元アイドルの赤ペン配信   作:ひまんちゅ

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赤ペンのステージ 後編

配信を見ている中には、プロデューサー志望の学生もいる。

 

振付師の卵もいる。

 

現役アイドルも、こっそり見ている。

 

なぜなら彼女は、

 

「感覚」を全部言語化するからだ。

 

「いま、ほんの0.2秒遅れてるのは、

重心が内側に入りすぎてるから。

だから次の一歩が小さくなる」

 

「声が硬いのは、顎が落ちてないからじゃなくて、

実は背中の緊張」

 

コメントが流れる。

 

 それどうやって気づくの

 解像度高すぎる

 神配信

 教科書にしてほしい

 

彼女は言う。

 

「これ、現役のとき言われたけど意味分からなかったやつ」

 

少し笑う。

 

「今なら分かる」

 

ある日。

 

現役トップアイドルのライブが話題になる。

 

彼女は同じ曲を、配信で踊る。

 

音響は劣る。

 

照明もない。

 

けれど。

 

静かな部屋で、

 

一人で踊る彼女のパフォーマンスは、

 

圧倒的だった。

 

コメントが荒れる。

 

 これ現役超えてる

 復帰してほしい

 戻ってきて

 ステージに立ってほしい

 

彼女は水を飲み、少し黙る。

 

「戻らないよ」

 

穏やかな声だった。

 

「戻ったら、また守るもの増えるでしょ」

 

少しだけ笑う。

 

「今は、壊れるまでやれるから」

 

コメントが止まる。

 

でも彼女は壊れない。

 

なぜなら。

 

今の彼女は、

 

“誰かの期待”じゃなくて、

 

“自分の赤ペン”と戦っているからだ。

 

 

 

配信終了間際。

 

彼女はカメラに近づく。

 

「今日もありがとう。

 

惰性でいいって言ったけど」

 

少しだけ、柔らかい目をする。

 

「惰性じゃないよね」

 

コメントが流れる。

 

 惰性なわけない

 人生

 生きがい

 教科書

 ずっと見てる

 

彼女は、少しだけ照れたように笑う。

 

「じゃあ明日も、赤入れるね」

 

配信が切れる。

 

部屋は静かになる。

 

彼女は鏡を見る。

 

自分の姿を、じっと見る。

 

そして小さく呟く。

 

「まだ、上がある」

 

その目は、

 

現役時代よりも、ずっと自由だった。

 

 

 

その日のレッスン配信は、いつもより静かだった。

 

「今日はターン強化ね」

 

彼女はそう言って、すぐに踊り始めた。

 

カメラの固定位置、いつもの白い壁。

 

音質は普通。

 

でも、回転の軸は、刃物のように鋭い。

 

ターンの直後、彼女は再生を止める。

 

「0:12、軸ズレ。

0:13、右足の置き直し遅い。

0:14、視線泳いでる」

 

赤ペンが入る。

 

コメント欄が流れる。

 

 いや今のどこがズレてるの

 プロ怖い

 神ターンなんだが

 ため息出た

 

その中に、一つだけ、異質なコメントがあった。

 

 0:13の足、踏み替え前に踵浮いてるから軸流れてるんじゃない?

 

彼女の手が止まる。

 

少しだけ、眉が上がる。

 

「……うん。そうだね」

 

再生を巻き戻す。

 

「踵が早い。だから軸が前に出る」

 

赤ペンが修正される。

 

「ナイス指摘」

 

コメント欄がざわつく。

 

 誰?

 玄人いる

 急に解像度上がった

 関係者?

 

名前は「pale_blue」。

 

登録したばかりのアカウントだった。

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