三度目の侍 作:最強系妄想おじさん
※リューマ転生オリ主。
龍を斬った男は、今は骨だ。
ワノ国の剣豪リューマ。
かつて空を裂いた斬撃の主。
その体は、スリラーバークにある。
王下七武海ゲッコー・モリアが集めた“名のある死体”。
影を詰められ、ゾンビとして使われていた。
侍の末路としては、あまりに雑だ。
そして今夜。
その体に入っていた影が、剥がれ落ちる。
――本来の主を、呼び戻すように。
霧の庭に、乾いた金属音が響いた。
軽い。
速い。
だが踏み込みだけが重い。
ブルックの影が振るう剣。
その影が宿るのは、リューマの肉体。
噛み合っていないはずの二つが、奇妙な強さを生んでいた。
三本の刀を腰に差した剣士が、眉をひそめる。
「……妙だな」
刃を交えながら、違和感が増していく。
動きは軽い。
だが間合いが深い。
力でも速さでもない。
“体が先にいる”。
そんな剣だった。
少し離れた場所で、ブルックが戦いを見守っていた。
「私の影が……」
声が揺れる。
「剣の癖は確かに私のもの……ですが……」
フランキーが低く唸る。
「動きが違ぇ……」
「ただのゾンビの動きじゃねぇ」
刃がぶつかる。
ゾロが踏み込む。
ゾンビが応じる。
その瞬間。
体の奥で、何かが軋んだ。
ブルックの顔色が変わる。
「……え?」
影が揺れる。
拒むように。
押し返すように。
「まさか……」
影が、剥がれる。
ゾンビの体から引き離され、霧の中で形を取り戻す。
ブルックが一歩踏み出す。
「戻って……!?」
影がそのまま自分の体へ吸い込まれる。
完全に。
「……戻った……」
息が震える。
その場に残った肉体が揺れる。
崩れるかと思った。
だが、倒れない。
フランキーが目を見開く。
「……おい」
「まだ立ってるぞ」
肉体の顔が、ゆっくりと上がる。
目が開く。
そこにあるのは、影の操り人形ではない。
“意思”。
ゾロの呼吸が、わずかに止まる。
霧の匂い。
冷たい肉体。
手の中の刀。
意識が、灯る。
ここはスリラーバーク。
自分はリューマ。
死んだはずの剣豪。
――三度目だ。
一度目は、名も残らない人生だった。
剣も持たず、何も斬らず、ただ終わった。
二度目は、この世界で剣に生きた。
斬り、守り、名を残し、そして死んだ。
そして今。
骨の体で、また立っている。
肺は動かない。
心臓も鳴らない。
だが。
剣だけが、まだ生きている。
(……振れる)
それだけで十分だった。
ゾロの刃が迫る。
反射で受ける。
金属音。
刃が止まる。
わずかな静寂。
今度は完全に、自分の意思で振るった剣だった。
ゾロの目が変わる。
「……変わったな」
「ああ」
乾いた声が出る。
三度目の生の、最初の言葉。
フランキーが思わず呟く。
「ゾンビが……喋った……?」
ブルックが息を飲む。
「……ワノ国の剣豪、リューマ……」
その名は、この海では軽くない。
世界政府の支配が及ばぬ鎖国国家の伝説。
「その肉体に……意思が……?」
再び斬り結ぶ。
今度は違う。
癖もない。
迷いもない。
ただの剣。
それなのに。
一歩早い。
半歩深い。
ゾロの斬撃が、わずかに外れる。
力じゃない。
速さでもない。
“そこにいる”。
それだけで届かない。
ゾロが踏み込む。
全力で斬りかかる。
リューマは受ける。
流す。
返す。
圧倒しない。
追い詰めない。
ただ、外さない。
沈黙。
剣が止まる。
ゾロが息を吐く。
刀をわずかに下げる。
だが、構えは崩さない。
「……誰だ」
短い一言。
リューマは肩をわずかに揺らす。
「名乗るほど、まだ斬り合っていない」
静かに答える。
ゾロの目が細くなる。
もう一度、刀を構える。
続くはずだった。
その時。
遠くで轟音が響いた。
地面が揺れる。
瓦礫が崩れる音。
全員がそちらを見る。
ゾロが舌打ちする。
「……ルフィか」
一瞬だけ、視線をリューマへ戻す。
「……続きは、後だ」
リューマも刀を収める。
「ああ。先にそっちだ」
死んだはずの身で、また剣を振るう夜。
口元が、わずかに緩む。
ゾロが走り出す。
ブルックとフランキーも続く。
リューマも一歩遅れて動き出す。
無理に輪に入らない。
ただ同じ方向へ向かう。
霧の向こうで、また轟音が響く。
(忙しい夜だ)
だが今度は――
どこへ斬り込む。
静かに、笑った。