もしも庵歌姫に加茂家の同級生がいたら 作:暇人
――【翌日/京都校】――
入学式の翌日。京都校では、初めての呪術授業が始まろうとしていた。
一番初めということもあり、この授業では基礎的な知識をメインに教わるようだ。
教室に入ってきた担当の教員は、年季の入った
「呪霊は人間の負の感情が淀んで生まれる。恐怖、後悔、憎しみ……そういうものの集積だ。そして呪霊を祓えるのは、呪力を扱える術師だけだ」
呪霊とは人から生まれる呪いそのものであり、呪術師という職業の存在理由でもある。理央と歌姫の表情が、わずかに引き締まる。
「次に、等級の話をしよう。呪霊も術師も、等級という指標で分類される。四級、三級、二級、一級。そして
呪術師と呪霊には、その呪力量や戦闘力に応じ、4級〜1級に加えて、さらに上に特級という区分けがなされている。
これらは理央はもちろん歌姫も知っているほど、基礎的な知識だ。
「さて、今現在…庵は3級術師。
そして加茂、お前は…一応高専所属になったから
一級術師。それは特級術師という斜め上の規格外の存在を除けば、呪術界において事実上の最高戦力として扱われる屈指の実力者たち。
その実力者たちに理央が名を連ねているという事実に、歌姫は目を丸くして理央へと顔を向ける。
「ち、ちょっと…!あんたもう一級なの!?」
「はい。高専に入る前から加茂家で鍛錬したり、任務をやっていたもので」
「……とんでもないドエリートね…」
その年齢で一級術師ほどの実力に上り詰めた術師は、1000年以上と言われる御三家の歴史でも僅かだろう。
歌姫は理央が加茂家の次期当主たる所以を垣間見た気がした。
「あまり騒ぐな。私が言いたいのは、いくら自身の等級が上でも死ぬ時は死ぬということだ。等級は重要な目安だが、同時に決して過信するな」
教員の言葉が教室に落ちると、歌姫は緊張を飲み込みながら真剣に言葉を聞く姿勢になる。
理央も同様に背筋を伸ばし話を聞く。
「庵、お前は2級呪霊相手にも確実には勝てん実力だ。
呪術師である以上リスクを負わなければならぬ場面は来るだろうが、その場面を見誤るな。
単独で2級呪霊や一級呪霊を相手取る選択は最終手段だ。いいな」
「はっ、はい、わかりました!」
「加茂、お前は既に実戦での経験が豊富な上に実力も申し分ない。だが、一級術師が任務で失踪、死亡することは十分
培った戦闘経験を己の強さの担保にはせず、相手との力量差を客観的に見定めるために使え。
経験は自信ではなく、あくまでも判断材料ということを忘れるな」
「了解しました。肝に銘じます」
その後は呪力や呪具の扱い、結界術の基礎知識について一通り学び時間は過ぎていった。
夕方、教員が最後の課題だけ告げて教室を出ると、残ったのは理央と歌姫だけ。静けさのせいか、教室をやけに広く感じられた。
「ふ〜、やっと終わったわね」
「お疲れ様でした。歌姫」
「理央もお疲れ様。今日はこのまま自室に帰ってもいいけど…理央はこの後どうする?」
「僕は校庭の広場で少し体を動かしてから帰ろうかと」
「そう…じゃあ私もついて行っていい?一日中座ってたから、体動かしたいし」
「ええ、構いませんよ。じゃあ行きましょうか」
二人は荷物を抱えて教室を出た。廊下には夕陽が斜めに差し込み、床を橙に染めていた。その光の中を、肩を並べて校庭へ向かった。
「にしても…あんた高専入学前から一級術師って、いくらなんでもおかしくない?どんな教育してるのよ加茂家は」
「そう言われても、別に特別なことはしてませんよ。鍛錬と任務を繰り返して、気付いたらなってました。それに年齢で言うなら、僕より
その返しがあまりに淡々としていて、歌姫は呆れたように息を吐く。
「少なくとも普通ではないでしょ…それ。
というか、昨日から思ってたんだけど……加茂家の次期当主で、一級術師の理央がなんでわざわざ高専に入学したの?そんなに強いなら、今更高専に通う必要なんて…」
「……それは、昨日も少し言いましたけど家の空気が合わなかったというか、まあ色々あったんです」
そう言う理央の顔は、少し苦しそうだった。歌姫としては、理央の入学経緯は気にはなるが、人が触れてほしくなさそうなところに、それ以上ズケズケと踏み込むほど不躾でもなかった。
2人は校庭に出て適当なところに荷物を下ろして、運動前のウォーミングアップを開始する。
ウォーミングアップを終えた歌姫が、ちらりと理央を見る。
「……ねえ理央。ちょっとだけ、相手してくれない?」
「相手…ですか?」
「気になるのよ。一級術師のあんたに今の私がどのくらい通用するのかってこと」
理央は一瞬迷う。一級術師で実戦経験の多い自身と恐らくまだ呪術師として日が浅い歌姫では結果は目に見えてる。
故に、模擬戦というよりは稽古のような感覚でやれば大丈夫かと頭を切り替えてから頷く。
「……分かりました。ただし、僕から殴ったり蹴ったりはしません。だから、歌姫の方から好きに来てください」
「ええ、わかったわ。……最初から全身全霊で行く」
2人は校庭の中心付近に向き合った。
理央は軽く腰を落とし、構えをとる。
歌姫も同様に構えを取り臨戦体制へと移る。
「じゃあ、いつでもどうぞ」
どうでもいいことなのですが、今回登場した京都高の先生は原作で既に死んでいるらしい、楽巌寺学長のバンドメンバー、というか同僚だったりするのかなとか妄想しながら書きました。