元アイドルの赤ペン配信   作:ひまんちゅ

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二人のアイドル

 

マイクが戻る。

 

「ごめん、ちょっと音トラブル」

 

元アイドルが自然に言う。

 

「最後、一緒にやる?」

 

コメント欄が揺れる。

 

カメラは引かない。

 

顔は映らない。

 

二人が並ぶ。

 

音楽が流れる。

 

同じ振り。

 

同じテンポ。

 

でも。

 

一人は“削る人”。

 

一人は“守る人”。

 

途中から、現役の動きが変わる。

 

守りが消える。

 

ターンが深くなる。

 

目線が鋭くなる。

 

ほんの一瞬、配信部屋がライブ会場を超える。

 

終わる。

 

息が荒い。

 

コメント欄が止まっている。

 

そして一気に流れる。

 

 伝説

 

 これは事件

 

 泣いてる

 

 録画永久保存

 

 今のやばい

 

 

 

配信終了後。

 

カメラは切れている。

 

現役アイドルは、静かに座る。

 

「怖くなかった?」

 

元アイドルが聞く。

 

「怖かった」

 

正直な声。

 

「でも、久しぶりに楽しかった」

 

少しだけ笑う。

 

「ステージより」

 

元アイドルは肩をすくめる。

 

「ここ、立場ないから」

 

現役は立ち上がる。

 

帽子を被り、マスクをつける。

 

ドアの前で、振り返る。

 

「次、いつ?」

 

元アイドルは笑う。

 

「赤ペン終わったら」

 

現役が言う。

 

「私も、赤入れる」

 

 

 

 

 

翌日のライブ。

 

センターの踊りが変わっている。

 

守りが消えている。

 

ほんのわずか。

 

でも確実に。

 

画面の向こうで、元アイドルは呟く。

 

「削ったね」

 

そして配信タイトルを打ち込む。

 

【赤ペン強化】今日は本気でやる

 

 

---

 

 

噂は、思ったより早く回った。

 

「顔出しなしの謎コラボ」

 

「元トップと現トップの共演疑惑」

 

「ターンの変化が一致」

 

切り抜き動画が拡散され、考察が増え、

 

ついにトレンド入りする。

 

彼女(元アイドル)は、いつも通りレッスン配信をしていた。

 

「0:05、まだ甘い」

 

そこへ、マネージャーからメッセージが入る。

 

事務所から連絡あり。話したいとのこと。

 

コメント欄は気づかない。

 

彼女は配信を続ける。

 

顔は平静だった。

 

 

 

数日後。

 

現役アイドルの事務所、会議室。

 

「正直に言って」

 

プロデューサーが腕を組む。

 

「あなた、出てるよね」

 

現役アイドルは、少しだけ目を伏せる。

 

「……はい」

 

沈黙。

 

「怒ってます?」

 

プロデューサーは首を振る。

 

「数字は伸びてる。

 

ファンの熱量も上がってる」

 

資料を机に置く。

 

「ただし」

 

間。

 

「勝手は困る」

 

現役は深呼吸する。

 

「正式に許可をください」

 

まっすぐな目。

 

「顔は出しません。

 

ブランドも使いません。

 

ただの“ダンス好きの一人”として出ます」

 

会議室は静かだった。

 

やがて。

 

「……条件付きで許可する」

 

 

 

 

 

その夜。

 

配信タイトルが更新される。

 

【公式許可】これからは堂々と来ます(顔出しなし)

 

コメント欄が爆発する。

 

彼女(元アイドル)は笑う。

 

「怒られなかった」

 

画面外の声。

 

「一応ね」

 

少しだけ誇らしそうだった。

 

「これからは“公然の匿名”」

 

コメントが流れる。

 

 公然の匿名って何

 

 最高

 

 時代変わった

 

 事務所理解ある

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