いつかは魔王!【第一部完結】   作:元近ちか

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第7話 紫電よ、敵を貫け

「ギィィィィィッ!」

 

 森を揺らす怒号が、木々の枝葉を震わせた。

 

「クソッ!」

 

 ザッ!

 

 ハルスフォートは剣を構え直し、目覚めた雷ドレイクの前へ出る。

 

「グルルル……」

 

 低く唸りながら、ドレイクはゆっくりと頭を巡らせる。

 ドレイクの瞳に、リスティが映った。

 

「……っ」

 

 リスティは息を呑み、その場で身を固くした。

 その背後では、メスを握ったままのワローが、青ざめた顔で一歩後ずさる。

 

 ドレイクは二人を見据えたあと、最後にハルスフォートへ顔を向けた。

 ハルスフォートの衣服には、囮となるために浴びた鹿の血が、まだべったりとこびりついている。

 

 濃密な血臭を嗅ぎ取ったドレイクの瞳が、細く(ゆが)んだ。

 

「……そうだ。おまえの相手はおれだ」

 

 ハルスフォートは呟き、剣の切っ先をわずかに下げる。

 彼はドレイクから目を逸らさないまま、声を張り上げた。

 

「リスティ! 輝疾氷刃(ブリザード・ブレイド)を頼む! 生け捕りは無理だ!」

「は、はい!」

 

 リスティは即座に返事をし、一歩だけ後ろへ下がった。

 彼女は喉元へ手を当て、息を吸う。

 

「原始の槍。極北の大海を統べる青──」

 

 凛とした詠唱が始まる。

 同時に、雷ドレイクの頭が低く沈んだ。

 

「グウギュッ!」

 

 ザグッ!

 

 後脚の爪が、地面を掻き蹴った。

 

 ズンッ!

 

 巨体が一息に間合いを潰す。

 

「ギャアアアァッ!」

 

 ハルスフォートの上半身へ食らいつかんと、牙の並んだ大口が開かれる。

 牙が噛み合う寸前、ハルスフォートは身を沈めた。

 

 ガチンッ!

 

 頭上で、鋭い牙が空を噛む音。

 雷ドレイクの下顎すれすれを潜り抜け、その長い首の脇へ滑り込む。

 

 ハルスフォートは低い姿勢のまま、ドレイクの胴体に沿って駆けた。

 

 狙うのは、巨体を支える右の後脚。

 

「そこだ!」

 

 ザシュッ!

 

 罪なる傷(シェヴムシャード)の刃が、後脚の関節裏を走った。

 

「ギャアッ!?」

 

 青い血が飛び散る。

 雷ドレイクの右脚から力が抜け、巨体が大きく傾いた。

 

 ズズンッ!

 

 ハルスフォートの背後で、リスティの詠唱が続いている。

 

 ──まだだ。

 

 詠唱の完了にも、腱を断ち切るにも、まだ浅い。

 動きを鈍らせることはできても、あれだけの巨体を止めるには至らない。

 

「グギュアアァッ!」

 

 雷ドレイクは倒れかけた体を、片翼で支えた。

 翼が地面を打ち、土と落ち葉を巻き上げる。

 

 羽毛に覆われたその翼はハルスフォートの胴回りよりも太い。

 飛ぶための腕であると同時に、獲物を殴り殺すには十分すぎる凶器だった。

 

 ドレイクが体を捻る。

 地面についていた翼とは反対の翼が、横薙ぎに振るわれた。

 

 ブオンッ!

 

「ちっ!」

 

 広範囲の攻撃。

 ハルスフォートは後ろへ跳ぶのではなく、ドレイクの懐へ踏み込んだ。

 

 翼の先端ほど速度は増す。

 ならば、付け根へ近づく方が威力は弱まる。

 

 だが、完全には避けきれない。

 

 ドガッ!

 

「ぐっ!」

 

 翼の関節部分から生えた爪が、ハルスフォートの左腕から肩を掠めた。

 服が裂け、皮膚に鋭い痛みが走る。

 

 ザッ!

 

 衝撃に押され、足が横へ流れた。

 ハルスフォートの靴が、地面に広がる青い液体を跳ね上げる。先ほど倒したドレイクの血の海だ。

 

 ハルスフォートは血の泥濘(ぬかるみ)に踏みとどまり、剣を振り上げる。

 

 ザンッ!

 

 刃が羽毛を裂き、翼の付け根へ深く食い込んだ。

 

「ギャアアァッ!?」

 

 ドレイクが絶叫する。

 振るわれていた翼から力が失われ、だらりと地面へ落ちた。

 

 右の後脚から青い血を流し、片翼も満足に動かせない。

 それでも、ドレイクは倒れない。

 

「グゥゥゥゥ……!」

 

 痛みに震えながら頭をもたげ、ハルスフォートを睨みつける。

 その青い瞳が、燃え上がるような怒りに染まっていた。

 

 バヂッ!

 

 ドレイクの青い尾で、紫電が爆ぜた。

 

「──っ!」

 

 ハルスフォートが息を呑む。

 

 身を斬られた痛みに、ドレイクは最大の攻撃手段で復讐しようとしていた。

 狙いを定める素振りすらない。怒りのまま尾を跳ね上げ、その先端へ雷を集めていく。

 

 バヂッ、バヂヂッ!

 

 火花が鱗の上を駆け、周囲の空気を震わせる。

 逆立った羽毛の間からも、細い雷光が漏れ出していた。

 

 ──来る!

 

 ハルスフォートは即座に罪なる傷(シェヴムシャード)を逆手へ持ち替えた。

 

 先の戦闘と同じだ。

 雷撃が放たれるより前に剣を地面へ突き立て、電気を地中へ逃がす。

 

「グギャアアァッ!」

 

 雷ドレイクが尾を振り抜く。

 

 ハルスフォートは両手で剣の柄を握り、足元へ刃を突き立てた。

 

 ザグッ!

 ダッ!

 

 すぐにバックステップし、避雷針から身を離す。

 直後、紫色の雷が迸る。

 

 バヂィィィィッ!

 

 耳をつんざく音とともに、雷撃が剣へ吸い寄せられた。

 剣身を伝った雷光が、地面へ落ちる。

 

 ──防いだ。

 

 ハルスフォートが思った瞬間、そして自らの足が地面に触れた瞬間。

 

 グジュッ。

 

 足元の嫌な感覚と共に、気づいた。

 両の靴は、先ほど倒したドレイクの血に沈んでいる。

 

 剣を突き立てた場所も。

 自分が立つ場所も。

 

 すべて、同じ血の海の中だった。

 

「まずい──!」

 

 バヂンッ!

 

 剣から血へ、電流が伝う。

 細い雷光が、血の海を走った。

 

 青い水面を這う稲光は、瞬く間にハルスフォートの足元へ殺到する。

 

 バヂチヂチッ!

 

「があっ!?」

 

 両脚から、焼けるような衝撃が駆け上がる。

 

 筋肉が意思を無視して強張り、背が反り返った。

 息を吐くことも、声を上げることもできない。

 

「あ──」

 

 視界が白く染まる。

 

 直立したまま、ハルスフォートの全身が一度だけ大きく震えた。

 そのまま彼は、青い血の中へ前のめりに倒れ込んだ。

 

 ──クソッ、しくじった……!

 

 悪態を吐く時間もなく、意識が途切れた。

 

 *   *   *

 

 ハルスフォートの体が、前のめりに倒れた。

 

 バシャッ!

 

 青い血が跳ね、その姿が血だまりの中へ沈む。

 

「ハルスフォートさん!? 大丈夫ですかっ!?」

 

 リスティが詠唱を途切れさせ、その名を呼ぶ。

 

 返事はない。

 倒れたまま、ただ小指だけがぴくり、とだけ痙攣(けいれん)する。

 

「死んだと決まったわけじゃない……!」

 

 助けに行きたい気持ちをこらえ、リスティは冷静に努めようとする。

 震える指先が、無意識に胸元へ伸びた。

 

 服の上から、首飾りに通した指輪へ触れる。

 

「……落ち着いて」

 

 ハルスフォートは動けない。

 ワローは戦えない。

 今、雷ドレイクを止められるのは、自分しかいない。

 

 まずは、この場にいる全員が生き残ること。

 

「ギャオオオオオォッ!」

 

 ドレイクが咆哮した。

 

 ハルスフォートを倒したことを誇るように頭をもたげ、翼を大きく広げる。

 空気が震え、リスティの髪が揺れた。

 

「ひっ!」

 

 喉の奥から、かすかな声が漏れた。

 指輪を握る手に、力が入る。

 

 ──この指輪を使えば、すぐに巨大な炎の柱を生み出せる。

 詠唱が間に合わないと判断した時は、迷わず使う。

 

 そう心得て、リスティは指輪を握ったまま、喉元へもう片方の手を添えた。

 

 途切れた魔術は、最初から唱え直さなければならない。

 

「……げ、原始の槍。極北の大海を統べる青──」

 

 かすかに震える声で、輝疾氷刃(ブリザード・ブレイド)の詠唱を最初から唱え直した。

 

「グルルル……」

 

 咆哮を終えたドレイクが、ゆっくりと頭を下ろした。

 

 血だまりに倒れたハルスフォートから、視線を外す。

 青い瞳が、詠唱を続けるリスティへ向けられた。

 

「……っ」

 

 指輪を握る手に、汗が滲む。

 それでもリスティは言葉を止めなかった。

 

「凍て付け森羅(しんら)。我腕撫(うでぶ)すは霜雪(そうせつ)(ことわり)──」

 

 カサッ……。

 

 その視界の端で、何かが動いた。

 

「……私は逃げるぞ」

 

 こっそりとつぶやいたのは、リスティの背後にいたワローだ。

 青ざめた顔で息を殺し、ドレイクから目を離さないまま、そろりと片脚を引く。

 

「────」

 

 リスティは絶句し、詠唱を一瞬止める。

 薄情な、とは少し思うものの、そもそもリスティとハルスフォートは討伐依頼の任を負った戦闘要員だ。依頼人の逃亡を咎める立場にはない。

 

 スッ。

 

 リスティはワローをかばうように、片手を横へ広げた。

 

「……すまん」

 

 彼はカバンを胸元へ抱え、音を立てないよう慎重に距離を取っていく。

 

「グゥゥ……」

 

 ドレイクが低く唸り、翼を持ち上げる。

 

 その動作に、ワローはビクッ! と肩を揺らし、弾かれたように背を向けた。

 恐らく、恐怖に屈したのだろう。

 

 ダッ!

 

 森の奥へ向かって、一気に走り出す。

 

「ギュウゥ!?」

 

 ドレイクの頭が、跳ねるように動いた。

 逃げていくワローへ、青い瞳が向けられている。

 

「ギイィッ!」

 

 ドレイクが地面を蹴った。

 

 ドッ!

 

 傷ついた右の後脚が一瞬だけ沈み、巨体が傾く。

 しかし、無事な脚で強引に地面を蹴り直し、ワローを追って駆け出した。

 

「うおおおおぉぉぉぉぉっ!?」

 

 野太い悲鳴を上げながら、ワローは森の奥へと逃げ続ける。

 背後から迫る足音に、ワローが振り返る。

 

 すぐそこまで、ドレイクの牙が迫っていた。

 

「ま、待て! 私は若くないから旨くない──」

 

 ガブッ!

 

 牙が噛みついたのは、ワローの体ではなかった。

 背中へ垂れたマントの裾だ。

 

「……は?」

 

 ブオンッ!

 

「ひぎゃあああぁぁぁっ!?」

 

 ドレイクが首を振り、ワローの体を宙へ持ち上げた。

 両脚が地面から離れる。

 

 ドレイクは獲物を仕留めようとはせず、咥えたマントを振り回し、ワローを縦回転させる。

 

 ブンッ! ブンッ!

 

「あああぁぁぁぁぁっ!?」

 

 振り回され、ワローの悲鳴が木霊する。

 カバンも、体の動きに遅れて激しく振り回された。

 

 ガチッ!

 

 カバン金具が鳴り、留め具が衝撃に耐えきれず外れた。

 

 バサッ!

 

 開いたカバンの口から、中身が宙へ飛び散る。

 その中の一つが、地面へ落ちた。

 

 ドサッ!

 

 厚い表紙を跳ねさせながら、魔術書がリスティの足元で止まった。

 

 リスティは足元へ落ちた魔術書を見下ろした。

 

「これは……」

 

 戦闘を始める前、ワローから借りて読んだ本だ。

 その中に書かれていた初級魔術の一つ、雷の初級魔術、刺雷(ラン・ボルト)

 そして、ワローが言っていた言葉。

 

 ──デンキウナギだって、自分の雷で感電する。

 少なくとも、体内まで完全に絶縁されているわけではない……!

 

 先ほど眠っていたドレイクも、メスを通して体内へ雷を受けたことで目を覚ました。

 雷を操る生き物でも、雷が効かないわけではない。

 

 とはいえ、ドレイクの体は自ら生み出す雷へ耐えられるようにできている。

 ならば、リスティの膨大な魔力で刺雷(ラン・ボルト)を放っても、その耐性が威力を弱めてくれるかもしれない。

 

 輝疾氷刃(ブリザード・ブレイド)なら、直撃すれば確実に命を奪う。

 

 けれど、雷なら。

 殺さずに、気絶に留められる可能性がある。

 

「もしかしたら……ドレイクを殺さずに、依頼を果たせるかもしれない!」

 

 成功する保証はない。

 だがリスティは希望を見出し、魔術書へ手を伸ばした。

 

 輝疾氷刃(ブリザード・ブレイド)の詠唱を中断する。

 本を拾い上げ、表紙を開いた。

 

 以前に読んだ攻撃魔術の項目は、確か後半にあった。

 付箋を指で追いながら、急いでページをめくる。

 

「あった!」

 

 リスティの指が刺雷(ラン・ボルト)の項目に止まる。

 左手に広げた魔術書を、右手に指輪を構えた。

 

 そこで登場する公式詠唱の発音は、どれもリスティが知っているものだ。

「行ける」と踏み、リスティが文字を辿りながら詠み始めた。

 

「──雨幕(うばく)貫く瞬刻の紫電」

 

 その間にも、ワローはドレイクの口元で縦に振り回され続けていた。

 

「うあああああぁぁぁっ!?」

 

 ブンッ! ブンッ!

 

 ドレイクは首を上下させ、玩具を振るうように何度もワローを回転させる。

 図らずも、ワローは囮として活躍していた。

 

 そして、充分に遊んだとでもいうように──。

 

「ギュウッ!」

 

 勢いをつけたまま、大きく口を開いた。

 

「え──」

 

 ヒュンッ!

 

 遠心力から解放されたワローの体が、森の中へ放り出される。

 

「うわああああぁぁぁっ!?」

 

 マントをはためかせながら、ワローは宙を飛んだ。

 

 ドガッ!

 

 背中から木の幹へ激突する。

 

 幹が震え、枝葉がざわめいた。

 ワローの体はそのまま地面へ落ち、木の根元に崩れ落ちる。

 

 声を上げたい所をぐっと堪え、リスティは続けた。

 

「天帝、息吹は凶を告ぐ──」

 

 刺雷(ラン・ボルト)の詠唱文を目で追う。

 震える息を吸い込んだ。

 

「ギュルル……」

 

 ドレイクは木の根元に倒れたワローを見た。

 口には、千切れたマントの裾が残っている。

 

 ブンッ!

 

 煩わしそうに首を振り、布切れを地面へ吐き捨てた。

 背後から響き続ける声に、ドレイクの首が動く。

 

「ギュ……?」

 

 青い瞳が、魔術書を片手に詠唱するリスティを捉えた。

 

 リスティは本から目を上げない。

 文字を一つでも読み違えれば、魔術は発動しない。

 

 喉は震え、呼吸は浅い。

 それでも、詠唱を止めることだけはしなかった。

 

「グルルル……!」

 

 ドレイクがリスティへ向き直る。

 

 傷ついた右の後脚を引き、地面へ身を低く沈めた。

 

 ダンッ!

 

 後脚が土を蹴る。

 リスティは魔術書へ視線を落としたまま、胸元の指輪を強く握った。

 

 まだ時間はある。

 

 指輪は、最後の手段だ。

 詠唱が間に合う限り、使わない。

 

「ギィィッ!」

 

 一歩ごとに巨体が近づく。

 青い血が後脚から滴り、土の上へ点々と跡を残した。

 

天降(あまくだ)る鎚は、黄金(こがね)(かげ)る光輝……!」

 

 リスティは詠唱文を追う。

 

 もう残りはわずか。

 しかし、ドレイクとの距離も、急速に失われていく。

 

 ズンッ!

 

 地面が揺れた。

 

 視界の端へ、ドレイクの青い巨体が迫る。

 

 荒い息遣い。

 土を削る爪の音。

 開かれた口の奥に並ぶ鋭い牙。

 

 ──間に合わない。

 

 胸元の指輪を握る手に、力を込める。

 詠唱を捨て、炎の柱を放つ。

 

 その覚悟を決めた瞬間。

 

 グキッ!

 

「ギャッ!?」

 

 ドレイクの右の後脚が、折れるように崩れた。

 前へ傾いた巨体を、傷ついた翼で支えることもできない。

 

 ズズンッ!

 

 ドレイクは地面へ倒れ込み、そのまま勢いよく滑った。

 土と落ち葉を押しのけながら、巨大な頭がリスティへ迫る。

 

「──っ!」

 

 リスティはその場から動かなかった。

 

 ドレイクの巨体は、彼女の数歩手前で止まった。

 静止したのは、ほんの一瞬。

 

「グ、ギィ……!」

 

 ドレイクは無傷の翼を地面へつき、残った後脚へ力を込める。

 首を持ち上げ、再び起き上がろうともがいた。

 

 ハルスフォートの与えた傷による、稼いだ時間。

 

 ──間に合う!

 

 リスティは魔術書に記された最後の言葉を目で捉える。

 

「震天、碧落(へきらく)を渡る一閃と成れ──!」

 

 顔を上げる。

 リスティは起き上がろうとするドレイクを正面から見据え、開いていた魔術書を胸元へ抱き寄せた。

 

「──刺雷(ラン・ボルト)っ!」

 

 リスティが力強く術名を叫ぶ。

 

 バヂィッ!

 

 周囲の空気が震え、彼女の前方に紫色の雷光が生まれた。

 

 それは初級魔術と呼ぶには、あまりにも巨大だった。

 128個の呪算紋(グリマ・グリフ)から放たれた魔力を呑み込み、一本の極太の紫電となって迸る。

 

 バヂヂヂヂヂッ!

 

 魔力が解き放たれた風圧に、リスティの髪とマントが激しくなびいた。

 

「くっ……!」

 

 魔術書を胸元に抱えたまま、一歩だけ後ずさる。

 それでも、敵から目は逸らさない。

 

 起き上がりかけていた巨体へ、紫電が一直線に突き進む。

 

 ドンッ!

 

 閃光が、雷ドレイクを呑み込んだ。

 

「──!」

 

 雷ドレイクは声を上げる間もなく、首を持ち上げた姿勢のまま硬直した。

 

 無傷の翼を地面へつき、残った後脚で体を支えたまま、全身が動きを止める。

 紫色の光が羽毛の間から漏れ、ウロコを白く照らした。

 

 ……パチィッ。

 

 残滓のような雷音が、辺りで何度も跳ね回った。

 やがて、静寂が戻る。

 

 ドレイクを支えていた翼から、力が抜けた。

 

 ズシンッ。

 

 ドレイクが横倒しになり、鈍い地響きが足元を伝う。

 リスティは倒れた巨体から最後まで目を逸らさなかった。

 

 指輪に触れたまま、リスティは静かに息を吐いた。

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