カサカサと乾いた音が荒野に響く。
それは、かつて「南斗水鳥拳」の美しさに憧れ、己を研鑽した男・ガリレオの、巨大なコンパス(という名のメイス)が空を切る音であった。
「フハハハ! 貴様が噂の『ぺちぺち使い』か! 俺は南斗聖拳・天文学派のガリレオ! 貴様のそのふざけた拳、俺の精密な計算で叩き潰してくれるわ!」
その前に立ちはだかる銀髪の男。
狩装束を翻し、一切の表情を崩さず、鉄の如き意志で沈黙を守る。まさにストイックの権化。
「……」
狩人は構えない。ただ、無造作に歩み寄る。
「死ねぇーい! 天体衝突波ッ!!」
巨大なメイスが振り下ろされる。
しかし、狩人はわずかな身のこなしでそれを回避。逆に、無防備なガリレオの脇腹へ、超高速の連打を叩き込んだ。
ぺちぺちぺちぺちぺちぺち……ぺちんっ!!
あまりに軽い。湿った煎餅を叩いたような、緊張感の欠片もない音が荒野に木霊した。
「……ん? いま、当たったか? くすぐったいだけだぞ!」
ガリレオが勝ち誇ったように笑おうとした、その瞬間。
狩人が初めて、深淵より響くような声を漏らす。
「……かねて、我らとともにあった。」
メンシス神拳・百目ぺち(ひゃくめぺち)!
ガリレオの脳内に、突如として「教室」の風景が広がった。
何百もの瞳を持つ上位者が、彼に「宇宙の幾何学」を猛烈なスピードで講義し始めたのである。
「あ、あ、あああぁぁぁ!? なんだ、この黒板の数式はぁぁッ!! 答えが……答えが『瞳』になってしまうぅぅ!!」
ガリレオの肉体に傷はない。しかし、彼の精神はすでに百億光年の彼方へ放り出されていた。
「地球は……地球は、でっかい脳みそだったんだよぉぉーっ!!」
ガリレオは突然、地面に這いつくばると、砂の上に複雑な数式を書き殴り、**「宇宙の真理からすれば、暴力など誤差に過ぎない……」**と賢者モード全開で呟きながら、静かに眠りについた。
「な、なんてことだ! 天文学派のガリレオ様が、ぺちりと一発叩かれただけで、インテリの廃人になっちまった!」
暴漢たちは、自分たちの脳が「啓蒙」される恐怖に耐えきれず、バイクを捨てて脱兎のごとく逃げ出した。
「……」
狩人は、宇宙と一体化したガリレオを一瞥だにしない。
ただ、手入れの行き届いた自らの掌を見つめることもなく、乾いた風の中に独りごちた。
「……ああ、やはり。狩りは、まだ終わっていない。」
カカトを鳴らし、狩人は再び歩き出す。
その背後には、ただ「ぺちり」という音だけが、福音のように静かに残されていた。