三度目の侍 作:最強系妄想おじさん
くまが、ゆっくりとルフィへ歩み寄る。
倒れた船長の前に立つ。
掌が持ち上がる。
その前に。
ゾロが、立ちはだかった。
足取りは重い。
血が滴る。
それでも退かない。
くまが視線を落とす。
「まだ立つか」
「当たり前だ」
ゾロは一歩前へ出る。
「船長に触るな」
くまは感情を見せない。
「指令だ。麦わらのルフィはここで消える」
夜が張り詰める。
ゾロの呼吸が荒くなる。
限界は近い。
それでも、言う。
「……あいつは海賊王になる男だ」
言葉が落ちる。
「こんな所で消える器じゃねェ」
くまは無言で見下ろす。
ゾロが続ける。
「代わりを出す」
「……ほう」
「世界一の大剣豪になる男の首だ」
血が滴る。
それでも、立つ。
「足りねェとは言わせねェ」
背後で足音。
サンジが立っていた。
ふらつきながら。
「……何、勝手に決めてやがる」
ゾロが振り返る。
「寝てろ」
短く言う。
だがサンジは退かない。
「てめェ一人で背負うな」
一歩、前へ出る。
次の瞬間。
衝撃。
サンジの視界が揺れた。
意識が落ちる。
そのまま地面に崩れた。
くまとゾロだけが向き合う。
夜が、静まる。
くまが、静かに口を開く。
「ここで麦わらのルフィに手を出せば、恥をかくのは俺だ」
低い声。
「……だが」
掌が、ルフィへ向けられる。
空間が歪む。
何かが、抜き取られる。
圧縮された塊。
ルフィが背負ってきた痛みと疲労。
それが掌の中に凝縮する。
「触れれば、お前は死ぬ」
「上等だ」
ゾロが手を伸ばす。
躊躇はない。
掌に触れた瞬間。
衝撃。
全身が軋む。
血が溢れる。
それでも。
倒れない。
歯を食いしばる。
立ったまま。
受け続ける。
沈黙。
やがて。
くまが掌を下ろす。
「……もう十分だ」
ルフィには触れない。
くまは振り返る。
その時。
わずかに視線が横へ動いた。
霧の向こう。
静かに立つ侍へ。
リューマと、目が合う。
ほんの一瞬。
無言の測量。
だが、何も言わない。
くまはそのまま背を向け、霧の中へ消えた。
ゾロは、立っていた。
血にまみれ。
呼吸も浅い。
だが、立ったまま動かない。
少し離れた場所で、リューマは動かなかった。
動けば止められた。
あの掌も。
あの塊も。
だが、動かなかった。
あれは、剣士の覚悟ではない。
船長を守ると決めた者の覚悟だった。
そこへ、他人が割って入る余地はない。
やがて。
サンジが目を覚ます。
体を起こす。
視界に入るのは、血に染まった地面。
そして。
ゾロ。
立ったまま、動かない。
サンジが息を呑む。
「……何があった」
ゾロは、少しだけ目を閉じる。
「……何もなかった」
サンジは黙る。
だが視線は外さない。
「……本当にか」
ゾロは、もう一度だけ言った。
「……何も、なかった」
それだけだった。
夜が、終わる。