砂漠のただ中に、天をも貫かんとする巨大なピラミッドがそびえ立つ。聖帝サウザーの権威の結晶、聖帝十字陵である。その頂へと続く階段を、銀髪の男が一切の迷いなく、静かに登っていた。
「……」
狩人はストイックだった。あまりにもストイックすぎて、そこが数多の子供たちの血と汗で築かれた怨嗟の塔であることなど、微塵も気にかけていなかった。彼はただ、そこに「石壁」があったから手を伸ばした。
ぺち。
乾いた音が、静まり返った十字陵に響き渡る。狩人は無表情のまま、一段登っては壁を叩き、また一段登っては壁を叩いた。
ぺち。ぺち。ぺち。ぺちぺちぺち。
「……何をしているのだ、貴様は」
頂上の玉座から、黄金の輝きを放つ男が立ち上がった。聖帝サウザーである。サウザーの額には青筋が浮かんでいた。自らの神聖不可侵なる十字陵を、まるで壊れた太鼓でも叩くかのように「ぺちぺち」鳴らされているのだ。
「私の聖帝十字陵は、愛も情けも捨てたこの俺の、誇りの象徴! それを……そのような、ふざけた音で汚すとは!!」
狩人は答えない。ただ、玉座のすぐ側にまで登り詰めると、あろうことかサウザーの座る黄金の椅子に手を伸ばした。
ぺちん。
「貴様ぁぁーっ!! 退かぬ! 媚びぬ! 省みぬ! この帝王サウザー、貴様のそのふざけた手を、南斗鳳凰拳の奥義で細切れにしてくれるわ!」
サウザーが鳳凰の如く宙を舞う!
「南斗鳳凰拳奥義・天翔十字鳳ッ!!」
宙を舞うサウザーの鋭い一撃が狩人を捉えようとしたその瞬間、狩人の瞳に、悪夢の主の如き「恍惚とした狂気」が宿った。狩人は回避せず、逆にサウザーの懐へと一歩踏み込む。
男は、深淵の底を這うような、それでいてどこか楽しげな声を漏らした。
「……目覚めぬ(あぁ、あぁ、あぁぁぁ!)。」
「……聞こえぬ(我らの祈りが、聞こえぬか?)。」
「……逃がしはせぬ(素晴らしい!)。」
サウザーの三原則を、ミコラーシュの「狂喜の喝采」で完全に粉砕する宣言。直後、サウザーの差し出した右足の甲を、狩人の指先が優しく捉えた。
ぺち。
「……な、何ッ!? いま、脳の奥で誰かが犬のように吠えたぞ!?」
サウザーの空中での姿勢が、ありえない角度で静止した。
メンシス神拳・「悪夢ぺち(あくむぺち)」!
サウザーの脳内に、突如として「籠を被った変な男と、霧の迷路で永遠に追いかけっこをする」という、あまりにも不毛で精神を削る悪夢が強制投影された。
「あ、あ、ああ……ッ!? 師匠……!? なぜ、なぜ師匠が……籠を頭に被って、鳥のようになきながら、私から逃げていくんだぁーっ!!」
サウザーの目から「啓蒙の残滓」である黒い液体が溢れ出す。鳳凰の如き華麗な舞はどこへやら、彼は「愛などいらぬ……目覚めれば、すべて忘れてしまうのだから……」と、完全にミコラーシュの捨て台詞を吐きながら、頂上から転がり落ちていった。
「な、なんてことだ! サウザー様が、足の甲をぺちりとされただけで、鏡の向こうへ逃げ出す廃人になっちまった!」
逃げ惑う兵士たちの中、狩人は一切の表情を変えず、再び十字陵の壁を一度だけ叩いた。
ぺち。
「……ああ、やはり。狩りは、まだ終わっていない。」
これがやりたかっただけ