もしも庵歌姫に加茂家の同級生がいたら   作:暇人

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二十二話 : 姉妹校交流会-参-

冥冥のカラスに先導され、日下部は森の奥へと移動していた。

目的地は、団体戦の勝利条件である二級呪霊の潜伏ポイント。サクッと祓って、団体戦を終わらせる。日下部にとっては、それが最高のシナリオだった。

しかし、目的地が近づくにつれ、日下部の足取りは次第に重くなっていった。

 

(……妙だな)

 

日下部は立ち止まることなく、周囲を鋭く索敵する。

彼は一級術師に並ぶ実力を持ちながら、術式を持たない。その分、呪力の探知や物理的な危機察知能力は他の術師を凌駕している。

 

(この先に二級がいるって話だが……残穢が薄すぎる。いるのはせいぜい三級か四級の雑魚ばかりだ。冥冥の案内ミス? いや、あいつに限ってそんなことは……)

 

 

「――ッ!?」

 

思考より先に、生存本能が警鐘を鳴らす。

頭上、視界の外、鋭利な殺気が日下部に叩きつけられる。

日下部は反射的に、腰の刀を掴む。そして抜刀と同時に、真上に向けて刃を構えた。

 

「……は?」

 

日下部の目に映ったのは、樹上から急降下しながら小刀を振り下ろす加茂理央の姿だった。

 

――ギギギィィィィン!!

 

火花が散り、金属が高速で摩擦する不快な音が鳴り響く。

 

理央の持つ小刀は血液がチェーンソーのように高速で循環しており、凄まじい振動と殺傷力を生み出している。

「赤血操術」の近接技――『赤刃』だった。

日下部は刃を弾いて、理央から距離を取る。

 

「さっきぶりですね。日下部さん」

「……ッ、加茂……理央!? なんでお前がここに……あいつの報告じゃ、歌姫と固まって……ッ!」

 

驚愕に目を見開く日下部に対し、理央は口角をわずかに釣り上げ、三日月のような笑みを浮かべた。

 

「僕と歌姫が固まっていると、冥冥さんはそうおっしゃったんですね」

「……よかった。どうやら『賭け』には勝てたようです」

 

その落ち着き払った声色は、日下部が抱いている「想定外」の混乱を、理央自身はすべて「想定内」として織り込み済みであることを物語っていた。

 

「あぁ? 賭けだと……?」

 

日下部がいぶかしげに眉をひそめた瞬間――理央は開始直前の、京都校の作戦会議を回顧しながら話し始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

正午少し前。団体戦の作戦会議のために集まった京都校の陣営。

理央は上級生たちと歌姫を前に、敵陣営の分析を口にしていた。

 

「おそらく冥冥さんは、僕と歌姫が固まって行動すると読んでいる可能性が高いです。東京校目線で見た時、それが僕たちにとって一番勝率を上げられる手堅い陣形ですからね」

「だが、それを読まれているとなると……向こうは勝つためにお前たちを避けて呪霊を狩りにいく可能性が高い…か?」

 

上級生の問いに、理央は頷く。

 

「はい。結論から言えばその通りです。そして問題はそこにあります。実際に僕と歌姫が固まって動いた場合、冥冥さんが僕らを放っておいて呪霊狩りに専念するかといえば……、最終的にそう動かざるを得ないにしても、心情としては僕らを放っておきたくないはずです」

 

理央は昨年の交流会の結果を提示する。

 

「あの人は昨年、わざわざ京都校のメンバーを自分の手で全員倒しました。理由として『力の誇示』や『単に戦いが好き』という線も考えられますが、彼女はそういう感情で動くタイプの人間には見えませんでした。となれば、一番しっくり来る理由は『腕試し』、良く言えば『自己研鑽』です」

「自己研鑽………」

 

理央の言葉に、周囲の空気がピンと張り詰める。

 

「冥冥さんからすれば、この団体戦は術式を使ってさっさと呪霊を見つけて祓えば終わる単調な競争。冥冥さん目線でこの交流会を最大限『自身の利益が出るような立ち回り』にするなら、普段戦うことがない術師たちとの対人戦闘経験を積む場として使う。僕はそう考えます。

とは言っても、冥冥さん一人で僕たち二人を同時に相手にすると負け戦になるでしょうから、単騎で挑んでくるとも考え難い。だからこそ『実際の行動』としては戦いを避ける可能性が高いんです」

「ん〜でもさ理央、日下部さんも連れて、二人で私たちを相手にしに来るってこともあるんじゃないの?」

 

歌姫の疑問に、理央はやんわりと否定を示した。

 

「それがそうとも言えないんです。冥冥さんに『腕試し』をしたいという心情があっても、日下部さんはどうでしょう。あの人はできるだけ戦いを避けて、呪霊を祓ってサクッと終えられるなら終えたいタイプの人です。しかも戦う相手が一級の僕と詳細不明の歌姫とあらば、かなり渋ることは目に見えている」

「先程言った通り、冥冥さん一人で僕たち二人に勝てる可能性は低いですし、それは冥冥さん本人もわかっているでしょう。となれば……冥冥さんとしては『日下部さんが戦う気になってくれなければ、僕たち二人と同時に戦うという選択肢はとらない』可能性が大です」

「……」

「いや、そもそも冥冥さんは昨年の単独行動からして『自分一人で戦って勝つ』ことに固執している可能性もあります。もしそうなら、日下部さんの是非に関わらず、最初から日下部さんと共にタッグで戦いに来るという選択肢が冥冥さんの中に無い場合も考えられます」

 

理央はそこで言葉を区切り、導き出される事実を告げた。

 

「どの道、冥冥さんが僕ら二人との戦いを避けて呪霊討伐に向かったならば、索敵能力に天地の差がある以上、その時点で僕たちの負けは確定します。つまりは、僕と歌姫が固まるという作戦は、あまり良い策ではないと思うんです」

「……じゃあ、どうするんだ。固まってもダメなら、どうやって勝つ?」

 

息を呑む上級生たちに向けて、理央は自身が考える理想的な盤面を提示した。

 

「僕たちがこの団体戦で最も勝つ可能性が高い戦い方は――僕と歌姫が二手に分かれ、冥冥さんがこちらの動きを見て『誘い』に乗ってくれることです」

「誘い……?」

「ええ。僕たちが単独行動をとれば、冥冥さんは日下部さんを誘導して僕か歌姫のどちらか、おそらくは僕にぶつけ、自身はもう片方と戦う盤面を作るはずです。両方と個別に戦えるかもしれないという状況なら、たとえ団体戦で負けるリスクが増えても、冥冥さんは誘いに乗ってくれると思います」

***

 

 

 

 

 

 

 

 

「……とまあ、こんな感じで冥冥さんの心理を考えたんですよ。あなたが僕のところへやって来たということは、冥冥さんは僕たちの誘いに応じてくれたというわけです。日下部さん」

 

理央はまるで世間話でも終えたかのような穏やかな声で、そう締めくくった。

その言葉を聞いた日下部は、空いている片手で顔を押さえて、深く呻き声を上げた。

 

「あー……ッ! クソッ、あの守銭奴野郎……!!なんつーことをしでかしてんだ!!」

 

自分が冥冥の盤面上の駒として扱われ、最も避けたかった「一級術師との面倒な戦闘」に放り込まれた事実。日下部は顔をしかめ、その理不尽さに悶絶した。

 

だが――。

散々悪態をついた後、日下部の目に宿ったイラつきが、スッと冷たく鋭いものへと変わる。

 

(いや、いやいやいや……ちょっと待て)

 

日下部の卓越した状況把握能力が、目の前の理央の行動に対する強烈な違和感を警告していた。

彼ほどの術師が、戦闘中にベラベラと自らの手の内を明かす。それも、相手に状況を整理させるような隙を与えてまで。

 

「おい……理央。お前、まだ肝心なことを言ってねえぞ」

「おや、何のことでしょう?」

「とぼけんな。俺がお前だったら、この状況ですべきことは真っ先に俺を倒して、迷惑守銭奴の相手してる歌姫の加勢に向かうことだろ。あいつ相手に、二級の歌姫一人じゃどう考えても分が悪い」

 

日下部は刀の切っ先を理央に向けたまま、ジリッと一歩だけ足を踏み出す。

 

「なのになんでお前は、わざわざ俺に手の内を明かして、こんな時間稼ぎみたいな真似を……」

 

そこまで口にして、日下部の脳裏に一つの決定的な仮説が閃いた。

彼は目を見開き、信じられないものを見るような目で理央を見つめる。

 

「……いや待て。まさかお前、本気で俺への時間稼ぎが目的なのか?」

 

日下部の鋭い問いかけに対し、理央は動揺する様子もなく、むしろ感心したように目を見開く。

 

「さすが日下部さんですね。この短時間で、そこまで考え至るなんて」

 

賞賛の言葉を口にする理央に、日下部は険しい顔のまま推測を重ねていく。

 

「お前はさっき、俺たち二人を呪霊狩りから引き離す方法は語ったが……肝心の『どう俺たち東京校に勝つか』には一切触れちゃいない。そしてその口ぶりから察するに、お前と歌姫の役割は俺たち二人の足止め。二級呪霊を倒すのは、他の上級生たち任せってことか?」

「何から何までその通りですよ、日下部さん」

 

理央はあっさりと肯定してみせた。

 

「最初の不意打ちであなたを仕留め損ねた以上、このままリスクを冒してまで倒しに行くのは得策ではありません。僕がここであなたに負ければ、それこそ作戦は瓦解し、一巻の終わりですからね」

 

冥冥の心理を読んで博打に出る大胆さと、妙なところで発する堅実性に、日下部は半ば呆れたように深いため息をついた。

 

「……理央。お前たちの作戦は分かったが、流石にそれは冥冥を舐めすぎだ。本気で冥冥の足止めが、あの歌姫に務まると思ってんなら……見込みが甘すぎるぞ」

 

詳細が割れていないとはいえ、歌姫は二級術師。準一級術師である冥冥を一人で足止めするなど、日下部からすれば到底不可能なことだった。

 

しかし、その忠告を聞いた理央は、クスクスと肩を揺らして笑い出した。

 

「ふふっ……見込みが甘いという言葉、そっくりそのまま返させてもらいますよ。日下部さん」

 

 

 

「歌姫は強いですよ。……お二方が思っている以上に」

「なに………?」

 

理央は言葉を言い終わると同時に動いた。

空いている手に血液を圧縮させ、手裏剣のような円盤状の刃を形成すると、困惑する日下部に向けて鋭く腕を振るう。

 

赤血操術――「『苅祓』」

「……ッ!」

 

ヒュンッ! と風を裂いて飛来する血の刃。

日下部は、超人的な反射で刀を振り上げてそれを弾き飛ばした。逸らされ木々に当たった苅祓が、パパァンッと弾けて周囲の幹を抉る。

 

「……おいおい。お前の目的は時間稼ぎだろうが。

俺だってお前とは戦いたくねぇんだから、適当にここで駄弁ってればお互い丸く収まるだろ」

 

日下部は刀を中段に構えたまま、心底面倒くさそうにボヤく。

しかし理央は、その言葉を聞いても攻撃の手を緩めず、今度は手にした『赤刃』を構えて一気に距離を詰めた。

 

「それはそうなんですが……。日下部さんって僕と距離をとりたがってる節があるじゃないですか。急に逃げられても困りますし、僕としては確実にあなたをここに留めておきたいんですよ!」

「いや別に逃げねぇよ……ったくめんどくせぇなぁ……!」

 

森の中に、再び激しい金属音が連続して響き渡った。

理央は隙あらば遠慮なく小刀を差し込もうとするが、日下部はそれを全て刀の腹や鍔で正確に受け流し、いなしていく。

お互いに殺意はないが、極めて高度な技術の応酬だった。

 

そして隙をついて理央の懐へと潜り込んだ日下部は、流麗な動作で下段から刀を斬り上げた。

 

「ッ!」

 

理央は即座に『赤刃』を盾のように構え、下段からの一撃を受け止める。

 

ギガァァァンッ!と、高速回転する血液の刃と呪力が込められた刃が激突し、激しい火花が散った。

その衝撃に理央の腕がビリッと痺れる。しかし理央はただ防ぐだけでなく、日下部の刀が弾かれたその瞬間、踏みとどまった足で逆に前へ出ると、赤刃を裏返して日下部の喉元へと鋭い突きを放つ。

 

「よっと」

 

だが、日下部は首だけを逸らして躱すと、柄を握る手首を返し、そのまま刀の峰で理央の小刀を弾き落とそうと上から叩きつけた。

理央は間一髪で赤刃を引き戻し、後ろへ大きく飛び退いて距離を取る。

 

(……分かってはいたけど、やっぱり日下部さんの強さは半端じゃないな!)

 

理央は内心で舌を巻いていた。

日下部には生得術式がない。しかし、それを補って余りある洗練された『呪力操作』と『身体能力』、そして新陰流の剣術がある。術式なしで一級レベルの強さに到達するという、強力な術式を持って生まれるよりも遥かに稀有で、恐るべき才能。

純粋な近接戦闘における能力は、明確に理央を上回っていた。

 

(それに……相性もあまり良くない)

 

理央が扱う『赤血操術』は、術式の性質上、呪力だけでなく術者自身の血液を消費する戦闘スタイル。

貧血という明確なタイムリミットがある以上、呪力強化のみで延々と戦い続けられる日下部相手には、大技で短時間のうちに畳み掛ける戦法が有効となる。

 

しかし、今の理央の目的は日下部を倒すことではなく、あくまで時間稼ぎ――もっと言えば、ただの時間潰しだ。

日下部にしても、理央から明確な殺気がなく足止めが目的であると理解しているため、半ば模擬戦気分でこの手合わせに付き合ってくれている。お互いに相手を無力化したり、殺そうなどとは微塵も考えていないのだ。

 

だからこそ、下手に『穿血』などの血液を大量に消費する殺傷力の高い大技を使う必要はない。万が一、日下部に致命傷を与えかねないリスクは避けるべきだし、大技の連発は理央自身の活動限界を早め、足止めという本来の目的すら危うくしてしまう。

故に理央は、消費を最小限に抑えた近接特化の『赤刃』と基礎的な体術のみで、この格上の剣士を相手に立ち回らなければならない。

 

互いに本気ではない、致命傷を避けた手加減前提のじゃれ合い。

しかし、純粋な近接技術のみで一級レベルの達人の剣をいなし続けるという状況は、理央の闘争心を心地よく刺激していた。

 

「……ふふっ」

 

だからこそ。

理央の口からは、不意に楽しげな笑みがこぼれ落ちていた。

 

「おいおい。何がおかしいんだよ」

 

日下部が胡乱な目を向けるが、理央は『赤刃』を構え直し、楽しそうに口を開く。

 

「いえ……。こういう風に日下部さんのような達人と戦えるこの状況。なんて貴重な機会だろうと思いまして」

「……」

 

日下部は、目の前の理央に対して若干引き攣った顔をしてしまう。

 

「なんつーか……お前ってそういうタイプのやつだったんだな……」

 

呆れ果てた日下部のぼやきを掻き消すように、理央は再び地を蹴った。

二つの刃が交錯する鋭い金属音が、絶え間なく響き続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

理央の策にハマり、渋々ながらも刃を交える日下部。そんな彼の受難をカラスを通して観察する人物が一人いた。

 

(フフ……すまないね、日下部)

 

同時刻、冥冥は優雅な足取りで木漏れ日の差す森の中を歩んでいる。

二人の衝突を見届けながら、彼女は口元を緩めた。

先刻、カラスを通じて彼女が実際に見ていた光景。それは東京校のメンバーに伝えた内容とは全くの別物だった。

カラスを用いた上空からの俯瞰視界に映っていたのは、理央と歌姫が背を向け合い、それぞれ正反対の方向へと単独で散っていく姿。

 

そして二人は、呪霊を探して森を歩き回るわけでもなく、特定のポイントでぴたりと足を止めて待ち構えていた。

 

【(人海戦術による呪霊探しじゃない。フフフ……なるほど。意図的に戦力を分散させて私たち、いや、私を誘い込んでいるのか)】

 

 

冥冥は、カラスから伝わるその鮮明な映像を思い返し、悦に浸るように目を細めた。

日下部は言っていた。『あいつらが別行動なら好きな方を相手にしろ、ただし俺は面倒な相手とは戦わない』と。

 

(……悪いけど日下部。この状況でお利口に我慢できるほど、私は無欲じゃないんだよ)

 

先輩への信頼という名の丸投げをした冥冥は、カラスを通して二人が刃を交える様子を満足気に見ていた。

彼女は二級呪霊への案内役という嘘の役割をカラスに演じさせ、日下部をあえて理央の元へと放り込んだのだ。

 

(日下部は、加茂くん相手に本気で勝ちに行くほど真面目じゃない。そして私たちの足止めが狙いという加茂くんもそれは同じこと。あの二人なら、私が歌姫との戦いを終えるまで上手く互いをいなし合ってくれるだろう)

 

(唯一の懸念材料は、他の生徒たちが二級呪霊を見つけてあっさりとゲームを終わらせてしまうことだが……それも問題ない。東京校のメンバーには元々雑魚狩りを命じてあるし、カラスを使って二級の気配から遠ざかるよう誘導すればいいからね)

 

(そして、京都校の面々についてだが……。あの加茂くんが何の策もなく、ただ上級生たちに呪霊狩りを丸投げするとは考えにくい。その点は少々不気味ではあるが、カラスの目を持たない彼らが広大な森から2級呪霊を探し出すには……よほど運が良くない限り、相当な時間を要するはず)

 

一級術師の加茂くんと、未知数の歌姫。

彼らとの戦いで何が得られるのか、今この瞬間に戦って確かめたい。

年に一度しかない今、この場で。

 

「さて、私の方も時間切れにならないうちに、彼女の元へ行くとしよう」

 

冥冥は大斧を肩に担ぎ直し、軽やかな足取りで、もう一人の標的――歌姫が待つ方角へと歩みを進める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歌姫は、静まり返った森の中で一人、深く息を吐き出して高鳴る心臓を落ち着かせていた。

 

(……落ち着け私。大丈夫、やれる)

 

これから自分が対峙する相手は、自身の憧れであり、命を救ってくれた恩人だ。

一年前、呪霊の前に為す術もなく座り込むことしかできなかった歌姫にとって、あの時の冥冥の背中はあまりにも遠く、高すぎる壁だった。

 

今ならその背中に手が届くのかと問われれば、答えは否だ。

けれど。

 

(あの時と同じ私じゃない……それだけは、断言できる)

 

冥冥に命を助けられてから一年。自分なりに必死に努力し、死線も潜り抜けてきた。

戦う覚悟はできている。

 

ザクッ、と。

落ち葉を踏みしめる音が響き、木々の奥から一人の術師が姿を現した。

 

歌姫が目を開けて顔を上げると、そこには巨大な大斧を肩に担いだ冥冥が威風堂々と歩み寄ってくるのが見えた。

冥冥は、逃げも隠れもせずにいる歌姫を見て、面白そうに目を細める。

 

「随分堂々と立っているんだね。私としては、不意打ちの一つや二つは想定していたんだが」

「……不意打ちしてもうまくいくイメージが全く湧きませんでしたし。それに、戦う前に少し、お話ししたかったんです」

「話? 」

 

歌姫は背筋を伸ばし、深く頭を下げた。

 

「……改めて、あの時は助けてくれてありがとうございました。……冥さんは私の憧れです。今でも、私よりずっと強い術師だと思ってます……だけど!」

「その上で言います。この勝負、絶対に負けません!」

 

力強く、清々しいまでの宣戦布告。

それを聞いた冥冥は、ふっと肩を揺らし、やがて声を上げて笑い始めた。

 

「クックッ……アハハッ」

「……っ、何かおかしいですか?」

 

むくれる歌姫に対し、冥冥はひとしきり笑った後、口元に弧を描いたまま告げた。

 

「いやね、改めて面白いと思ったんだ。一年前、私の後ろでただ震えているだけでしかなかった君が……わずか半年余りで特級呪霊を相手に立ち回れるほどの実力を身につけ、今、こうして私の目の前に敵として立っている」

 

冥冥の瞳の奥には、自身の成長を渇望する貪欲な光が灯されていた。

 

「未知の術式、そして未知の成長を遂げた術師との戦い。……これは、どんなに金を積んでも得難い、稀少な『経験』だ」

 

冥冥は常人ならば引きずるだけでも困難な大斧を、まるで羽毛か何かのように、滑らかな取り回しで前方へと構える。

 

「君を救ったあの一日の対価を、まさかこんな形で受け取れるとはね。……この半年で君が積み上げてきたものの正体、じっくりと確かめさせてもらうよ」

 

冥冥から放たれた圧倒的なプレッシャーが、対峙する歌姫にのしかかる。

 

「さあ、始めようか?」

 

歌姫は一歩も引かなかった。

恩人への感謝も、格上への畏怖も全て呑み込み、歌姫もまた、自身の呪力を練り上げて深く構えた。

 

「――はい、冥さん」

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