人を助けないと即死亡の呪いを受けた悪役貴族の俺、しぶしぶ一日一善してたら、史上最高の名君に成り上がってしまう〜災厄貴族ジューダス・ファウルトの偽善〜   作:三月菫

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第13話 寄道

 翌朝。

 早々に身支度を整えた俺達は、それぞれの馬にまたがった。

 

「よし。行くぞ」

「はい! オルレインに向けて出発ですね!」

「いや、その前に寄る場所がある」

「え?」

 

 俺の背中にしがみつくルインが、間の抜けた声を上げた。

 

「どこへ行かれるのです?」

「近くの村だ」

「村? どうして?」

「昨日の賊どもが言ってたろ。近くにアジトがあるって」

「……たしかに」

 

 背中越しに、ルインが一瞬黙り込んだのが分かった。

 

「まさかジュダさま……村を助けようと?」

「ああ。村が被害を受けてる可能性が高い。さくっと盗賊のアジトをぶっ潰すぞ」

 

 その瞬間だった。

 

「ジュダさまぁ……!」

 

ルインが感極まったように、背中から手を回してぎゅっと抱きしめてくる。

ぽよんっ。

やたらと柔らかなルインの胸が、背中に全力で押し当てられた。

 

「おま!? なにくっついてんだよ!? 離れろ!」

「ルインは胸がいっぱいで……ジュダさまが、見知らぬ誰かのために動こうとしてるのが……すごく、嬉しいのです」

「いや別に俺は」

 

 抱きしめる腕に、ますます力が込められる。

 

「やっぱりジュダさまは優しいお人です。ルインは感動しました……!」

「いいから離せ! 動きづらいんだよ!」

 

 俺が言い返すと、ルインは慌てたように腕の力を緩めた。

 

「ご、ごめんなさい……でも、ジュダさま……ほんとに、尊敬してます」

 

 小さく、照れたような声。

 

(ああもう!)

 

 ルインの言ったことは全力で外れていた。。

 

(ぶっちゃけしょぼい村の一つや二つどうなろうと知ったこっちゃねえ)

 

 俺は心の中で全力ツッコミを入れる。

 

(刻数だよ刻数!! 昨日盗賊をぶっ殺したせいで残りが「3」しかねえんだよ。これがゼロになったら俺は死ぬんだっつーの!! 嫌でもなんでも人助けしないとダメだろうが!?)

 

 そう、すべては自分が死なないための行動。

 刻数が尽きれば、俺は終わる。

 だから人助けをしているだけで、そこに崇高な理念なんてものは欠片もない。

 

 だが、そんな事情などルインは知るはずもない。

 俺が純粋な善意で村を助けようとしていると勘違いしているのだ。

 

 いや、勘違いしているのはルインだけじゃない。

 

 サーシャが、真剣な面持ちで一歩前に出た。

 

「危険を避ける判断もできるはず。それでも尚、見知らぬ誰かを案じることができるとは……これが貴殿の高貴なる者の義務(ノブリス・オブリージュ)ということか」

 

「ジューダス……とても、素敵……」

 

 さらに追い打ちをかけるように、ブリジットは両手を胸に当て、うっとりとした眼差しでこちらを見上げてくる。

 

(やめろ! お前らまで! そんな目で見るな! 気色悪い!)

 

 刻数稼ぎのための行動が、勝手に聖人ムーブに変換されていくのを、俺は肌で感じていた。

 

(くそ! とにかく! 刻数を稼ぐために行動するんだ!)

 

「おら、分かったら行くぞ! ぐずぐずしてんな!」

 

「はい、ジュダさま!」

「了解した」

「うん、ジューダスについていく」

 

 

 

 

 ほどなくして、俺たちは村にたどり着いた。

 

 村の入り口には『リーフ村』と看板が掲げられている。

 入口のそばにある馬屋に馬を止めて、俺たちは村の中に立ち入る。

 

 近づいた瞬間に肌で感じた。

 

——この村、空気が重い。

 

 道を歩く人影はまばら。

 すれ違う村人は、やたらとびくびくしてて、目が合っても慌てて視線を逸らす。

 家々の扉は固く閉ざされ、窓越しに怯えた気配だけが伝わってくる。

 

「……なんだか、空気が暗い」

「……ええ、この村全体が恐怖に包まれていますね」

 

 後ろを歩くブリジットとサーシャがヒソヒソとささやきあう。

 

「ジュダさま、やっぱり、人さらいのせいでしょうか」

「さあな、直接聞けばいい話だ」

 

 俺は適当に、道を歩いていた村人を呼び止めた。

 

「おい、村長の家はどこだ?」

「え……あんたたちは?」

「俺が誰かなんて関係ねえんだよ。いいから村長の家を教えろ」

「わ、わかったよ。この先の道を進んでいったところの、赤い屋根の家だ」

 

 村人はおびえた表情で奥の方を指さす。

 その先に、他の家より大きい、赤い屋根の家があった。

 

 俺は迷わず、村長の家へ向かった。

 

 

 村長の家におしかけた俺たちは、強引に村長とのアポイントを取る。

 そして、応接間に通された俺たち。

 

 村長は白髪頭の壮年の男で、その顔はやつれきっていて、悲壮感がありありと滲んでいた。

 俺は単刀直入に切り出した。

 

「……この村、盗賊の被害にあってるだろ?」

「な、なぜ、それを?」

「昨日、俺たちも盗賊に襲われた」

「……!」

 

 村長の顔色が、はっきりと変わる。

 

「賊は近くにアジトを構えていると言っていた。となると、この村も相応の被害を受けているはずだ。違うか?」

「そ、それは……そのとおりです。盗賊めらは、定期的にこの村に押しかけ、食料と若い女をさらっていくのです……ですが……」

 

 村長は視線を伏せ、言葉を濁した。

 俺たちの狙いが分からないから、どう答えてよいのか分からない、そんなところだろう。

 

「俺が盗賊を退治する。だから、アジトの場所を教えろ」

「……は?」

 

 間抜けな声が返ってきた。

 

「あなた様が……ですか?」

「そうだ」

 

 沈黙。

 やがて、村長は苦しそうに首を横に振った。

 

「お申し出、大変痛み入ります……ですが申し訳ありません。我々には、報奨をお支払いできる余裕などないのです」

「いらねえよ」

 

 即答だった。

 

「……え?」

 

 村長だけでなく、ルインたちまで、息を飲む音が聞こえた。

 

「報酬目当てじゃねえ。こんなシケた村に金が無いことくらい見りゃ分かる。そんなもん最初から期待してない」

「それでは、なぜ……?」

 

(だから刻数だっつってんだよ!!)

 

 内心で叫びつつ、俺は面倒くさそうに鼻を鳴らす。

 

「俺はお前たちを助けたいんだよ」

「……!」

 

 村長の目から涙が流れだした。

 

「なに泣いてんだ、ジジイ」

「申し訳ありません……! ですが、見ず知らずの旅の御方に、そのような温かいお言葉をいただけれるなど思いもよらず……!」

 

 村長は涙をぬぐいながら、言葉を続ける。

 

「ですが……」

「なんだよ、まだなんかあるのかよ」

「賊を率いる首領は、只者ではありません……」

「肩書がある、ってやつか?」

「……はい。名をゴッサム。自らを〈(オーガ)〉と名乗っております。元は自由都市リベルラの闘技場で名を馳せた闘士だとか。そのような者を相手とするなど、みすみす命を捨てるようなものです……!」

 

 ああ、もう。

 ごちゃごちゃうるせえな。

 はやく、アジトを教えろよ。

 

 いい加減うんざりした俺は、椅子から立ち上がり、村長を見下ろす。

 

「だったらなおさらだ。この村の人間が手だしできないなら、俺がやるしかねえだろ。(オーガ)だか(オーク)だか知らねえが、邪魔する奴は、このジューダス様が全員つぶしてくるから安心しろ」

 

 俺は一歩踏み出す。

 村長が、びくりと身をすくめた。

 

「ジジイ、賊のアジトを教えろ。これ以上つべこべ抜かすと、いい加減ぶっ飛ばすぞ」

 

 俺は村長に向かってそう凄む。

 手っ取り早く人間を動かすには、脅しが一番効率的だからだ。

 

 だが次の瞬間。

 俺の予想に反して、村長は震える両手を地面について、深く頭を下げた。

 

「勇敢な旅の御方! ありがとうございます……! 本当にありがとうございます……!!」

 

 その瞬間。

 視界の端に浮かぶ刻数が〈4〉から〈5〉に増加する。

 

(え、マジ? ラッキー)

 

「ジューダス様……! どうか、どうか、ご無事で……!」

 

村長の声は、恐怖ではなく——感動に震えていた。

 

(……なんでそうなる)

 

 俺は泣きながら感謝する村長を前に、首を傾けるしかなった。

 

 

 とにかく、村長から賊のアジトを聞き出すことができた俺。

 善は急げということで——

 村を出たところで、俺は立ち止まり、振り返る。

 

「サーシャ。ブリジット——お前らは、村で待ってろ」

 

 一瞬、二人の空気が止まった。

 

「……それは、や」

 

 ブリジットが、はっきりと言った。

 

「私も、行く」

 

「は?」

「パパは、受けた恩は絶対に返せって、よく言ってた。ジューダスが助けてくれた恩を返す」

「バカか、お前? 昨日、盗賊どもに襲われて死にかけてたくせに何生意気なこと言ってんだ?」

 

 俺が指摘するとブリジットは視線を外し、ぼそぼそと言い訳を始める。

 

「あのときは、不意打ちだったし……そもそも長旅で疲れ切ってたし……万全なら、あんな奴ら……敵じゃないし……」

 

 ダメだ、コイツじゃ話にならない。

 

「おい! サーシャ! このバカお嬢さまに何とか言ってやれ」

 

 だがサーシャは一歩前に出て、頭を下げた。

 

「ジューダス殿、ブリジット様の気概、どうか組んでやってはくれないか」

「なんでだよ!」

 

 どいつもこいつもバカばっかりか!?

 

「もちろん、私も同行する。お嬢様の安全は私が守る。貴殿は戦いに専念していただきたい」

「あのな、ブリジットの護衛がしたいんだったら、今ここで止めろや! みすみす危険に晒してどうするんだよ」

「ブリジットさまも、私も……命の恩人である貴殿に少しでも恩返しをしたいのだ」

「恩返ししたいなら邪魔だ。すっこんでろ」

「それなら、ルイン殿は?」

 

 サーシャがルインに視線を移した。

 

「こいつは回復魔法が使えるんだ。いざというときの救急箱だ」

「はい! ジューダスさま専用の救急箱です!」

 

 元気よくルインは回答する。

 いや別に褒めてないんだけど……。

 

 サーシャは視線を俺に戻して口を開く。

 

「それならば、私もブリジット様も、同じだ。腕に覚えはある」

「んだと?」

「頼む、貴殿の役に立たせてほしい」

「ぐぬぬぬ……!」

 

 本当に意味が分からない。

 なぜみすみす危険なことに首を突っ込もうとしているのか。

 おとなしく村で待ってればいいだろう。

 

(俺の役に立ちたいだと……!?)

 

 胸の奥に、()()が込み上がってきたのを自覚する。

 得体のしれない、謎の熱だ。

 

 くそ!!

 

 その熱から目をそらす。

 

(ああもう! 面倒くせえ!!)

 

 俺は心の中で思い切り舌打ちした。

 そして——

 

「……好きにしろ」

 

 ブリジットたちに背を向け、歩き出す。

 

「ただし、俺の邪魔だけはするなよ。その瞬間、その場に置いていくからな」

 

「うんっ!」

「任せてくれ」

 

 ブリジットとサーシャの弾むような声が重なる。

 

(……なんなんだよ、こいつら。俺はただ自分のために動いているだけなのに)

 

(まるで俺のことを……信頼……くそっ!)

 

 俺は心の中で、もう一度大きく舌打ちした。

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