人を助けないと即死亡の呪いを受けた悪役貴族の俺、しぶしぶ一日一善してたら、史上最高の名君に成り上がってしまう〜災厄貴族ジューダス・ファウルトの偽善〜   作:三月菫

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第16話 圧倒〈SIDEゴッサム〉

 

 強いヤツは、何をしたって許される。

 

 

 いけ好かない旅人のガキが、オーガの棍棒に叩き潰された光景を見て、俺様は腹の底から込み上げる笑いを抑えることができなかった。

 

 物心ついた頃から、俺サマの体はデカかった。

 体がデカい分、拳も、肩も、声もデカい。

 

 成長するにつれて、周囲の人間は、親も含めて俺様に意見できなくなっていった。

 

 だから、思うままに、欲しいものは他人から力尽くで奪った。

 

 金も、モノも、女も。

 

 全部、弱いやつから巻き上げる。

 徹底的にしゃぶり尽くす。

 利用価値がなくなったら、ゴミみたいに殺す。

 

 誰もそのことを咎めなかった。

 意見したやつは、口を利けなくなるまで殴るか、殺すかしたから。

 

 そんな日々を送るうちに、俺様は気づいたんだ。

 

(強いヤツは、弱いヤツに何をしたって許される)

 

 それが俺様の信念だった。

 

 弱い奴が悪い。

 嫌なら強くなればいい。

 それができない奴らはクズだ。

 だから奪う。潰す。あざ笑う。

 それが強者の特権だ。

 

 より効率的にクズから奪うために、俺は行動した。

 ならず者を集め、盗賊団を作った。

 村を遅い、女を犯し、人を売り飛ばした。

 

 そして、そんな俺様の王国は、ある日行商人のキャラバンから略奪した〈支配の首輪〉を手に入れたことで完成する。

 その後、手下五十人の命と引換えに、支配の首輪をオーガに設置。

 それから、このオーガは俺に絶対服従をする操り人形だ。

 

 自分自身が命を張って戦う? 

 馬鹿げてる。

 もっと簡単に、もっと確実に、弱者から奪えばいい。

 そのために、オーガは便利な道具だった。

 

 そして俺様は弱者から奪うことを続けた。

 

 弱者の泣き声はいい酒のつまみになる。

 その声を聞いていると、自分が選ばれた強者であることに、しみじみと幸せを感じることができるからだ。

 

 ときたま、正義の英雄気取りのザコがこうして俺様の縄張りに入ってくる。

 そういうバカ共は全員、オーガの棍棒でひき肉に変えてやった。

 

 

 今もそうだ。

 英雄気取りのガキはオーガの棍棒に叩き潰れた。

 土煙の奥で、ひき肉になってたはずだろう。

 

「うひゃひゃ……バカなやつだ。余計な正義感で首を突っ込まなけれりゃ、長生きできたのによう」

 

 俺様は、勝利を味わうように、腰にぶら下げた革袋に入った酒をあおった。

 

「分かったか? これが強者の特権だ。強いヤツは弱いヤツになにしたっていいんだよ!!」

 

 もう聞こえていないだろうガキに俺は世界の摂理を伝えてやった。

 

 だが。

 土煙が、ゆっくりと薄れていく。

 

 ――そこに()()()()()()()が見えた。

 

「…………あ?」

 

 笑いが、喉の奥で凍りついた。

 

 あのガキが、無傷で立っていた。

 ちっぽけな片手剣一つで、オーガの棍棒を正面から受け止めたまま。

 

「……ばかな!?」

 

 思わず声がひっくり返った。

 

「岩をも砕くオーガの一撃を……!?」

 

 そのガキの顔は涼しげだった。汗一つかいていない。

 わずかに顔もしかめてない。

 余裕。余裕しかない……!

 信じられねえ!!

 

「悪いが家庭の事情でガキの頃から、オーガとは戦い慣れてんだよ」

 

 平然と、そんなことを言う。

 意味が分からない。

 俺がこのオーガを使役するため、手下が何人死んだと思ってる!?

 

「さて、じゃあ俺からいくぜ」

 

 次の瞬間。

 そのガキが棍棒を――弾いた。

 

 オーガの巨腕が持つ質量が、ちっぽけなガキの力に押し返され、体勢が崩れる。

 刹那、ガキの身体が消えた。

 俺様の目には、まるっきり消えたとしか映らなかった。

 

 剣が閃く。

 

 血しぶきが舞い上がり、まず、オーガの両腕が落ちた。

 重い肉塊が床に叩きつけられる。

 

『グギャアアアアアアアアアアアア!?』

 

 オーガの苦悶の(いなな)きが響く。

 

 俺様の目が、ガキの姿を捉える。

 いや、また消えた。

 そして再び剣閃。

 

『ギャン!?』

 

 続けて、右足が分断。

 支えを失った巨体が崩れ、ずしんと洞窟を揺らした。

 

 俺様は、口を開けたまま息をすることすらできなかった。

 俺様の切り札(オーガ)が、手足から解体されていく。

 人間の剣で。ほんの瞬きの時間で。

 

「これで終わりだ——」

 

 ガキの呟くような声が聞こえた。

 黒い影が跳躍した。

 

 あのガキ、オーガの巨体を足場にして、駆け上がってやがる!?

 

 やがてオーガの首筋に到着し、跳躍。

 剣の軌跡が、円を描き。

 

 ズバンッ!!

 

 信じられねえ!!

 オーガの首が……落ちた。

 

「ジュダさま、すごいです!」

 

 離れた場所から、女の声が響いた。

 

 ジュダ?

 あのガキの……いや、あの死神の名前か……!?

 

 首を失ったオーガの巨体が、ずしんと倒れる。

 洞窟の空気が、急に静かになった。

 

 ゴッサムは、背中がぞっと冷えた。

 

(……ありえねえ! ありえねえ!‼️)

 

 あのオーガはゴッサムの暴力そのものだった。

 弱者からすべてを奪うための力だった。

 

 それが、今――無惨な屍になって床に転がっている。

 

「ば、ばかな!? オーガをたった一人で倒すなんて!? 人間じゃねえ!? な、なにもんだてめえ!?」

 

 声が裏返る。

 足が勝手に下がる。

 冷や汗がぶわっと全身から湧き上がった。

 

 ()()()は、剣についた血を振り払うと、肩に担いだまま、ゆっくり歩いてきた。

 その顔には、たった今大物食いを果たした達成感なんか微塵もねえ。

 

 まるで散歩だ。

 まるで()()だ。

 

「言っただろ?」

 

 ジュダが、淡々と言葉を告げた。

 

「これから潰れるやつに名前を教えてたって意味ねえんだよ」

 

 ゴッサムは、喉を鳴らした。

 汗が滝みたいに流れ、視界が滲む。

 

「お前——言ったな。強いヤツは弱いヤツに何してもいいって」

 

 ジュダの口元が、笑った。

 ぞっとするほど静かな笑みだった。

 

「正解だ。この世界の真理だよ」

 

 そして。

 

「俺はお前より強い――だから俺は、()()()()()()()()()()()()()()

 

 じょぼじょぼじょぼ……

 その言葉を聞いた瞬間、俺様は自分の意識とは関係なしに、失禁してしまった。

 

 殺される!

 このままじゃ俺は殺される!

 この死神に!!

 

「――だから俺は、お前に何をしてもいいんだよな」

 

「や、やめろ! やめて、ください!! 金なら差し上げますから! 女も!!」

 

 今まで命乞いする奴を笑ってきたのに、自分がそれになるなんて。

 死神はそんな俺様の懇願を鼻で笑った。

 

「いらねえよ、そんなもん。こんな肥溜めの主になるなんてゴメンだぜ」

「ひいいい! 殺さないで!」

 

 死神が目を細める。

 

「そうやって命乞いした人間を、何人殺してきた?」

 

 その一言で、ゴッサムの息が止まった。

 ――数えたことなんてない。数える必要もないと思っていた。

 

「それを散々しておいて、いざ自分の番のときはごめん被るなんて、通らねえよ」

 

 ゆっくりと死神の剣が持ち上がる。

 

(斬られる――!)

 

 思わず目を閉じた。

 

 だが。

 

 刃は落ちてこなかった。

 

(……あ、あれ?)

 

 瞬間——

 すさまじい衝撃が、顔面を突き抜けた。

 痛みが爆発し、情けない声が漏れた。

 

「がべッ!?」

 

 ごしゃり、と鈍い音が脳天に響く。

 身体がふっとんだ。

 

「一身上の都合で、お前を殺せないんだ……運が良かったな」

 

 氷みたいに冷たい、なのにどこか苛立ちを含んだ声が届いた。

 その死神の声を最後に、俺様の意識は、闇へ沈んだ。

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