三度目の侍 作:最強系妄想おじさん
霧を抜けた先で、地面が揺れた。
轟音。
砕ける瓦礫。
裂ける石畳。
ゾロが速度を上げる。
「……決めに入ってる」
それだけで十分だった。
ブルックも、フランキーも続く。
リューマは一歩後ろを保ったまま走る。
無理に並ばない。
ただ同じ方向へ向かう。
広場に出る。
中央で、ルフィとモリアが向かい合っていた。
互いに満身創痍。
だが――
終わる。
それは見ている全員が分かっていた。
ナミも、ウソップも、サンジも、ゾロも。
誰も踏み込まない。
チョッパーが小さく呟く。
「……ルフィなら……」
ナミが息を吐く。
「任せるわ」
それだけ。
信じている。
船長の戦いだから。
ルフィの体が膨れ上がる。
蒸気が噴き出す。
ギア3の質量。
ギア2の速力。
空気が震える。
「――ゴムゴムの」
一歩。
地面が割れる。
「JET砲弾(ジェット・シェル)!!」
巨体が弾丸のように突っ込む。
モリアの巨体へ、全身ごと叩きつける。
衝撃。
空気が爆ぜる。
地面が砕ける。
影が弾ける。
モリアの体が吹き飛び、崩れ落ちた。
静寂。
誰も、すぐには動かない。
ウソップがへたり込む。
チョッパーがその場に座る。
フランキーが大きく息を吐く。
ロビンが目を閉じる。
ブルックが背筋を伸ばす。
サンジが煙草をくわえ直す。
ゾロが刀を納める。
ルフィが、その場に倒れた。
完全に力を使い切っている。
チョッパーが駆け寄る。
「ルフィ!!」
ナミが言う。
「大丈夫……勝ったんだから」
ほんの一瞬だけ、夜が軽くなる。
その時だった。
霧の奥から、足音がした。
ゆっくり。
重く。
一定の間隔。
全員が振り向く。
現れたのは、巨大な男。
丸い帽子。
無表情。
揺れない視線。
場の空気が沈む。
ナミの顔色が変わる。
触れられた瞬間、消えたペローナ。
ゾンビたちが口にしていた言葉。
七武海。
「……あれは……七武海……!」
息が詰まる。
「触られたら終わりよ!!」
一味が反射的に距離を取る。
リューマは外側に立ったまま、目を細める。
ただ立っているだけで、場が沈む。
剣とも力とも違う圧。
武人の本能が静かに告げる。
(強い)
斬れる。
だが――今ではない。
これは俺の戦ではない。
男は倒れたモリアを一瞥する。
そして胸元の電伝虫を取る。
『状況を報告せよ』
「ゲッコー・モリア、敗北」
短く告げる。
沈黙。
『麦わらのルフィをその場で処分しろ』
通信が切れる。
くまは何も言わない。
ただ電伝虫を閉じる。
ゾロが前へ出る。
サンジが並ぶ。
ブルックが剣を抜く。
フランキーが腕を上げる。
ロビンが身構える。
ナミがルフィの前に立つ。
ウソップが震える手で武器を握る。
チョッパーが歯を食いしばる。
勝った直後。
それでも、誰も退かない。
くまの掌が、ゆっくりと持ち上がる。
その瞬間。
一歩。
リューマが前へ出た。
刃は抜かない。
ただ立つ。
空気が止まる。
くまの視線が、わずかに動く。
互いに測る。
沈黙。
次の瞬間。
ゾロが踏み出した。
「待て」
低い声。
リューマは、退く。
一歩、元の位置へ。
輪の外。
船長を守ろうとする輪。
無言の連帯。
言葉はない。
だが迷いもない。
(……信じている)
剣の強さとは違う。
背を預ける強さだ。
くまがゆっくりと手袋に指をかける。
外す。
掌に現れる肉球。
空気が歪む。
圧が、さらに重くなる。
夜が張り詰める。
戦いは、終わっていなかった。