元アイドルの赤ペン配信 作:ひまんちゅ
配信タイトルは、いつもと少しだけ違った。
【重大発表】今日は削る前に話す
コメント欄は、開始前からざわついている。
何?
ライブ?
来た?
ついに?
白い壁。
鏡。
マット。
いつもの配信部屋。
元トップアイドルは、いつものようにストレッチをしている。
隣には現役アイドル。
そして、カメラの外にプロデューサー。
「今日はね」
元アイドルが言う。
「一個だけ、試す」
コメント欄が止まる。
現役アイドルが小さく笑う。
「言い方軽い」
元アイドルは肩をすくめる。
「重くしたくないから」
少し間。
そして言う。
「配信ステージ、やってみる」
コメント欄が爆発する。
きた
ライブ
伝説
やばい
現役アイドルが付け加える。
「配信発ライブ」
プロデューサーが言う。
「小箱です」
元アイドルがすぐ言う。
「小箱」
「キャパ500」
「500?」
「それ以上は嫌だって言うので」
コメント欄が流れる。
絶対取れない
倍率やばい
500って
元アイドルは軽く笑う。
「取れなかったら配信で見て」
チケット発売結果。
倍率 260倍。
ニュースになる。
SNSが騒ぐ。
「配信ステージ、現地チケット争奪戦」
「異常倍率」
元アイドルはそれを見て、少しだけ顔をしかめる。
配信で言う。
「ちょっと怖い」
現役アイドルが横で笑う。
「今さら?」
「今さら」
「配信の人数の方が多いのに」
元アイドルは言う。
「配信は軽い」
少し間。
「現地は、重い」
ライブ当日
小箱ライブハウス。
キャパ500。
しかし空気は、アリーナのように張り詰めている。
元アイドルはステージ袖で深呼吸する。
「久しぶりすぎる」
現役アイドルが言う。
「顔、固い」
「バレる?」
「ちょっと」
元アイドルは笑う。
「やばい」
現役は軽く肩を叩く。
「大丈夫」
「なんで」
「あなた配信で踊ってる」
ライブ開始
音楽が流れる。
二人が出る。
歓声。
元アイドルの胸が、一瞬だけ詰まる。
照明。
観客。
視線。
昔の感覚。
ほんの少しだけ、動きが硬い。
現役アイドルはそれに気づく。
「(あ、固い)」
だから。
自分が少し前に出る。
表情を大きくする。
視線を集める。
元アイドルが少し呼吸を整える時間を作る。
観客は気づかない。
ただ、
「すごい」
「本物」
と呟いている。
ライブ前半
元アイドルはまだ少し固い。
それでも。
基礎が違う。
ターンの軸。
足の置き方。
視線の運び。
本調子でなくても、トップクラス。
観客は魅了されている。
ライブ中盤
MC。
元アイドルがマイクを持つ。
「ちょっと緊張してる」
観客が笑う。
「久しぶりすぎて」
客席から声。
「大丈夫!」
別の声。
「最高!」
元アイドルは少し驚く。
現役アイドルが隣で笑う。
「ほら」
「うん」
「配信と同じ」
ライブ後半
次の曲。
音楽が流れる。
観客の声援。
そして。
元アイドルの名前が聞こえる。
「○○!」
「○○!」
昔の名前。
昔の歓声。
でも。
重くない。
ただ。
熱い。
元アイドルは、横を見る。
現役アイドルが笑っている。
「行ける?」
元アイドルは、少し笑う。
「行ける」
スイッチ
次のターン。
軸が変わる。
目線が鋭くなる。
重心が落ちる。
現役アイドルが一瞬驚く。
「(入った)」
元トップのスイッチ。
観客が息を呑む。
ライブの空気が変わる。
コメント欄も爆発している。
やばい
覚醒
元トップ
二人の動きが完全に噛み合う。
ステージが完成する。
ライブ終了
歓声。
拍手。
元アイドルは、少し息を切らして笑う。
「……疲れた」
現役が笑う。
「知ってる」
配信反省会
配信タイトル。
【ライブ反省会】疲れた
元アイドルは床に座っている。
「楽しかった」
コメント欄が流れる。
最高
次いつ
伝説
元アイドルは肩を回す。
「でも」
少し笑う。
「しばらく配信でいいかな~」
現役が言う。
「また逃げる」
「逃げてない」
「逃げてる」
二人が笑う。
少し間。
元アイドルが言う。
「でもさ」
「うん?」
「次、もっと大きい箱でもいいかも」
コメント欄が爆発する。
現役アイドルが笑う。
「ほら」
「何」
「温度揃ってきた」
元トップアイドルは、少しだけ照れたように笑った。