三度目の侍   作:最強系妄想おじさん

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第五話「背負う者」

 

 

 

くまが、ゆっくりとルフィへ歩み寄る。

 

倒れた船長の前に立つ。

 

掌が持ち上がる。

 

その前に。

 

ゾロが、立ちはだかった。

 

足取りは重い。

 

血が滴る。

 

それでも退かない。

 

くまが視線を落とす。

 

「まだ立つか」

 

「当たり前だ」

 

ゾロは一歩前へ出る。

 

「船長に触るな」

 

くまは感情を見せない。

 

「指令だ。麦わらのルフィはここで消える」

 

夜が張り詰める。

 

ゾロの呼吸が荒くなる。

 

限界は近い。

 

それでも、言う。

 

「……あいつは海賊王になる男だ」

 

言葉が落ちる。

 

「こんな所で消える器じゃねェ」

 

くまは無言で見下ろす。

 

ゾロが続ける。

 

「代わりを出す」

 

「……ほう」

 

「世界一の大剣豪になる男の首だ」

 

血が滴る。

 

それでも、立つ。

 

「足りねェとは言わせねェ」

 

背後で足音。

 

サンジが立っていた。

 

ふらつきながら。

 

「……何、勝手に決めてやがる」

 

ゾロが振り返る。

 

「寝てろ」

 

短く言う。

 

だがサンジは退かない。

 

「てめェ一人で背負うな」

 

一歩、前へ出る。

 

次の瞬間。

 

衝撃。

 

サンジの視界が揺れた。

 

意識が落ちる。

 

そのまま地面に崩れた。

 

くまとゾロだけが向き合う。

 

夜が、静まる。

 

くまが、静かに口を開く。

 

「ここで麦わらのルフィに手を出せば、恥をかくのは俺だ」

 

低い声。

 

「……だが」

 

掌が、ルフィへ向けられる。

 

空間が歪む。

 

何かが、抜き取られる。

 

圧縮された塊。

 

ルフィが背負ってきた痛みと疲労。

 

それが掌の中に凝縮する。

 

「触れれば、お前は死ぬ」

 

「上等だ」

 

ゾロが手を伸ばす。

 

躊躇はない。

 

掌に触れた瞬間。

 

衝撃。

 

全身が軋む。

 

血が溢れる。

 

それでも。

 

倒れない。

 

歯を食いしばる。

 

立ったまま。

 

受け続ける。

 

沈黙。

 

やがて。

 

くまが掌を下ろす。

 

「……もう十分だ」

 

ルフィには触れない。

 

くまは振り返る。

 

その時。

 

わずかに視線が横へ動いた。

 

霧の向こう。

 

静かに立つ侍へ。

 

リューマと、目が合う。

 

ほんの一瞬。

 

無言の測量。

 

だが、何も言わない。

 

くまはそのまま背を向け、霧の中へ消えた。

 

ゾロは、立っていた。

 

血にまみれ。

 

呼吸も浅い。

 

だが、立ったまま動かない。

 

少し離れた場所で、リューマは動かなかった。

 

動けば止められた。

 

あの掌も。

 

あの塊も。

 

だが、動かなかった。

 

あれは、剣士の覚悟ではない。

 

船長を守ると決めた者の覚悟だった。

 

そこへ、他人が割って入る余地はない。

 

やがて。

 

サンジが目を覚ます。

 

体を起こす。

 

視界に入るのは、血に染まった地面。

 

そして。

 

ゾロ。

 

立ったまま、動かない。

 

サンジが息を呑む。

 

「……何があった」

 

ゾロは、少しだけ目を閉じる。

 

「……何もなかった」

 

サンジは黙る。

 

だが視線は外さない。

 

「……本当にか」

 

ゾロは、もう一度だけ言った。

 

「……何も、なかった」

 

それだけだった。

 

夜が、終わる。

 

 

 

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