荒野の静寂を、重い足音が切り裂く。
その男の胸には、北斗七星の形をした七つの傷があった。
「……貴様が、各地で野盗を廃人に変えているという、銀髪の男か」
ケンシロウの鋭い眼光が、狩人を射抜く。
対する狩人は、一切の動揺を見せず、ただストイックに、そして無言で立ち塞がった。
「……」
二人の間に流れるのは、死の予感。
先に動いたのは、狩人だった。
ぺち。
「……ッ!?」
ケンシロウの強靭な大胸筋に、あまりにも情けない、乾いた音が響く。
だが、ケンシロウはその一撃に宿る、人知を超えた「狂気」を察知した。
(な……なんだ、この拳は!? 秘孔ではない……脳の奥底を、見たこともない異形の瞳が覗き込んでくるようだ……!)
ケンシロウは一瞬の寒気を感じ、即座に間合いを取る。
「……得体の知れぬ拳だ。だが、この北斗神拳に隙はない!」
ケンシロウの闘気が爆発し、服が弾け飛ぶ!
「あたたたたたたたたーっ!!」
「北斗百裂拳!!」
無数の拳が狩人の肉体を貫く。
狩人は回避することすらなく、その全ての打撃を真正面から受け止めた。ストイックすぎるがゆえに、避けるという選択肢すら捨てたかのようであった。
「お前はもう、死んでいる」
ケンシロウが背を向け、静かに言い放つ。
直後、狩人の体内で秘孔が爆発。
「……あ、あば、あばばば……ッ!!」
狩人が初めて、苦悶の声を漏らす。
だが、その死に様は凄惨というよりは、あまりに「神秘的」であった。狩人の体から、無数の光り輝く「血の遺志」が噴き出し、彼はその場に崩れ落ちて霧のように消滅したのだ。
「……消えただと? 奴の体、爆裂する瞬間に……透けていた……?」
ケンシロウが驚愕に目を見開く。
死体すら残らぬその最期。北斗神拳の歴史にない事態に、伝承者は戦慄した。
……しかし。
わずか数十メートル先。かつて誰かが建てた古びた道標(灯り)のそばで。
スゥ……
と、何事もなかったかのように銀髪の男が再び姿を現した。
「……」
狩人は再び、無言で歩き出す。
先ほど殺されたばかりだというのに、恐怖も怒りもなく、ただストイックにケンシロウの方へ「ぺちり」と歩み寄る。
「……ばかな。今、確実に仕留めたはずだ! 貴様、何者だ!」
ケンシロウが構え直す。
狩人は低く、冷徹な声を漏らした。
「……ああ、やはり。狩りは、まだ終わっていない。」
ぺち。
再び、ケンシロウの腕に軽い音が響いた。
この男、何度殺しても「ぺちり」を届けに来る。
ケンシロウは、生まれて初めて「無限ロード地獄」のような恐怖を感じ始めていた。