三度目の侍   作:最強系妄想おじさん

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第六話「夜明けと宴」

 

 

 

 

 

霧が晴れていく。

 

スリラーバークを覆っていた重たい空気が、朝の光に押し出されるように薄れていった。戦いの痕が残る広場に、ゆっくりと人が起き上がっていく。

 

ルフィが最初に体を起こす。ぐるりと腕を回し、肩を鳴らす。

 

「あれ?」

 

自分の体を見下ろす。

 

「なんか体めっちゃ軽い!」

 

ジャンプする。くるりと回る。

 

「すげェ動く!」

 

理由は考えない。考える前に、口が動く。

 

「宴だ!!」

 

ナミがため息をつく。

 

「……やっぱりね」

 

フランキーが笑う。

 

「スーパー同意だ!」

 

チョッパーが跳ねる。

 

「宴だぁ!!」

 

サンジが煙を吐く。

 

「……メシ作るか」

 

ロビンが微笑む。

 

「いいわね」

 

ゾロは何も言わない。ただ酒を口に運ぶ。いつも通りの顔で。

 

火が起きる。酒樽が運ばれ、料理が並び、声が広がる。ローラの海賊団がどっと流れ込む。

 

「助かったぞー!!」

「生きてるー!!」

「飲め飲めー!!」

 

酒が回り、肩を叩き合い、豪快に笑う。影を取り戻した海賊たちが泣きながら酒をあおる。

 

「太陽だ……!」

「やっと外に出られる……!」

 

焚き火がいくつも灯り、歌声が重なり、怒鳴り声と笑い声が入り混じる。

 

完全な“海賊の宴”だった。

 

ブルックが、少し離れた場所でバイオリンを構える。弓が弦に触れ、音が流れる。軽やかな曲に野太い歓声が上がる。

 

「もっと弾けー!」

「骨の兄ちゃん最高だー!」

 

ブルックは笑う。

 

「ヨホホ!お任せください!」

 

音が弾ける。宴の中心が、そこに生まれる。

 

リューマは輪の外に座っていた。

 

背を向けてはいない。だが、混ざりもしない。

 

酒の匂い。肉の匂い。火の熱。海賊たちの笑い。生きている者の声。

 

(……騒がしい)

 

だが、不思議と嫌ではない。

 

ブルックの音が、ふと変わる。ゆっくりとした旋律が、宴の喧騒の中へ静けさを差し込む。

 

笑っていた海賊の手が止まり、誰かが耳を傾ける。ほんの数秒。だが、確かに違う音。

 

リューマはその背を見ていた。

 

長い孤独を知る者の音。一人で鳴らし続けてきた音。

 

(……あの男も、選ぼうとしている)

 

言葉にはしない。だが、分かる。

 

曲が終わると、ブルックは明るく笑った。

 

「ヨホホ!次はもっと速い曲にしましょう!」

 

歓声が戻り、酒が回り、笑いが広がる。宴は続く。

 

リューマは杯を手に取り、酒を口に運ぶ。

 

人の匂い。火の熱。風。

 

胸の奥が、わずかに揺れる。

 

一度目は、歯車だった。二度目は、刃だった。ならば三度目は。

 

空を見上げる。朝の光。流れ始めている時代。

 

(時代の風に、身を任せるのも悪くない)

 

その言葉は、胸の奥に静かに沈んだ。

 

宴は続く。海賊たちが笑い、酒がぶつかり、火が揺れ、音が鳴る。

 

まだ、誰も知らない。

 

この宴の中で、もう一つの人生が、静かに動き始めていることを。

 

そして――少し離れた場所。

 

ゾロが、黙って刀を見ていた。

 

三本。だが、そのうち一本は折れていた。雪走。

 

視線は無意識にリューマの腰へ向く。

 

黒刀。

 

鞘に収まっているだけで分かる。重さ。気配。“斬ってきた刀”。

 

リューマは気づいている。視線。剣士の癖。

 

(……三刀流か)

 

足りない。一本、欠けている。

 

一度目の人生。剣を握れず終わった。

二度目の人生。剣と共に生き、剣と共に死んだ。

三度目の今。

 

この刀は、過去だ。守るために振るう者の手にある方がいい。

 

(……才もある)

 

リューマは何も言わない。ただ静かに、刀を置いた。

 

焚き火の届かない場所に。剣士なら気づく場所。それだけでいい。

 

しばらくして、ゾロが立ち上がる。ゆっくり歩き、刀の前で止まる。

 

触れない。ただ、見る。

 

重い。だが、嫌じゃない。

 

「……そうか」

 

小さく、呟く。それだけ。

 

刀を手に取る。

 

誰も見ていない。宴の音が続く中、一つの継承が、音もなく終わった。

 

リューマは振り向かない。酒を口に運ぶだけ。

 

(それでいい)

 

剣は、人を選ぶ。そして、剣士もまた――剣を選ぶ。

 

焚き火の向こうで、骨の音楽がまだ鳴っている。

 

軽やかで、陽気で、どこか寂しい音。

 

宴の喧騒に溶けながら、それでも確かに、誰かの胸を叩いている。

 

その夜。

 

選ぶのは、剣だけではなかった。

 

侍は杯を傾ける。

 

まだ誰も知らない。

 

この宴の中で、もう一つの選択が生まれようとしていることを。

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