いつかは魔王!【第一部完結】   作:元近ちか

32 / 32
第6話 一難は去れど

 ハルスフォートは、雷ドレイクの足元を睨んだ。

 

 剣は地面の下にある。

 この巨体を、自分の魔術で押しのけるのは不可能。

 

 二つの難題を一挙に解決できる考えが、ハルスフォートにはあった。

 ドレイクの足元を意識し、詠唱を結ぶ。

 

地掘穴(モール・ネイル)!」

 

 唱えたのは、地面に穴を掘るだけの魔術。

 より正確に言えば、指定した地点の地下にある、数メートルの土を消滅させるものだ。

 

 ボゴッ!

 

 ドレイクの足元から、土が消失した。

 

「ギィッ!?」

 

 グラッ!

 

 足場が急になくなり、ドレイクがたたらを踏む。

 だが、ドレイクはすぐに翼を広げる。

 

 バサァッ!

 

 激しい羽ばたきが、土煙と腐葉土を吹き散らした。

 雷ドレイクの巨体が、落とし穴から浮き上がり始める。

 

「──だがこれは、ただの牽制だけじゃない」

 

 地掘穴(モール・ネイル)が消したのは、ドレイクを支える地面だけではない。

 剣を閉じ込めていた土も同じだった。

 

 バッ!

 

 ハルスフォートは、舞い上がる土煙の中へ飛び込む。

 

 頭上では翼が激しく羽ばたき、腐葉土と小石が頬を打った。

 それでも足を止めず、穴の縁へ滑り込む。

 

 地面から半ば突き出した(つか)を手にする。

 

 ズッ!

 

 今度は、あっさりと抜けた。

 土を払い落とすように剣を振るい、ハルスフォートは刃を構え直した。

 

「ギュイッ……!」

 

 頭上で、雷ドレイクが低く鳴いたその時。

 

 ガッ!

 

「っ!?」

 

 爪がハルスフォートの肩へ食い込み、体が地面から引き剥がされる。

 

 バサァッ!

 

 雷ドレイクは翼を打ち、ハルスフォートを掴んだまま上昇した。

 

 木々が足元へ遠ざかる。

 逃れようにも、巨爪が体を締めつけて動けない。

 

「ハルスフォートさん!?」

 

 リスティが詠唱する口を一時的に止め、悲鳴を上げる。

 彼女を安心させるように、ハルスフォートは親指を立てて返してみせた。

 

「続けろ! 合図したら即座に撃てるようにするんだ!」

「は、はい!」

 

 想定通りという訳ではないが、この場を切り抜ける策は何通りかある。

 

 バチバチッ──!

 

 頭上で雷が弾けた。

 

 ドレイクの青い尾に、光が集まっていく。

 この距離で放たれれば、避けようがない。

 

 ハルスフォートは、巨爪に捕らわれたまま詠唱する。

 

跳空(エアステア)!」

 

 空を跳ぶ魔術。

 だが、ドレイクに拘束された今この時には、意味のない魔術。

 

 故に──これは後のための術。

 

「はあっ!」

 

 ハルスフォートは自身の肩を掴む爪の付け根へ、剣を突き立てた。

 

 ザグッ!

 

「ギャアアアッ!?」

 

 爪が緩む。

 

 ハルスフォートの体が宙へ投げ出された。

 

 タッ!

 

 自由の身となったハルスフォートが、跳空(エアステア)の効果で虚空をステップする。

 彼は空中を蹴り、雷を蓄える青い尾へ向き直った。

 

「雷が尻尾から出るなら、尻尾ごと斬ればいい!」

 

 ハルスフォートの叫びに、ドレイクが呼応する。

 

「ギャケエェッ!」

 

 恐らく、ドレイクは野生なりに直感しているのだ。

 通常の剣なら、ドレイクの尾を一太刀で断つなど不可能。

 尻尾を斬り落とそうと何度も斬りかかるよりも前に、雷撃を放てると見通している。

 

 だが──。

 

「地中の龍脈を使って、麻酔の魔法陣が組み立てられたなら──」

 

 ハルスフォートが、ドレイクの尻尾に向かって振りかぶる。

 

「──おまえが地中にブッ刺した罪なる傷(シェヴムシャード)は、その龍脈の魔力を吸っている!」

 

 魔式装具(マギスレイヴ)罪なる傷(シェヴムシャード)

 魔力を刃に受けるほど、その切れ味を増す宝剣。

 

 ザンッ!

 

 青い尾が、宙を舞った。

 

「ギャアアアアッ!?」

 

 ドレイクが絶叫する。

 

 ブシュウッ!

 

 切断面から青い血が噴き、蓄えられていた雷の一部が、火花となって弾けた。

 切られた尻尾は戦場の端へ落ちる。

 

 最大の脅威であった雷撃は、これで封じた。

 

 だが、喜ぶには早い。

 

「リスティ! 1秒後だ!」

 

 ハルスフォートの呼びかけに、

 

「──!」

 

 リスティは、親指を立てて準備完了を示した。

 

 ドレイクは空中にいる。

 リスティとの射角と距離からして、眠っている方を巻き込む危険性は少ない。

 

 ──仕留められる。自分さえ離れられれば。

 

 ハルスフォートは足裏を下へ向ける。

 

 自由落下だけでは遅い。

 一秒でも早く、ドレイクから離れなければならない。

 

 ダッ!

 

 空を蹴る。

 

 反発力がハルスフォートの体を地上へ撃ち出した。

 風を切り、ドレイクから急速に遠ざかっていく。

 

 ハルスフォートの姿を目で追っていたリスティは、きっかり1秒後に魔術を放った。

 

輝疾氷刃(ブリザード・ブレイド)!」

 

 (まる)くも凛とした声と共に、その両手が空に掲げられる。

 

 ギュズグオンッ!

 

 128の呪算紋(グリマ・グリフ)が、展開音を響かせた。

 その膨大な呪算紋(グリマ・グリフ)から放たれたのは、全てを凍て付かせる絶対の冷気。

 

 ギキイイィィィィィンッ!

 

 木々の青葉も、空気中の全ての水分すら固化して奪い去る冷気の侵略。

 

「     !」

 

 真正面から食らったドレイクは悲鳴すら上げられなかった。

 

 翼が凍りつき、巨体を白い氷が覆っていく。

 雷ドレイクは空中で氷塊と化し、そのまま地面へ落下した。

 

 ドズゥンッ!

 

 大地が揺れ、砕けた氷と土煙が舞い上がった。

 

「やった……!」

 

 リスティが息を吐く。

 

「…………」

 

 その横で、ワローはリスティを信じられないものを見るような目を見開いていた。

 

「君……その、呪算紋(グリマ・グリフ)……いくつ、だった……?」

「あ、128です」

「……まあ、実際に魔術を目にしなきゃ、リスティが人型災厄(ウォーキング・ディザスター)だなんて納得できないよな」

 

 一仕事を終えたハルスフォートが、リスティとワローのもとへ合流する。

 

「お疲れ様です! ハルスフォートさんのお陰で、なんとか勝てました!」

「……麻酔の効果時間もまだ切れない頃合いだ。その、本当に君たちは手練れのようだ」

「なんだ? 報酬に色でもつけてくれるのか?」

 

 和気藹々と勝利の余韻に浸る3人だが、ワローがカバンからメスを取り出した。

 

「追加報酬の話をするのは、ちゃんと雷ドレイクの生き胆を採取してからだ。

 とはいえ、再度麻酔の処置は必要だ。だが今回は眠っているドレイクに直接魔法陣を描けば──」

「ギュケッ……」

 

 ぴくり、と3人が肩を揺らす。

 

 鳴き声が発生したのは背後。

 眠っているはずのドレイクの方角からだ。

 

 バチィッ。

 

 先程、戦闘していたドレイクから切断された青い尾。

 それが、地面で痙攣している。

 

 バチッ。

 

 残った雷が、尾先で弾けた。

 その雷は──眠っているドレイクの腹部に吸い寄せられていた。

 

 ワローのメスが刺さったままの、その腹部。

 

「まずい!」

 

 バヂィッ!

 

 ロウソクの火が、最後に大きく燃え盛るように──滞留していた電気の中でも、一際大きな電流が、切断された尻尾から流れた。

 

「ギャアアアァッ!?」

 

 メスを通って、体内から直に電気ショックを受けた。

 眠っているはずのドレイクの巨体が、大きく跳ねる。

 

「か、雷属性だったら、雷に耐性があるとか、ないですかね……?」

「……デンキウナギだって、自分の雷で感電する。

 少なくとも、体内まで完全に絶縁されているわけではない……!」

 

 ドレイクの閉じていた瞼が、ばっちりと開いた。

 

「グオォ……!」

 

 勝手に眠らされ、勝手に起こされ、寝起きながらもドレイクの機嫌はすこぶる悪いようだ。

 

 ガズッ!

 

 四肢が地面を掻く。

 巨体は、麻酔を食らっていたとは思えないほど、怒りを湛えて機敏に起き上がった。

 

 目覚めたドレイクが頭を振る。

 その視線が、3人を捉えた。

 

「ギィィィィィッ!」

 

 森を揺らす怒号が、3人を震わせた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。