愛の冒険者 ワンダーウーマン
Adventurer of love!Wonder Woman!
“Diana Prince Going to Japan. Vol1 ‐Clash!‐”
I will rush to help you even if you are 500 miles away!
西暦1985年4月30日 アメリカ合衆国ペンシルベニア州、アパラチア山脈の某所。
崖の上で太い杭に縛られた女がいた。身長は178センチで細身で足が長くスタイルのよい美しい女だ。肩にかかる黒い髪が強風で揺れているが、身に着けているコスチュームから普通の女でないのは明らかだ。金色のティアラとブレスレッドを付け、胸から腰のあたりまでは真紅の、腰回りは青い「鎧」を身に着けている。長くてスラリとした脚の太ももは露出していて、膝から下はロングブーツを履いている。そんな女は合衆国には、いや世界中を探しても一人しかいないだろう。彼女の名はダイアナ。セミッシラ島アマゾン族出身、ワンダーウーマンの名で知られる正義のヒロインだ。
無敵の鉄腕美女のワンダーウーマンだが、彼女は今、崖の上で両手首を鎖で縛られている。ブレスレットがある両手首を縛られた彼女はその強大な力を出せない無力な存在となってしまうのだ。
「あぁ、私としたことが、一瞬の油断だったわ・・・」
そこへ百数十メートルの崖下から、轟音と旋風とともに現れたのは白いベル・ヘリコプターだ。白いベルはワンダーウーマンの前方二十メートル、高度でいえばさらに十メートル上でホバリングしていた。中には操縦士の他に二人の男がいて、一人はドアを開け自動小銃を構えてワンダーウーマンを狙っている。
無敵と書いたが、ワンダーウーマンは決して完全無欠な超人ではない。銃弾が彼女を狙えばブレスレットを使って跳ね返すが、肌に当たれば普通の人間同様怪我をし、血だって流れる。最悪の場合、出血多量で死に至る可能性もある。
「お願い、外れて!」
もがく彼女は鎖を外そうとするが、固く縛られていてビクともしなかった。ヘリから放たれる弾は、ワンダーウーマンの足元に当たったり、黒い髪をかすったりしている。彼女を一発で仕留めるのではなく、恐怖におののく様を楽しんでいるかのようだった。ヘリは太い杭に縛られたセミッシラの王女の周囲を旋回し始めた。旋回しながらダイアナの周りに弾を打ち込んでいく。
「卑怯よ!さっさと殺したらどうなの!」
ワンダーウーマンはヘリの狙撃手に向かって叫ぶ。そのうち弾の一つが鎖をかすめ、ひびが入った。
「ラッキーだわ」
ワンダーウーマンは手首に今まで以上に力を込めた。
「ウオオオオオオオオ!」
絶叫とともにワンダーウーマンは鎖を砕いた。そして腰にぶら下げていた投げ縄をベル・ヘリコプターの右側のスキッドに括り付けると引っ張った。ベルは傾き、ライフルを構えていた男は谷底へと叫び声を上げながら落ちていく。操縦士がうろたえているのが窓越しに見えた。
そしてワンダーウーマンが崖上の地面を投げ縄を引っ張りながら走ると、ヘリは岩肌に激突し、爆発炎上をした。
「ふうう、いい気味だわ!さぁ、スティーブよ」
ワンダーウーマンはつい先ほどまで自分が括り付けられていた太い杭に投げ縄を括り付けると、崖下へと飛び降りた。谷底には赤い屋根の小屋があり、その中に入ると三十代後半くらいの白人男性がソファに横になって縛られていた。アメリカ合衆国の情報機関IDAC(Inter-Agency Defence Command)のエージェント、スティーブ・トレバー(少佐待遇)だ。彼はワンダーウーマンの仮の姿であるダイアナ・プリンス(大尉待遇)の同僚であり、恋の相手でもある。ダイアナはスティーブに思いをよせているのだが、彼は気が付いていないし、ダイアナ=ワンダーウーマンであることも、時折、疑うことはあっても知らないでいる。
ワンダーウーマンはスティーブの額に軽くキスをすると、ティアラを外し、カッターナイフの代わりにして紐を切り裂いた。
「起きて!ミスタートレバー!」
スティーブは呻き声を上げて、瞼を開けた。
「ワオ、ワンダーウーマンじゃないか?」
「奴らは私が倒したわ。今回のあなたの素敵な同僚はいないの?」
「素敵な同僚?ああ、ダイアナ、ダイアナ・プリンスのことか。彼女は今休暇でロスにいるよ」
「そぅ。寂しいわね」
「はは、彼女とはそんな仲じゃない。ただの同僚さ。」
ワンダーウーマン=ダイアナの表情が一瞬沈んだが、スティーブは気が付かず、外に出た。ワンダーウーマンも後に続く。ヘリの破片が小屋の前に散乱しているのを見たスティーブは横に並んだ鉄腕美女に言った。
「彼女には、ダイアナには内緒にしておいてくれよ、頼むよ」
「ええ、いいわ。ではね」
スティーブが瞬きをした隙にワンダーウーマンは姿を消した。
愛の冒険者 ワンダーウーマン
「走れ!ダイアナ・プリンス! 激突!大陸横断特急!」
西暦1985年5月5日 アメリカ合衆国イリノイ州シカゴ近郊。
ロスアンゼルスからシカゴへ向かう大陸横断特急「ウエストコーストゼファー」は終着駅のシカゴ・ユニオン駅を目前に控えていた。線路の向こうには高層ビルが見え、いつもは減速し始める場所なのに、列車はスピードを上げていく。定刻から少し遅れているので、取り戻す為だろうか、とほとんどの乗客は気に留めなかった。
機関車を含めて十両編成の列車の最後尾の二階建て客車の寝台個室で荷物をまとめていたIADCのエージェント、ダイアナ・プリンスは眼鏡をかけると怪訝に思ってから廊下に出た。速度はどんどん上がっている。中長距離の旅客列車、近郊の通勤列車、貨物列車で込み合うこのあたりでは、珍しい速度の上げ方だった。ちょうど、車掌のサムがいた。この列車をよく利用するダイアナとは顔なじみだ。
「サム、速度があがっているわ」
「ああ、ダイアナさん、機関車に連絡を取ろうとしているのですが、応答がないんですよ」
小太りで丸顔の車掌は無線機を示してダイアナに言った。黒い顔に冷や汗が流れているのをダイアナは見逃さなかった。失礼しますといってサムは前の車両に向かってお腹を揺らしながら走って行く。その間にも速度はどんどんあがっていて時速100キロは超えているだろうとダイアナは思った。
(サムが機関車にたどり着く前に、列車の速度は150キロを超えてしまう。脱線するか、駅のコンコースに激突するかだわ!)
ダイアナの脳裏に、列車がシカゴ・ユニオン駅の車止めを越え、コンコースになだれ込み、多くの人々が死傷する阿鼻吸汗の図が鮮明に浮かんだ。
ダイアナは個室の中に戻ると、ドアを締めた。そして両手を大きく横に広げ、深呼吸をするとバレリーナのようにくるくると身体を回した。バアアンという音と共にダイアナの全身を光がつつみ、グレーのスーツのトップスとボトムス、パンプスは消えた。黒縁の眼鏡も消え、額には赤い星印の金色のティアラが出現した。ティアラの先端は高くそびえる鼻に向き、その首の後ろでくくっていた黒い髪は解かれ、前は鎖骨のあたり、後ろは肩甲骨の間まで垂れる。一瞬生まれたままの姿のなった身体を胸から腰のあたりまでは真紅、腰回りは青い、金色のベルトをつけた鎧となった。そして膝から下はハイヒールな黄金のブーツを履き、両手には金の縁取りの銀色のブレスレットとなった。左の腰には投げ縄が吊り下げられている。大きくて知恵と勇敢さと優しさを兼ね備えた眼差しの黒い瞳を少し細め、艶のある唇から吐息を出したダイアナは、個室のドアノブに手をかけた。
セミッシラのアマゾン族の王女であり、戦士であるワンダーウーマンに変身したダイアナは、客車の貫通路の扉を開けると、作業用の突起状のはしごを使って幅3.1メートルの屋根に上った。長さ約26メートルの二階建て客車は八両、その前にEMD型ディーゼル機関車が二両、機関士がいる機関車の運転室までは三百メートル近くある。
機関車から最後尾の客車まで銀色に塗装された大陸横断特急ウエストコーストゼファーは、速度をどんどんあげ、それはすでに百五十キロに達していた。
ワンダーウーマンは揺れる客車の屋根の上を全力で走り始めた。
(確かあの機関車は時速百六十キロまでは走れるはず。まだ大丈夫だけど、急がなくては!)
前方にはシカゴの摩天楼がどんどん大きくなってきていて、ユニオン駅のそばにある百十階建て、高さ四百四十二メートルのウリィスタワーも見えてきている。
五両目の食堂車を越えたころ、車内で乗客たちが騒いでいて、機関車に向かいたい車掌のサムが対応に追われているのも聞こえた。さらに機関車の方向に耳を澄ますと、何かが外に放り投げられたような音がした。
「いったい何がおこっているの?」
機関車のボンネットにワンダーウーマンが降り立つと、機関士が目を大きく開いて何かを叫んでいるのが見えた。機関助士らしい男が頭から血を流して倒れている。
「速度を落として!ブレーキをかけなさい!」
ワンダーウーマンはフロントガラスを叩いて機関士に言った。四十歳くらいのドイツ系らしい機関士は、最近雑誌やテレビで報道され始めた正義の鉄腕美女戦士の出現に気が付き、さらに何かを叫び始めた。
(止めることはできない‥そう言っている・・)
ワンダーウーマンはボンネットから運転室出入口前まで移動をし、扉を開けようとしたが鍵がかかっていて開かなかった。
「開けなさい!ドアを開けて!」
もちろん機関士が開けるはずもない。ワンダーウーマンは息を吸ってからドアの取手を掴むと、思い切り力を入れてドアを外して、投げ捨てた。列車の周りには操車場となっていて線路が何本も走っていたが、幸い他の列車や保線作業員には当たらなかった。
ワンダーウーマンが運転室に飛び込むと、機関士はトカレフらしいピストルを取り出して発砲した。ブレスレットで弾いた弾丸がフロントガラスに当たり、ヒビが入る。
彼女は機関士の懐に飛び込むと、トカレフを奪い、外に捨てた。
「さあ、列車を止めなさい!何が目的なの?」
機関士は笑って運転台を示したマスコンと呼ばれる主制御装置は出力最大となっており、ブレーキハンドルは見当たらなかった。ついさっき何かが外に捨てられたのは、ハンドルだったのだろう。これでは機関車を止めることはできないのではないか。
「みんな死ぬ!一緒に死ぬのだ!わはははは!」
ワンダーウーマンの両腕が、むき出しの両肩が怒りに震え、それを抑えられなくなった彼女は機関士の胸倉をつかむと右頬を思い切り殴り、さらに鳩尾(みぞおち)を突いて気絶させた。そしてマスコンを手前に動かし、速度を下げようとした。自動車に例えれば、踏み続けられていたアクセルを離したことになる。
「速度は百六十五キロ、少しずつは速度を落とすけど・・・」
非常用ブレーキも壊されていて使い物にならない。床に倒れている若い機関助士は息があったが、起こすのは危険だ。
「ならば、私がブレーキになりましょう」
ワンダーウーマンは気絶している機関士の足を、ブレーキペダル式の汽笛弁に載せた。
「ファアアアアアアアアアアアン」
汽笛音が響く。駅の建物、プラットホームまだ遠いが、すでにシカゴ・ユニオン駅の構内といってよい区域に入っていて、周囲にはたくさんの列車が見えた。汽笛を鳴らし告げることで、駅や他の列車にこのウエストコーストゼファーに異常が起こったことを知らせるのである。少しでも犠牲者を出さないためだ。
機関車の運転室から出て、屋根に上がったワンダーウーマンは、ばい煙を避けながら二両目の機関車まで全力で走った。さらに一両目、二両目と二階建てのスーパーライナー客車の屋根に達すると足を止めた。二両目のコーチ車と呼ばれる二等座席車の窓から、サムが顔を出しているのが見え、ワンダーウーマンは膝をついて下に顔を向けて叫んだ。
「サム!乗客に衝撃に備えるように指示をして!」
「あ、あなたは、ワ、ワンダーウーマン?何で私の名を・・・」
「いいから、早く!みんなを!」
「わ、わかった」
ワンダーウーマンは進行方向に向き直った。道路橋が迫っているのが見え、身体を屈ませてやりすごすと、絶叫をあげながら、屋根上を走り始めた。二両目から一両目の客車、さらに二両重連の機関車の屋根に達すると、屋根を蹴って時速二百キロを出して跳躍をした。機関車を飛び越え、線路に飛び降りた鉄腕美女戦士。プラットホームがすぐ近くに迄迫っている。143センチ5ミリの幅のレールに金色のブーツを履いた左足と、右足を乗せたワンダーウーマンは両手を大きく広げた。
「お願い、女王ヒッポリタ、私に力を・・」
ワンダーウーマンは地中海に浮かぶ故郷セミッシラにいる最愛の母の顔を思い浮かべて祈った。ファアアアンンと汽笛を鳴らし続けるディーゼル機関車の銀色の車体が迫ってきた。ドドンという音と共に衝撃が彼女を襲う。さすがに吐き気がしたワンダーウーマンは両手、腰、両足に力を込めて機関車に制動をかけようとする。ブーツの底から火花が散った。列車は確かに速度を落としてはいる。だが、まだ通過駅で出す速度だ。駅中から悲鳴が聞こえる。列車の中からも多くの乗客が泣き叫んでいた。車掌、食堂車の従業員らが衝撃に備えて、と叫んでいる。ワンダーウーマンが助けてくれます!とのサムの声も聞こえた。
(サムには悪いけれど、さすがに無理かもしれない!)
隣のホームには列車が止まっているのが見え、中から乗客はこちらを見ている。今まで多くの人々が見守る中、正義のヒーローとして世の中を救ってきた。今回ばかりは機関車と駅のコンコースの壁に挟まれて死ぬかもしれない、そう思ったワンダーウーマンは必死に足腰に力を入れ続けたが、脳裏には恋するスティーブ・トレバーの笑顔が浮かんだ。
(スティーブ、さようならよ)
最後まで彼はダイアナの想いに気が付かなかった。そしてワンダーウーマンが彼女であることも。ワンダーウーマンの活躍を報じる新聞を片手に自分のことのようにはしゃぐスティーブ、それを微笑んで頷くダイアナ自身の姿が瞼の裏のスクリーンに映った。
キキキキキという音が後方から聞こえた。客車に備え付けられている非常ブレーキだろう。後でわかったことだが、ウエストコーストゼファーをシカゴ・ユニオン駅に激突させようとした機関士は客車の非常ブレーキも効かないように細工をしていたらしい。それを乗員が必死になって修理をしたのだった。
(何とかなるかもしれないわ・・)
全身でブレーキとなったワンダーウーマン、修理された客車の非常ブレーキで速度は数十キロにまで落ちていた。
「お願い!止ってえええええ」
すり減った金色のブーツの底が車止めに達したとき、ロサンゼルスから走ってきたウエストコーストゼファーは停車した。駅のホームからは歓声と拍車が聞こえた。警察と消防のサイレンも聞こえてくる。
「止った!助かったわ!」
ワンダーウーマンは機関車から両手を離すと身体の態勢が崩れ、思わず線路の枕木の上にヘナヘナと座り込んだ。車掌のサムが走ってきた。
「ワンダーウーマン、ありがとうございますおかげで、定時に到着いたしましたよ」
「そう、まるで日本のシンカンセンみたいね」
ホッとして微笑んだワンダーウーマンは機関車のひびが入った運転室のフロントガラスを指した。
「中に発狂した機関士と怪我をして倒れている機関助士さんがいます!警察と消防に連絡を!」
「わかりました」
そういって車掌のサムは敬礼をした。
「ところで、何故私の名前をご存じで?」
一瞬うろたえたワンダーウーマンだったが、すぐに彼がABCテレビの旅行番組に出演していたことを思い出した。
「よくテレビでみているわ」
「ああ、なるほど。では!」
程なく、ワンダーウーマンの聴覚が電子音を捕えた。プルルルウウというその音が一瞬何か分からなかったが、すぐに思い出した鉄腕の美女は人込みをかき分け、最後尾の二階建ての客車へと走った。音はやんだが、彼女が客車の真ん中にある乗降口にたどり着くと、再び聞こえた。ワンダーウーマンは階段を駆け上がり、ダイアナ・プリンスの名で予約した寝台個室のドアを開けた。
音はトランクから聞こえている。番号錠を開けると音は大きくなった。それはショルダー式の携帯電話、本体と受話器がわかれたもので、合衆国では数年前からサービスが始まっていて、ダイアナは組織から持たされているのだった。
小さな液晶には見慣れた番号が表示されていて、ワンダーウーマンは受話器を取った。
「ハァーイ、ダイアナです」
「やあ、ダイアナ、大陸横断特急の旅はどうだい、楽しめたかな」
スティーブ・トレバーの声だった。命がけの「仕事」をしたあとで彼の声を聞けるのは嬉しく、鼓動が高鳴った。
「ええ、とってもスピーディで、スリリングな旅だったわ」
「列車の旅が?スピーディ?スリリングだって?」
おそらくワシントンDCのオフィスにはこの騒ぎはまだ、伝わってはいないようだ。
「へえ、それで声が少しおかしいのかい?」
ワンダーウーマンはハッとなって口を押えた。変身すると少しだけ声質がかわるのだ。口調もほんの少しかわるし、性格も若干ダイアナとワンダーウーマンでは異なるような気がする。でもまさかスティーブは受話器の向こうに立つのがダイアナではなくてワンダーウーマンだとは思うまい。
「で、何なのかしら?携帯電話を使うくらいだから余程の急用?」
「ああ、実は今日はシカゴで泊まると聞いていたけど急いで戻ってきてほしい」
「まあ、何かあった?」
某国スパイ組織に拉致され、ペンシルベニアの谷底の小屋に縛られていたスティーブの情けない姿を思い出したワンダーウーマン。
「な、何もない。ちょっとした任務があったけれど、無事一人で解決したよ」
思わず吹き出しそうになったワンダーウーマンは、黒い髪をかき上げた。
「実は急な任務でね。日本へ行くことになった。同行してほしい」
「まあ、日本、久しぶりだわ」
「あれ、ダイアナ、君は日本に行ったことがあったっけ」
「ええ、四十年くらい前にね」
「四十年前だって!君は何歳なんだよ」
ワンダーウーマンは右手で口を押えた。普通の人間に比べれば永遠に近い寿命を持つセミッシラの住人であるダイアナ=ワンダーウーマンは、かつて合衆国海軍中尉として、第二次世界大戦が終わったばかりの日本に赴任したことがあったのだ。その時、陸軍少佐だったスティーブの父もGHQ連合国軍最高司令部の一員として東京に赴任していた。ちなみに今のワンダーウーマンは二十八歳のダイアナ・プリンスとしてIADCに籍を置いている。
幸い、スティーブは冗談ととったみたいだ。個室の外の廊下からは、ダイアナを呼ぶ車掌のサムの声がした。親しい乗客の姿が見えないので心配していたのだろう。
「わかったわ。午後の飛行機で戻ります。じゃあね」
サムのノックのあと、ドアが開きかけた。ワンダーウーマンは慌てて取手を抑えた。
「い、今、着替え中なの。ちょっと待ってくださるかしら」
西暦1985年(昭和六十年)五月七日。日本国静岡県。
日本国有鉄道が誇る超高速鉄道新幹線ひかり183号のグリーン車11号車では、ダイアナ・プリンスがスティーブ・トレバーと並んで座っていた。新東京国際空港にノースウエスト航空のボーイング747で着いた二人は、空港横のホテルで一泊したあと、今回の任務地の京都に向かうことになったのだ。
根っからの飛行機好きで、鉄道やバスでの長距離移動が苦手なスティーブは嫌がったが、鉄道の旅が好きなダイアナは押切り、世界一速い列車シンカンセンでの旅となったのだ。
「列車の旅もいいのよ、スティーブ」
「でも飛行機の方が安全だよ。この前だって・・・」
ダイアナが乗っていた大陸横断特急が、機関士が乗客もろとも列車を駅に激突させて自殺をしようとしたことを言っているのだ。スティーブはダイアナとの電話を終えた後、事件を知ったのだ。
「あの時はワンダーウーマンが、たまたまいてくれたからよかったものの・・・」
シカゴでのワンダーウーマンの活躍はテレビのニュースや新聞、雑誌で報道され、称賛された。
「鉄道車両が時速二百キロ以上を出して走るなんてクレージーだ。もし、踏切でトラックとぶつかったら、脱線でもしたら・・・」
「スティーブ、シンカンセンに踏切はないわ。それに何かあったら、きっとワンダーウーマンが助けに来てくれるわよ」
「何だって?いくらワンダーウーマンでもこんな極東の島国に来るものか。ああ、神様、
祖国アメリカでワンダーウーマンが無事でありますように。私は最果ての国に居て彼女を助けられません」
スティーブは胸前で十字を切り、ダイアナは笑いをこらえた。どうやらスティーブは本気で言っているらしい。とはいえ、スティーブの助けで窃盗団から偽宗教団体、ソ連のスパイから異星人に至るまで、ワンダーウーマンが戦いの中での危機を切り抜けたことは多々あった。ダイアナは心の中で礼を言った。
「ほら、スティーブ、富士山よ」
ダイアナは眼鏡の縁をもって窓の外に顔をつきだした。この前日本に来たときは、蒸気機関車が牽引する連合国軍専用列車の車窓から窓をあけて富士山を眺めたのだった。
「きれいな山だ。でも、今度は空から眺めたいね」
鉄腕を封印した美女戦士とちょっと冴えないエージェントを乗せたひかり183号は富士川の鉄橋を渡り、西へと向かって走って行った。
つづく
Adventurer of love!Wonder Woman!
“Diana Prince Going to Japan. Vol1 ‐Clash!‐”
Continue to next time!