ヒバリの鳴き声に、
村に訪れる、いつも通りの朝。
「それじゃあ、リスティちゃんは置いていくからのう」
「ああ。こっちで世話焼いておくから」
おじいちゃんは馬に
干し柿を積んだ
「さて……」
見送っていた村人が背伸びをし、村へ戻ろうと振り返る。
その時、視界の
「……ん?」
南の街道。
「だ、大丈夫か? 生きてるか?」
村人が駆け寄り、肩を揺する。
バッ!
倒れていた腕が、空を
「うわっ!?」
「み、見つけた……おれの、野望の生け贄が……」
バタッ。
青年は、それきり動かない。
「……運ぶか」
見捨てるのは
村人は旅人の脇に腕を入れ、ずるずると村へ引きずって持ち帰った。
* * *
「──はっ!?」
ガバッ!
ハルスフォートは跳ね起きた。
口の中に土の苦味が残っている。鼻先には、洗いたての布の、
見知らぬ部屋だった。
2つのベッド。机と椅子。
ベッド脇のチェストの上には、財布も剣も残っている。ならば、盗賊の巣ではない。
善意で助けられたのか、と判断したところで、窓側のベッドに誰かが眠っているのに気づく。
薄い寝息を起こさぬよう、ハルスフォートは足音を殺して部屋を出る。
「すまん、おれの服はどこだ?」
「あら、起きたのね。
汚れていたようなので、洗濯して干しているところよ。
今、代えの服をご用意するわ」
婦人はシーツを抱えたまま階段を下りていく。どうやら、ここは2階らしい。
「どうぞ」
ふぁさっ……。
差し出された衣服を受け取り、ハルスフォートは手早く着替える。
他人の前に出られる程度に身なりを整え、剣を
「ありがとう、世話になった」
「いえいえ。あなたも、ジョニー村から来たの?」
「そうだ。おれはハルスフォート。
魔王になるため、魔力を求めて旅をしている」
言い終えてから、
「この村に、リスティ・クノケウスという子供は来なかったか?」
婦人は、目を丸くした。
「あら、あなたはあの子の知り合い?
ちょうど良かった。あなたといっしょの部屋に寝てるわよ」
「なに!?」
ハルスフォートの視線が、背後の扉へ刺さった。
「ご飯を用意するわねぇ」
のんびりと階段を下りていく婦人に背を向け、ハルスフォートは部屋へ戻る。
2つあるベッドのうち、窓側。
膨らんだ毛布が、小さく上下していた。
彼は獲物を起こさぬよう、そろりと近づく。
朝日を
スッ……。
毛布を持ち上げる。
白い肌に長い黒髪が滑る、
間違いなく、リスティ・クノケウスだった。
「…………」
ハルスフォートは
キン、と刀身がわずかに顔を出した。
その切っ先を黒髪へ滑らせ、数本だけ静かに切り取る。
「クックック……」
柔らかな人毛を指先に
「お待たせぇ」
婦人が朝食の
鶏肉のグリル、
「村の前の街道で行き倒れてたんだってねぇ。お腹空いたでしょう?」
「ああ、ありがたく頂こう」
トレイがテーブルに置かれる。
婦人が背を向けた一瞬、ハルスフォートの指が動いた。
ぱらり。
切られた黒髪が、照りのある鶏肉の上に落ちる。
彼には、他人を食う事で魔力を
「フッフッフ……」
ハルスフォートがフォークへ手を伸ばした、その時。
「──あらごめんなさい。髪の毛入っちゃってるわね」
サッ!
婦人の手が、メインディッシュの皿を鮮やかに
ハルスフォートの指先が、空を
「あ、いや、別におれは気にしないが──」
「作り直すわねぇ。ちょっとお待たせするわよ」
「いやその──」
バタン。
有無を言わせぬ勢いで扉が閉まった。
「…………」
ハルスフォートは、宙に浮いたままの手を
「……まあいい。機会はいくらでもあるからな」
ハルスフォートが剣と共にイスから立ち上がる。
ギギッ、とイスの脚と床が
そのわずかな音が、リスティの
「んぅ……?」
もふっ。
窓側のベッドで、毛布が持ち上がる。
黒髪がこぼれ、眠たげな顔がこちらを向いた。
「…………」
ハルスフォートと、リスティの目が合う。
いくらでもあったはずの機会は、
「……ああ、師匠。おはようございます……」
リスティの認識は、まだ夢の奥に置き忘れられていた。
ハルスフォートは眉を寄せる。
「……師匠?」
リスティは目元を
ぼんやりしていた瞳に、朝の光が戻ってくる。
「ふぁ……ん?
あれ、その……誰でしたっけ?」
名前を思い出せず、リスティがハルスフォートに問う。
「ジョニー村で共に魔女を撃ち破った、ハルスフォートだ」
「ああ、失礼しました……ハルスフォートさん、ですね」
そこで、再び扉が開いた。
「悪かったわね。鶏肉を焼き直したわ」
婦人が、新しい皿をテーブルに置く。
「部屋のテーブルは1つしかないから、リスティちゃんは1階の食堂に来てね。
ケガは大丈夫?」
「はい。もう大丈夫です」
リスティの指が、毛布の表面をきゅっと握る。
そのやり取りを聞き、ハルスフォートが口を
「ケガ? リスティに何があったんだ?」
リスティは指をさらに握りこむ。
視線が、ハルスフォートの胸元から
「昨夜……敵に襲われて、気を失ってしまったんです。
……不甲斐なくて、申し訳ないです」
言葉の最後は、毛布に吸われるように小さくなっていった。
「あなたは小さいんだから、負けて当然よ。
女の子がモンスターを相手にするなんて、そんなのムチャなんだから」
ガタッ!
ハルスフォートのイスが跳ねた。
「……負けた? リスティが?」
「ええ、そうよ」
リスティが負けた。
あの、魔女エリスを跡形もなく消し飛ばした魔王の申し子が。
ハルスフォートの喉が、ごくりと鳴る。
指が剣の
「そいつは、一体どんなヤツだ?」
リスティの肩が、ぴくりと揺れた。
頬に、じわじわと赤みが差していく。
「……リン」
「なに?」
「その……ゴブリンに、負けたんです」
リスティは、