元アイドルの赤ペン配信 作:ひまんちゅ
最初は、ただの思いつきだった。
配信の延長。
「ここから始める」と言って、
二人で踊ったあの日。
それが――
思った以上に広がってしまった。
配信タイトル。
【配信ステージ #3】照明なし、歓声なし、でも本気
視聴者数は、すでに十万を超えている。
コメント欄は、まるで会場の歓声だった。
始まる
今日も神回
最前チャット待機
心臓もたない
部屋は変わらない。
白い壁。
鏡。
マット。
ただ、ライトが少し増えた。
そして、カメラが二台になった。
元トップアイドルが言う。
「今日は新曲振り」
隣で、現役アイドルが頷く。
音楽が流れる。
踊る。
配信部屋が、ステージになる。
歓声はない。
でもコメントが流れる。
うわ
やばい
本物
鳥肌
踊り終わる。
静寂。
コメントが一気に流れる。
これ配信のレベルじゃない
ライブ超えてる
配信革命
伝説
---
その日から、空気が変わった。
SNS。
切り抜き。
考察動画。
レビュー記事。
「配信発のステージ」
そんな言葉が出てくる。
ファンの要望が増える。
現地で見たい
小箱でもいい
一回だけでいい
生で見たい
元アイドルは笑う。
「配信でいいじゃん」
でも現役は言う。
「一回くらいやろう」
---
小さなライブハウス。
キャパ200。
配信で告知。
【配信ステージ特別回】小箱ライブ
チケット販売。
三分でサーバーが落ちた。
倍率、およそ120倍。
ニュースになる。
「配信ユニット、小箱ライブが異常倍率」
---
ライブ当日。
照明は最低限。
演出もほぼない。
元アイドルが言う。
「いつも通りでいい?」
現役が頷く。
「いつも通り」
音楽が流れる。
二人が踊る。
観客は、息を飲む。
歓声すら出ない。
ただ、圧倒される。
ライブ後。
SNSが爆発する。
レベル違う
小箱の動きじゃない
トップの戦い
伝説見た
---
配信。
反省会。
コメントが流れる。
やばかった
人生変わった
次いつ?
元アイドルは笑う。
「次?」
「気が向いたら」
現役が横で言う。
「またやる」
元アイドルが笑う。
「勝手に決めないで」
---
そしてある日。
現役アイドルが言う。
「今日、顔出す」
コメント欄が止まる。
え
嘘
本気?
カメラが切り替わる。
画面に、初めて現役アイドルの顔が映る。
配信は爆発する。
視聴者数が跳ね上がる。
元アイドルが笑う。
「覚悟決まったね」
「うん」
現役はカメラを見る。
「もう隠す意味ないかなって」
コメントが流れる。
ついに
神回
伝説
---
配信後。
現役は言う。
「そろそろさ」
「うん?」
「ちゃんと共演しない?」
元アイドルは首を傾げる。
「今してるじゃん」
「そうじゃなくて」
少し真剣な声。
「公式のステージ」
沈黙。
元アイドルは水を飲む。
「……まだいいかな」
正直な声だった。
「なんで?」
現役が聞く。
「今ちょうどいい」
元アイドルは言う。
「配信して
たまに小箱で踊って」
少し笑う。
「それくらいで」
現役は少し黙る。
そして言う。
「私は」
「うん?」
「まだ一緒に上行けると思う」
元アイドルは、少しだけ目を逸らす。
コメント欄は静かだった。
まだ。
二人の温度は、少し違う。
でも。
配信の熱量は、
まだ上がり続けていた。