一九九X年、世界は核の炎に包まれた!
海は枯れ、地は裂け、あらゆる生命体は絶滅したかに見えた……。
だが、人類は死に絶えてはいなかった!
時は世紀末。支配するのは暴力、そして血を血で洗う宿命のみ。
その赤茶けた砂塵の向こうから、一人の男が姿を現す。
銀髪の隙間から覗く瞳は、一切の感情を排した絶対零度の虚無。重厚な狩装束を纏い、死臭漂う荒野をただ黙々と歩むその男。
男は「超ストイック」の化身。その口から無駄な言葉が漏れることは、万に一つもない。
「……」
だが、男が拳を構えたとき、この時代の常識は音を立てて崩壊する!
その名は、メンシス神拳!
「ヒャッハー! 見ろよあのスカした野郎、素手だぜ!」
「死ねぇ! その銀髪を血で染めてやるぜぇーっ!!」
大型バイクに跨った、モヒカン頭の巨漢・デビルZが、棘だらけの鉄棍棒を振り下ろす!
刹那、狩人の体が揺れた。
北斗神拳のような鋭い踏み込みから繰り出されたのは、あまりにも脱力した「平手打ち」であった。
ぺち。
デビルZの頬に、乾いた、情けない音が響く。
「……あ?」
デビルZの動きが止まる。
「いま……ぺちって言ったか? おい、お前いま、俺をぺちって叩いたのか!?」
狩人は答えない。ただ、氷のような瞳で男を見据えている。
「ふざけやがって! そんな愛のムチが効くかよぉ! 俺の筋肉は――」
だが、男は次の瞬間、自らの脳内に広がる「宇宙」を幻視した。
狩人の低く、冷徹な声が、エコー全開で脳髄を直接揺らす。
「……かねて、我らとともにあった。」
メンシス神拳・発狂点。
ぺちりと触れられた箇所から、人知を超えた「啓蒙」が毛細血管を通って逆流!
デビルZの視界には、荒野を闊歩する巨大な脳みそと、ドレスを着た謎の女性、そして無数の瞳が得体の知れないダンスを踊る光景が映し出された!
「あ、あ、ああああ……!? 脳が! 脳が震えるぅぅッ!! 瞳が見える、瞳がいっぱい見えるぞぉぉ!!」
デビルZは爆発もしなければ、血も流さない。
ただ、その場で白目を剥き、ケチャップを頭から被ったような顔で**「私は……私は宇宙の真理を理解した……」**とブツブツ呟きながら、赤子のように丸まって眠りについた。
「な、なんだあの拳は!? ぺちぺち叩いてるだけじゃねえか!」
「なのに、デビルZ様が……一瞬で廃人(コスモ)に!!」
残りの暴漢たちは、あまりの不気味さに震え上がった。
「あいつにぺちられたら終わりだ! 逃げろ、頭に瞳が増えちまうぞーっ!」
静寂が戻った荒野で、狩人は一切の表情を変えず、ただ自分の手のひらを見つめることもなく、独りごちた。
「……ああ、やはり。狩りは、まだ終わっていない。」
狩人は再び歩き出す。
その足取りはどこまでもストイックだが、すれ違う野盗たちは皆、頬を「ぺちり」とされる恐怖に怯え、震え上がるのであった。