人を助けないと即死亡の呪いを受けた悪役貴族の俺、しぶしぶ一日一善してたら、史上最高の名君に成り上がってしまう〜災厄貴族ジューダス・ファウルトの偽善〜   作:三月菫

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第18話 初夜

 

 とにかく、この洞窟を根城にする盗賊団は一人残らず壊滅した。

 あとやるべきことはただ一つ。

 囚われた村人たちの解放だ。

 

「さてと……」

 

 俺は、床に転がるゴッサムの死体から視線を外し、牢の方へ向けた。

 鉄格子の向こうには、村人たちが五人。

 全員が若い女だ。

 彼女たちは息を殺し、震えた目でこちらを見ている。

 

「ジュダさま! 少々おまちください。今、牢屋の鍵を探しますので!」

 

 背後からルインの声が響いた。

 

「いや、いい。鍵なんかいらねえ」

 

 ふり返らずに俺はそう告げる。

 

「え? でも鍵がないと……」

 

 戸惑うようなルインの声。

 俺は言葉を返さずに、代わりにそっと、鉄格子にかかっている南京錠に手を添えた。

 

 瞳を閉じて、魔力を指先に集める。

 触れた金属の()()が、頭の中でばらけていくイメージを持った。

 

「——()ぜろ」

 

 短い命令の直後、鉄格子にかかっていた南京錠が、ぱんっ、と乾いた音を立てて弾け飛んだ。

 

「す、すごいです! ジュダさま、すごい……!」

 

 ルインが俺の隣にやってきて、驚きの声を上げる。

 

「いちいち騒ぐな。……ほら、出てこい」

 

 俺はルインに取り合わず、鉄格子の向こうで身を縮めている村娘たちへ声をかけた。

 

 女たちは一様に動けずにいた。

 助かったはずなのに、その現実をまだ飲み込めていない。

 怯えと困惑が入り混じったまま、ただこちらを見つめ返してくる。

 

「あー……その、なんだ……」

 

 俺はガシガシと頭をかいてから、俺らしくない言葉を告げた。

 こいつらを安心させるために。

 俺なりに、なるべく声のトーンを穏やかにするのを心がけて。

 

「大丈夫。俺たちは、お前たちを助けに来た。村へ帰れる。お前たちは助かったんだ」

 

 その言葉が鍵だったらしい。

 五人の瞳に、ようやく光が灯る。

 

 誰かが喉を鳴らし、誰かが口元を押さえ——

 

「……う、うそ……」

「本当に……帰れるの……?」

「私たち……助かった……」

 

 震える声が重なった。

 俺はため息を一つして、踵を返す。

 

「ルイン、あとは任せた。弱っているヤツがいたら回復してやれ」

「わかりました!」

 

 ルインに指示を出して、俺が背を向けた瞬間。

 後ろで堰を切ったように泣き声が広がった。

 

 みっともなくて、聞き苦しい、弱者の嗚咽だった。

 

 

 俺達は解放した村娘たちを引き連れ、リーフ村に向けて盗賊のアジトを出発した。

 

 リーフ村へ戻る道中、村娘たちは何度も振り返る。

 洞窟が見えなくなるまで、悪夢が追ってくる気がして仕方ないんだろう。

 

 だが、村の入口が見えた瞬間、空気が変わった。

 

 入口には、村長を先頭に、村人たちが集まっていた。

 皆、顔にいっぱいに不安と心配の色を張り付かせて。

 

 そして、俺達の姿を見た瞬間——

 

「ジューダス様——!!」

 

 村長が叫ぶ。

 その叫びを合図に、村人たちが一斉に駆け寄ってきた。

 

「お母さん!!」

 

 俺の後ろを歩いていた村娘たちも、堰を切ったように走り出した。

 

 家族だったのだろう。

 抱き合い、泣き崩れ、何度も何度も互いの名前を呼び合っている。

 

 俺は村長へ向き直り、淡々と報告した。

 

「盗賊団は潰した」

「ほ、本当にあの(オーガ)のゴッサムを!? たった四人で!?」

「それと奴らがアジトとして使っていた洞窟の中に、金品があった。たぶん、これまで奪われた分だろ。俺達は手を付けていない。取り返して足しにしろ」

「…………っ!」

 

 次の瞬間、村長の膝ががくりと落ちた。

 

「お、おい……!?」

 

 村長は、地面に両手をつき、額が土につくほど深く深く頭を下げる。

 

「ジューダス様……! ありがとうございます……! 本当に……! 貴方様は、命の恩人です……!」

 

 それを皮切りに、村人たちが次々と俺を取り囲む。

 

「ありがとう!」

 

「アンタはリーフ村の英雄だ!」

 

「英雄ジューダス万歳!」

 

 俺の手を握ろうとする若者。

 拝むように頭を下げ続けるババア。

 鼻をたらしたガキが、無遠慮に服を引っ張る。

 

「鬱陶しい! 気安く触るんじゃねえ!」

 

 悪態をついても、村人たちは泣き笑いのまま離れなかった。

 

 そのとき——

 視界の端で、数字が跳ねた。

 

 4、5、6……と、短い間に連続して刻数(カウント)が増え続ける。

 償いの刻数はあっという間に「20」になった。

 

 俺はもみくちゃにされながら、表情だけは崩さず、胸の奥で小さく息を吐く。

 

(……そうだ、別にコイツらのためじゃない。自分のためにやっただけだ)

 

 胸の中に、苦々しい何かが広がっていく。

 

 隣でルインが、涙目のまま胸を張っていた。

 

「皆さん! ジュダさまは本当にすごいんですよ! 強くて、優しくて——」

 

 サーシャとブリジットを見ると、ニヤつきながら俺のことを見つめていた。

 

「……貴殿の成した功績だ。私たちを救ってくれたように、貴殿はこの村を救ったんだ」

「うん。ジューダス、かっこよかった」

 

(あーもう! 限界だ!)

 

 俺は踵を返す。

 

「悪いが疲れてるんだ。俺は休むぞ!」

 

 称賛の空気から逃げるように、その場を後にした。

 

 

 

 

 その夜。村では宴が開かれた。

 

 広場の中央でどでかい焚き火が焚かれ、村人たちがその周りを囲んでいる。

 笑い声。歌声。酒の匂い。湯気の立つ料理。

 

 これまで積もりに積もった恐怖を、火にくべて燃やし尽くすような、そんな明るい夜だった。

 

 騒がしいのは性に合わない。

 俺は乾杯だけ済ませて、ルインたちを残して早々に宿へ引っ込んだ。

 今は自分に割り当てられた部屋の窓際の椅子に腰掛け、広場で揺れる焚き火の炎をぼんやりと見つめている。

 

 ようやく静かだ。

 ……なのに、胸の内が落ち着かなかった。

 戦いのあと特有の——妙に乾いた興奮が残っていたからだ。

 

 コン、コン。

 

 そのとき、控えめなノックが響いた。

 誰だろう、ルインか?

 

「誰だ」

「……あ、あの……」

 

 扉の奥から響いたのは聞き慣れない女の声だった。

 俺は扉を開ける。

 そこに立っていたのは、助け出した村娘の一人だった。

 

 牢に捕らえられていたときは、身に着けていた服はボロボロだったが、今はきちんと着替えている。

 粗末ながらも、まともな身なり。

 飾り気はないが、素朴でおとなしい印象だった。

 

「お前は?」

「ジーナ、と申します……あの、おやすみでしたか?」

「なんだ? 何しにきた?」

 

 俺の問いかけに、ジーナは一度小さく息を吸い込み、視線を落とした。

 左手はそっと茶色の髪に触れられ、右手の指先が、逃げ場を探すようにぎゅっと服の裾を掴む。

 

「……助けてくれたお礼がしたくて」

「お礼?」

 

 そう言う割にはジーナは手ぶらだ。

 

「私、何も持っていません……でも……私に()()()()()を……」

 

 視線が定まらず、何度も床と俺の顔を行き来する。

 頬が、ほんのりと赤く染まっていた。

 言葉の端々に、恥じらいと覚悟が入り混じって滲んでいる。

 

 俺はジーナの意図を察した。

 喉の奥が、じわりと熱を帯びる。

 

「……入れ」

「失礼、します」

 

 後ろ手でドアを締めるジーナ。

 彼女は、そのまま近づいてきて、俺をじっと見上げた。

 見つめ合う俺とジーナ。

 

 視線が交差して、やがてジーナはゆっくりと瞳を閉じた。

 俺は、その華奢な肩に手を置き、そっと唇を重ねた。

 

「——んっ」

 

 ジーナの肩がびくりと揺れる。

 俺は彼女の小さな唇を(ついば)んだ。

 触れ合う唇の感触に、頭の芯がじんわりと熱くなっていく。

 

 一度、唇を離してから、もう一度重ねる。

 

「ふっ……う……」

 

 徐々にジーナの唇が薄く開かれていった。

 誘われるように舌を入れると、彼女は一瞬体を強張らせたが、やがておずおずと舌を絡ませてきた。

 

 唇を重ねたまま、ジーナの身体に覆いかぶさるようにベッドのうえに押し倒す。

 

「ジューダス……さま……」

 

 ジーナの瞳は潤んでいた。

 その瞳には、怖さと、決意と、助けられた者の縋るような光が混じっている。

 

 俺がジーナの体に手を伸ばしかけた、そのとき。

 

(……待て)

 

 ふと、疑問が頭をよぎった。

 

 罰のアミュレット——

 

 ()()()()()()()()()()が、どこまでを許して、どこからを罰とする?

 

 たとえば、俺はジーナになんら恋愛的な感情を抱いていない。

 この関係は一夜かぎりのものだろう。

 このまま、行きずりの関係を重ねることを、なんらかの〝罪〟として、アミュレットに裁かれたらどうなる?

 

 今の雰囲気的に、ジーナもまんざらではなさそうだが。

 分からない。

 分からないことに手を突っ込むほど、俺の刻数は潤沢じゃない。

 

 そんな考えが、熱を帯びかけた思考に冷水を浴びせた。

 

 俺は、伸ばしかけた手を引っ込めた。

 覆いかぶさっていた体を起こす。

 

「……やめとけ」

「え……?」

 

 ジーナの潤んだ瞳が揺れる。

 

「どうして?」

「せっかく命を拾ったんだ。なら、自分を大切にしろ」

「でも、私は……」

「俺は明日、この村を発つ。そしたら二度と会わねえ」

「それでも、私は! ジューダス様に……!!」

 

 俺は視線を逸らし、続けた。

 

「行きずりの相手に、自分を渡すな。どうせ渡すなら、本当にお前を想ってくれるヤツに渡せよ」

 

 しばしの沈黙。

 ジーナは唇を噛み、こらえきれずに涙をこぼした。

 

「……ありがとう、ございます……ジューダス様……」

 

 それだけ言って、ジーナは部屋を出ていった。

 扉が閉まる音が、やけに大きく聞こえた。

 

「……くそ、もったいないことしたかな」

 

 俺は髪をぐしゃぐしゃとかき回す。

 素直にもったいない、と思った。

 同時に、心のどこかでほっとした。

 情けないほど矛盾してる。

 

 俺は部屋にかかった壁時計に視線を移す。

 午後十時過ぎ。

 寝るには少し早いし、なにより寝られそうもない。 

 

 俺はベッドから立ち上がった。

 

「……夜風にでも当たるか」

 

 予期せず女を抱きかけて高ぶった心を落ち着かせようと、廊下へ出た瞬間——

 

「ジュダさま……」

「え?」

 

 予期せぬ女と鉢合わせになった。

 そこに立っていたのはルインだった。

 サーシャたちと宴にいたはずなのに。

 

 目元が潤んでいる。

 泣いていたのか、怒っていたのか、判別がつかない。

 

「……ルイン?」

 

 俺が名前を呼ぶより先に、ルインは距離を詰めてきた。

 

 そして、躊躇なく俺の体に抱きついて。背伸びをして——

 俺の唇に、()()()()()()が触れた。

 

「……っ!」

 

 短く、でも逃げ場のないキス。

 ルインは離れると、震える声で囁く。

 

「お前……」

「ジュダさま……ルインはジュダさまをお慕いしています……」

 

 涙で潤んだ瞳。

 熱を持った眼差し。

 薄暗闇の中、ルインの頬が朱に染まっていた。

 

 

 

 

 俺は一歩引き、ルインの肩に手を置いて距離を取った。

 

「お前……何してんだよ」

「ごめんなさい、でも……我慢できなくて」

 

 ルインは口では謝罪の言葉を言いながらも、その目は俺をじっと捉えたままだ。

 

「さっきのお話、聞いてました……部屋の外から」

 

 ルインは、はっきりと言った。

 胸の奥を見透かされたみたいで、言葉に詰まる。

 

「……嬉しかったです」

「は?」

「ジュダさまが、踏みとどまってくれたこと」

 

 なぜかこぼれる涙。

 そんな涙を拭いもせず、ルインは微笑んだ。

 

「やっぱり、ジュダさまは優しいです…………でも」

 

 そんなルインの笑顔が一変。

 ぞっとするほど妖艶になった。

 

 ルインが一歩、近づく。

 彼女の両手が、俺の頬に伸びた。

 

「苦しいですよね?」

「……何の話だ」

「欲しいのに、我慢して。欲望を、全部ひとりで抱え込んでますよね?」

 

 やさしく撫でるように頬をさする。

 ぞくり、と背筋が震えた。

 いつものぽわんぽわんしているルインとは、まるで別人だった。

 

「言いましたよね? 夜のお相手も、従者の大切なお務めです」

「お前……まさか……」

 

 ふたたび、ルインの唇が重ねられた。

 

「……っ!?」

 

 今度は触れるだけじゃない。

 息をするのも忘れるくらいに荒い口づけだ。

 頭の奥がじーんとしびれて、まるで溶かされるみたいに頭がぼーっとしてきた。

 

「ぷはっ……」

 

 長いキスを終えて唇を離す。

 肺が空気を求めて、俺は大きく呼吸した。

 

「どうぞ、私を自由にお使いください。ジュダさまのためなら、ルインは——」

 

 ルインはぞっとするほど妖艶な表情を浮かべたまま。

 その身体がそっと俺に重ねられる。

 

 あまい香りがする。

 彼女の細い体はあまりに柔らかかった。

 

「ルイ、ン……」

「ジュダさまの全部……ルインが、受け止めてあげます」

 

 耳元で囁かれる声。

 それが合図だった。

 

 ブチン――

 

 俺の中の理性のタガが外れた。

 

 アミュレットの呪いなんてどうでもいい。

 明日死んだとしたら、もうそれまでだ。

 

 今はただ、目の前のこの女を(むさぼ)りたかった。

 

「……あっ!」

 

 俺はルインの華奢な体を突き飛ばすように、ベッドに押し倒す。

 そのまま強引に唇を奪った。

 

「んむ……、ちゅ……!」

 

 ルインは抵抗しない。

 むしろ、俺を受け入れるように両手を背中に回してきた。

 無我夢中で、貪るように彼女を味わう。

 

「あ……!」

 

 荒々しく、彼女が身につけていた衣服を引き剥がしていく。

 

「あっ! やっ――!」

 

 あらわになる白い肌に、手を伸ばして、まさぐりまくった。

 そのまま、もう一度ルインの口をキスで塞ぐ。

 

「はむ……、ん……! んんー!」

 

 唇と唇が離れる。

 

 「ぷは……! じゅ……た、さま……」

 

 ルインの熱い吐息が俺の首筋をくすぐる。

 彼女がうわごとのように俺の名前を呼ぶ。

 その声がますます俺を燃え上がらせた。

 

「うれしい……」

 

 その夜、俺はルインと一つになった。

 

 

 

 

 翌朝。

 俺はベッドの上で目を覚ました。

 ゆっくりと体を起こすと、自分が何も身につけていなかった。

 そして、恐る恐る視線を隣に向ける。

 

 その先には。

 俺と同じく一糸まとわぬ姿のルインがすやすやと寝息を立てている。

 その寝顔は、とても安らかで幸せそうだ。

 

 俺は思わず頭を抱える。

 

(やっちまったああああああああああああ!)

 

 昨夜のことを思い出して頭を抱える俺。

 結局、俺は欲望に負けてしまった。

 欲望のままにルインと寝てしまったのだ。

 

(常に冷静沈着、自制心の塊のジューダス・ファウルトはどこいった!?)

 

(こんなちんちくりんのガキに。貧相な体をした……いや、体つきはむしろ思った以上によかったけど……ってそうじゃねえ!!)

 

 俺はひとしきり頭を抱えたあと、そっと掛け布団をめくる。

 汗と体液が、昨日の夜の証拠として生々しい跡を作っていた。

 そして、丁度、腰のあたり……シーツに残る小さな赤い染みが目に映る。

 

 「こいつ、初めてだったんだよな……」

 

 胸の奥に、ずしんと重たいものが落ちた。

 女にとっての大切な()()()を、勢いと欲望のまま奪ってしまった。

 自分の浅ましさを突きつけられたようで、嫌悪感すら湧き上が……

 

(いやいや、別に罪悪感なんか抱く必要ねえだろ。だって、誘ってきたのはコイツからだし?)

(そもそも、こいつはただの俺の使用人だ。別に初めてだろうが何だろうが俺が気にする必要はない! そうだろ!?)

 

 俺はそうやって、必死に自分自身へ言い聞かせる。

 その証拠を求めるように、視界の端に浮かぶ数字へと目をやった。

 

(……刻数は、減ってないな)

 

 視界の端に浮かぶ数字は、昨夜のままだ。

 罰のアミュレット的にはセーフ判定らしい。

 

 だからって、問題が消えるわけじゃない。

 

(俺、どんな顔してルインと話せばいいんだよ……)

 

 そのとき。

 

「……ん」

 

 小さな声がした。

 

 俺がびくっと肩を震わせると、隣でルインが目を覚ましたらしい。

 寝起きのせいか、少しぼんやりした表情で――

 でも、俺を見ると、頬を朱に染めて、ふにゃっと幸せそうな笑みを浮かべた。

 

「おはようございます……」

「お、おう」

 

 ルインはもじもじと視線を泳がせたあと、そっと体をすり寄せてくる。

 気まずくて俺は視線をぷいっと逸らした。

 

「ルイン。あー……その、なんだ。昨晩のことなんだが」

 

 俺は「お互い忘れろ」と言おうとした。

 しかし。

 

「わたし、一生忘れません」

「え、いっしょう?」

「はい、世界で一番大好きな人と結ばれた……幸せな夜ですから」

 

 お、重い……。

 ちょっと重いんですけど、ねえ。

 

「えへへ、ジュダさま」

「な、なんだよ」

「だいすきです」

「っ!?」

 

 ルインのストレートな好意に俺は思わず息を飲んだ。

 またしても、こいつを抱きしめたい衝動に襲われる。

 だがすぐに我に返って、慌ててルインを自分から引き離す。

 

「と、とにかくだ! 今日からは元通り。いつも通りだからな!」

「えー、もうちょっとこのまま……」

 

 拗ねたように唇を尖らせるルインに、俺は首を横に振る。

 

「ダメだダメだ! ほら、さっさと着替えろ」

「だってジュダさまのこんなにお側にくっつけるなんて滅多にない機会ですもん」

 

 そんな歯の浮くようなセリフを抜かしながら、あてつけのように体を押し当ててくるルイン。

 や、柔らかいし、温かい。

 

 ぐぬぬ。

 このままだとずっとルインのペースのままだ。

 危機感を抱いた俺は、ベッドから飛び出して、床に脱ぎ散らかされた服を着る。

 

「あーん、そんなー」

「ほれ、お前もはやく服を着ろ」

 

 毛布にくるまったまま、恨めしそうな視線を向けてくるルインに、彼女の服を放る。

 

「俺は先に朝食に行ってるぞ」

「待ってくださいよ、ジュダさまー」

 

 返事をせずに、逃げるように部屋を後にした。

 部屋から食堂へ向かう廊下を歩きながら、俺は、ますます頭を抱えた。

 

(ああもう……! どうしてこうなった!)

 

 

 

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