、見ていない」

「うーん……確かな情報がないわね」

 

 半信半疑のジェーンに、ハルスフォートが追加情報を出す。

 

「しかし、『魔女の森』とは有名無実(ゆうめいむじつ)だな。

 実際にいたのは、魔式装具(マギスレイヴ)頼りの下郎(げろう)とは、甲斐(かい)のない──」

 

 ハルスフォートの(なげ)きに反応し、ジェーンに電撃が走った。

 

「違うじゃない!」

「なんだ?」

 

 ジェーンは一歩踏み出し、ハルスフォートに詰め寄る。

 

「魔女はとーぜん女よ!

 エリス・タークトッド! 魔術師ギルドから追放処分された、魔人疑惑の女!

 あんたが倒したそいつは、魔女の名を(かた)ったチンピラでしょ!」

「えぇっ!?」

 

 ジェーンが怒鳴りつけ、ハルスフォートが面食(めんく)らう。

 ジェーンはおばあちゃんに向き直ると、ハルスフォートを指さして言い(つの)る。

 

「こいつの謝礼は取り消してください。

 あたしがこれから、本物の魔女を倒しに行きます!」

「あらぁ……それじゃあ、ハルちゃんに干し柿戻してもらわないと」

「吐くのか!?」

 

 場の空気が一気に崩れ、騒がしくなる。

 

 その時、ベンチの裏の茂みから、一人の少年が顔を出した。

 先程、木の上に登っていた少年だ。

 

「えっ……魔女、まだいるの?」

 

 少年は、かくれんぼの最中に大人たちの会話を聞いてしまったらしい。

 血の気が引いた顔で、少年は言葉を絞り出す。

 

「そ、そんな……どうしよう!

『魔女の森』の奥へ、隠れに行っちゃった子がいるよ!」

「なっ──」

 

 少年の言葉に、その場にいた全員が凍りついた。

 

「それは誰!? 何人!?」

 

 ジェーンが問い詰めると、少年は固まった口を必死に動かす。

 

「サッフィーとハンスとリスティ……3人! 3人のはず!」

 

 (いま)だ魔女が健在の森に、子供たちが行ってしまった。

 それを聞いたハルスフォートが(かが)み、少年と視線を合わせる。

 

「分かった。おれが魔女を倒さなかったせいだ、すまない」

「おにいちゃん……」

「この件については、おれが必ず解決する」

 

 少年の不安そうな目に、しっかりと向き合う。

 ハルスフォートが立ち上がり、右手が剣の(つか)に触れる。

 

汚名挽回(おめいばんかい)だ! おれが今度こそ魔女を倒して……その力を取りこんでやる!」

 

 チャキッ──。

 

 (さや)からわずかに刀身を見せ、ハルスフォートは戦意を(きら)めかせた。

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