TS爆乳暴食悪徳サイコシスターの勘違い救国記   作:ちんぽ良い肉

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スラムの聖女(スラム民の反応視点)

 この街は、根っこから完全に腐りきって、終わっている。

 

 迷宮都市キャッスルの外れ、高い防壁の影に押し込められたこの吹き溜まり。太陽の光すらまともに届かず、年中ヘドロと腐敗臭が立ち込めるこの場所で、俺たちスラムの住人はただ泥をすすり、這いつくばって息をしているだけだ。

 

 俺たちは『穢民(えみん)』と呼ばれている。カーストの最底辺。人間であって人間ではない、家畜以下の汚物。

 なぜ俺たちがこんなにも理不尽に虐げられ、飢えに苦しんでいるのか。この街を支配する大教会の教えは、あまりにも残酷で狂っていた。

 

『現世での身分は、前世での行いの結果である』

 

 それが、奴らの絶対的な教義だ。

 今、権力を持ち、富を蓄え、強者として君臨している者たちは、前世で素晴らしい善行を積んだ尊い魂なのだという。逆に、俺たちのようにスラムで飢え、病に苦しみ、無力な弱者として生まれた者たちは、前世で大罪を犯した汚らわしい罪人の魂なのだと。

 

 だから、俺たちが苦しむのは『当然の罰』であり、俺たちを迫害することは『正当な権利』なのだと、この狂った街の連中は本気で信じ込んでいる。

 

 俺たちには、暴力への対抗策など何一つない。

 裏社会のゴロツキどもは、俺たちがゴミ山から必死で拾い集めたわずかな日銭や食い物を、虫を潰すような顔で奪っていく。逆らえばその場で泥に沈められて殺されるだけだ。

 

 悪徳商会の連中にとっては、俺たちはタダで仕入れられる『素材』でしかない。夜になれば黒塗りの馬車が音もなくスラムに現れ、怪しげな新薬や、禁忌の魔術の人体実験の材料として、親のいない子供や弱った老人から順番に拉致されていく。二度と帰ってきた者はいない。

 

 だが、何よりも恐ろしく、おぞましいのは『大教会』の連中だ。

 

 純白の法衣に身を包んだ神官や異端審問官どもは、定期的にスラムへやってきては『魔女狩り』と称した因縁をつけてくる。

 

「前世の罪が色濃く出ている」「悪魔と交信した」などと適当な理由をでっち上げ、少しでも見栄えのいい若い女たちを悲鳴ごと引きずって連れ去っていく。教会の奥深くで彼女たちがどんな慰み者にされているか、想像するだけで反吐が出る。

 

 そして、それに抗議しようとした父親や恋人の男たちは、「神に逆らう異端者だ」と広場の真ん中で見せしめとして生きたまま燃やされるのだ。肉が焦げる臭いと断末魔の叫びを、神官どもは薄ら笑いを浮かべて眺めている。

 

 現世では、何一つ救われない。ただ奪われ、犯され、燃やされるだけの地獄。

 だからせめて、俺たちは『来世』にすがりたかった。今世でどんなに理不尽な苦痛を味わおうとも、大人しく罰を受け入れれば、来世では少しはまともな人間に生まれ変われるのではないかと。

 

 しかし、大教会はそれすらも許さなかった。

「罪深き穢民が来世で救済されるには、教会への多額の『贖罪金』と、死ぬほど難解で複雑な『宗教作法』の修得が必要である」

 

 文字すら読めず、明日のパンの耳すら買えない俺たちに、そんな金も教養もあるはずがない。それを知っていて、奴らはわざわざスラムにやってきては俺たちを嘲笑うのだ。

 

「お前らのような無知で貧しいゴミどもは、魂を浄化することすらできない! 安心しろ、お前らは来世でもまた、這いずり回る蛆虫として生まれてくるのだ!」

 

 その絶望の宣告に耐えきれず、何人もの隣人が首を括った。

 薄暗い路地裏で、ボロボロの縄を首に巻きつけて宙吊りになった仲間の死体。それを見つけた大教会の神官どもは、腹を抱えて爆笑していた。「罪から逃げ出した臆病者め、これで来世は石ころ以下だな!」と、死体を足蹴にしながらゲラゲラと笑い転げていた。

 

 外部の人間たちも同じだ。

 街の住人や商人どもが偶然スラムの近くを通る時、奴らは一様に鼻をつまみ、俺たちを『汚物』を見るような目で睨みつける。

 

「近寄るな、前世の穢れが伝染るぞ」

 

 そう言って、絶対に俺たちに触れようとはしない。道端で倒れている病気のガキがいても、石を投げて追い払うだけだ。

 

 時折、暇を持て余した若い成金や街の不良どもが、面白半分でスラムに冷やかしにくることがある。奴らは俺たちが泥水で洗って並べた売り物──カビたパンや、捕まえたネズミの肉なんかを、笑いながら蹴り飛ばし、あるいはゲーム感覚で奪っていく。

 

 当然、金など払いもしない。たまに「恵んでやるよ」と硬貨を投げつけてくることもあるが、泥にまみれながらそれにすがりつき、拾い上げてみれば……それは、表面に薄っぺらい金メッキを塗っただけの、ただの子供のおもちゃの木札なのだ。

 

「ギャハハハ! 見ろよあの穢民ども、おもちゃの金貨に群がってやんの! 豚の餌やりの方がマシだな!」

 

 嘲笑の嵐。俺たちは握りしめた木札の感触に絶望しながら、それでも怒ることもできず、ただ地面に額を擦り付けて「ありがとうございます」と平伏するしかない。

 

 ここは地獄だ。

 神に見放され、人間から人間としての扱いを剥奪された、光の届かない掃き溜め。

 

 俺たちはただ、次に誰が実験体にされ、誰が燃やされ、誰が飢え死にするのかを怯えながら待つだけの、ただの肉の塊だった。

 

 ──そう、あの『聖女様』が、この吹き溜まりに現れるその時までは。

 

 ■■■■

 

「あ……あ、あの人、行っちまった……」

 

 嵐が過ぎ去った後のような、異様な静寂に包まれたスラムの広場。

 誰かがポツリと漏らしたその一言で、硬直していたスラムの住人たちはハッと我に返った。そして、次々と絶望の声を上げ始めた。

 

「おい、どうすんだよ! あの血まみれのねーちゃん、スラム中の飯を全部平らげていきやがったぞ!」

「あの中には、俺が三日徹夜してゴミ山から掘り出したカビパンもあったんだぞ……!」

「俺のネズミの丸焼きもだ! あのデカい緑の芋虫だって、捕まえるのにどれだけ苦労したと思ってんだ! 俺たち、明日から何を食って生きていけばいいんだよ……ッ!」

 

 無理もない。ただでさえ常に餓死と隣り合わせの生活を送っている俺たちにとって、さっきあの女に差し出したゲテモノ料理の数々は、文字通り『命を繋ぐための全財産』だったのだ。

 

 あの女の放つ、背筋が凍るような異常なまでの覇気と、底知れぬ暴力の気配に圧倒されて、俺たちは持っている食料をすべて差し出してしまった。

 

 飯がない。完全に食い尽くされた。明日には、いや明後日には、俺たちの何人かは確実に飢え死にするだろう。

 

「……あ、あの……おじちゃん、これ……」

 

 絶望に打ちひしがれ、地面にへたり込む大人たちの中で、泥だらけの小さな手が差し出された。

 

 さっき、あの女に芋虫の丸焼きを差し出して、巨大な胸に顔を埋められていたガキだ。その小さな手のひらには、女が頭の上にポンと乗せていった『ピカピカと光る硬貨』が数枚、握られていた。屋台の親父の台の上にも、同じものが転がっている。

 

「なんだ坊主、そんなもん……どうせまた、大通りの連中が俺たちをからかうために投げてくる、ただの金メッキのおもちゃ……」

 

 屋台の親父が、自暴自棄な声で硬貨を手に取った。

 俺たちは『穢民』だ。底辺のゴミだ。外部の人間から、まともに金なんて払ってもらえた試しがない。

 

 だから、あの女がジャラジャラと袋を鳴らして「金をやる」と言った時も、誰も本気になんてしていなかった。どうせいつもの悪辣な嫌がらせで、後で絶望させるための偽物だろうと、完全に思考から外れていたのだ。

 

 だが。

 屋台の親父は、その硬貨を乱暴に歯で噛みしめ──次の瞬間、目玉が飛び出んばかりに見開いた。

 

「……は、歯型が……ついたぞ……?」

「え……?」

「おい嘘だろ!? ちょっと貸してみろ!!」

 

 周囲の大人たちが血相を変えて硬貨に群がる。泥水で洗い、布で磨き、何度も何度も光にかざす。

 

 メッキじゃない。剥がれない。ずっしりとした、確かな重み。

 

「ほ、本物だ……! 正真正銘、混じりっけなしの純金だあああ!!」

 

 誰かの絶叫が、スラムに響き渡った。

 

「マジかよ!? 俺、生きてて本物の金貨なんて初めて見たぞ!?」

「さ、さっき俺たちが差し出したゴミみたいな食い物の……ざっと百倍以上の金額だぞこれ!!」

 

 騒然となる広場。だが、俺たちの驚きは『金』そのものだけではなかった。

 一人の老人が、震える手で金貨を握りしめながら、ボロボロと涙を流して呟いた。

 

「あの御方……血塗れではあったが、着ておられた服の生地は、間違いなく上等な商会の物だった。それほどの身分のお方が……」

「……あ、ああ。俺たちの出した飯を、顔をしかめるどころか、満面の笑みで『うめえ!』って嬉々として食ってくれた……」

 

 この狂った街の常識だ。身分の違う者と同じ釜の飯を食うことは、絶対にあり得ない。前世の穢れが伝染ると言って、同じ店で飯を食うことすら忌み嫌うのだ。

 

『同じ飯を食う』。それはつまり、自分と『同格の【人間】』であると認めたという、何よりの証拠だった。

 

「それに、あのガキを……! 躊躇うことなく抱きしめたんだぞ!?」

 

 皆の視線が、ポカンとしている泥だらけのガキに集まる。

 

 そのガキは、スラムの中でも特に忌避されている『黒死の病』というヤバめの奇病に感染していた。接触感染するというのは大教会の流したただの迷信なのだが、奴らたちはそれを信じ込み、ガキをゴミのように遠ざけていたのだ。

 

 汚くて、病気で、最底辺の身分。

 

 そんなガキを、あの女は「ありがとね!」と心の底からの笑顔で抱きしめたのだ。外の人間のような、汚い物を見る軽蔑の目など、微塵もなかった。差別思想等欠片もない、俺たちを対等に見てくれてるお方! 

 

「あ、ああ……ああっ……!」

「俺たちを……化け物でも、ゴミでもなく……ただの『人間』として扱ってくれた……! 何年ぶりだ……人間として、まともな対価を払ってもらえたのは……!」

 

 ボロボロと、大の大人が泥まみれの地面に膝をついて泣き崩れた。

 

 金をもらえたからじゃない。失われていた人間の尊厳を、あの暴風のような女が、無意識の内に取り戻してくれたのだ。

 

「……泣いてる場合じゃねえッ!!」

 

 屋台の親父が、涙を乱暴に拭いながら立ち上がった。その手には、燦然と輝く金貨が握られている。

 

「金だ! 本物の金があるんだぞ! これだけあれば、まともな飯が食える!!」

 

「そうだ! ボルマンのところへ行け!! 大通りにある『クロック商会』だ! あそこは少し割高だが、金さえちゃんと払えば、俺たちみたいな穢民相手でも一切の差別なく、誠実な商売をしてくれるって有名な商人だ!」

 

「急げ! 男どもは全員ついてこい! 絶対に金貨を奪われるなよ!!」

 

 怒号のような歓声とともに、スラムの男たちが一斉に大通りへと駆け出していった。

 

 残された女や子供たちは、祈るように手を組んで彼らの帰りを待った。奇跡が、夢が、幻で終わらないことを信じて。

 

 ──そして、数時間後。

 

「買えたぞおおおおおおお!!」

 

 スラムの入り口に、荷車を引いた男たちが満面の笑みで帰ってきた。

 その荷車に積まれているのは、石のように硬いカビパンではない。ふかふかの、焼きたての匂いがする大量の白パンだ。

 腐りかけのネズミではない。綺麗に血抜きされ、塩漬けにされた、本物の大きな豚肉と羊肉の塊だ。

 新鮮な野菜、澄んだ水、そして──。

 

「薬だ! 坊主の病気を治す、本物の教会の特効薬だ! ボルマンの旦那が、俺たちの金貨を見て即座に手配してくれたんだ!!」

「ほ、本当か……!? これでもう、死ななくていいのか……!?」

 

 薬瓶を受け取ったガキの母親が、地面に突っ伏して号泣した。

 スラム中が、信じられないほどの歓喜と熱狂に包まれた。誰もが涙を流し、パンをちぎり合い、肉の匂いを嗅いで狂ったように笑い合っている。

 

「宴だ! 今日は俺たちの、新しく生まれ変わった記念日だ!!」

「肉を焼け! 火を起こせ! 全部、あの御方が俺たちに与えてくださった奇跡だ!!」

 

 誰の口からともなく、歓喜のコールが巻き起こった。

 

「聖女様……!」

「ああ、我らが慈愛の聖女様!!」

「俺たちを人間として扱い、飢えと病から救ってくださった、真の聖女様万歳!!」

 

 それは、スラムという名の地獄に灯った、小さな、けれど決して消えることのない狂信の火種。

 

 たった一回の買い食いで巻き起こしたとは到底信じられない、巨大な宴の瞬間だった。

 

「美味い……! なんだこれ、涙で前が見えねえ……ッ!」

 

 パチパチと爆ぜる焚き火の音と、香ばしく焼け焦げる獣肉の匂い。

 

 太陽すら見放したこの薄暗いスラム街の広場が、今夜はまるで夢のような光景に包まれていた。

 

 ボルマン……いや、ボルマン殿の『クロック商会』から買い付けてきた、新鮮な豚や羊の肉。ふかふかの白いパン。そして、澄み切った綺麗な水。それらを囲んで、俺たちスラムの住人は皆、ボロボロと大粒の涙を流しながら笑い合っていた。

 

「おい見ろよ! 坊主が、坊主が歩いてるぞ!!」

 

 誰かの叫び声に振り返ると、広場の中心で、あの泥だらけだったガキが満面の笑みで飛び跳ねていた。

 

 大教会の連中が「穢れの証だ」と嘲笑い、誰もが治らないと諦めていた黒死の病。だが、金貨を握りしめて駆け込んだボルマンの旦那は、教会のぼったくりルートなんかじゃなく、外部の真っ当な『企業』から独自の流通ルートで仕入れたという本物の特効薬を、俺たちに売ってくれたのだ。誠心誠意、愛情を込めて。

 

 薬を飲ませて数時間。ガキの身体を覆っていた不気味な痣は嘘のように引き、死にかけていたのが嘘みたいに血色が戻っている。

 

「お母ちゃん! 俺、もう痛くないよ! お腹もいっぱいだ! あのえっちなお姉ちゃんが、俺を助けてくれたんだ!!」

 

 ガキが大はしゃぎで母親に抱きつき、母親は声を上げて泣き崩れている。俺たちを縛り付けていた呪いのような絶望が、たった数枚の金貨と、あの血まみれの美しい女の笑顔によって、完全に打ち砕かれた瞬間だった。スラム民に危害を加えようとるクソどもとは正反対の、圧倒的な善性で

 

「なぁ……俺、ずっと考えてたんだ」

 

 焚き火の炎に照らされながら、屋台の親父がふと、震える声で口を開いた。

 

「あの御方……どうしてあんなに、全身血まみれだったんだろうな」

「決まってるだろう……!」

 

 若い男が、まるで神話の英雄を語るような熱を帯びた声で答える。

 

「あんな上等な生地の服を着たお方が……露出は凄まじかったが、間違いなく高貴な身分のお方だ。そんな人が、護衛もつけずに一人で、あんな血みどろの姿で街を歩くなんて普通は絶対にあり得ねえ!」

「……ってことは」

「ああ! あの御方はきっと、俺たちのような弱者を脅かす街の外の悪魔や、凶悪な魔獣の群れと、たった一人で死闘を繰り広げてくださったに違いねえ! 俺たちを救済するために、自らの血を流すような壮絶な戦いを経て、この掃き溜めのようなスラムにたどり着いてくださったんだ!」

 

 おおお……と、周囲の大人たちから感嘆と畏敬のどよめきが漏れる。

 

「それに……あの莫大な金だ。常識的に考えて、単に飯が食いたいのなら飯の代金の100倍の金なんて払わない。なんであんな大金を、ただの『施し』としてじゃなく、わざわざ『飯の代金』として俺たちに払ってくださったのか、わかるか?」

 

「ああ……俺たちに、乞食としての慘めな『罪悪感』を持たせないためだ……!」

 

 別の老人が、目頭を押さえながら深く頷いた。

 

「俺たちは大教会から、前世の罪人だと、施しで生きる穢れた血だと言われてきた。もし無条件で大金を与えられれば、俺たちのちっぽけなプライドは傷つき、怯えて受け取れなかったかもしれない。……だが、あの御方はどうだ!? 俺たちの泥まみれの、腐りかけのゴミみたいな飯を、『美味い! 美味い!』と満面の笑みで、嬉々として平らげてくださったんだ! まさに無償の愛! 打算など欠片も介入しない愛だ!」

「俺たちの尊厳を守るために……わざと『買い食い』という形をとって、あんなゲテモノを、あんな美しいお身体の胃袋に無理やり詰め込んでくださったんだよ!!」

 

 その言葉に、スラムのあちこちで再び号泣が巻き起こる。

 

 あの時の女の、狂ったような凄まじい食いっぷり。あれは極限の飢餓なんかじゃない。穢民である俺たちを対等な『商人』として扱い、対価を払うという大義名分を作るための、彼女なりの優しすぎる配慮だったのだと、俺たちは完全に理解した。

 

「思い出しただけで涙が止まらねえ……。大通りの連中も、貴族も、教会の神官どもも、俺たちを汚物を見るような目でしか見ねえ。だが、あの御方は違った!」

「ああ! 俺たちのことを、あんなに『熱い視線』で見つめてくださった!」

 

 屋台の親父が、拳を強く握りしめて天を仰ぐ。

 

「お前らのような底辺の人間も、心から愛している。大切だ。そう言わんばかりの……あのギラギラと燃え盛るような、情熱的で、俺たちを丸ごと求めてくださるような熱い瞳……! この狂った世界で、俺たち穢民に、あんなにも熱烈な眼差しを向けてくれる人間が他にいただろうか!?」

「いや、いねえ! 絶対にいねえ!!」

 

 突き詰めれば、だ。

 あの御方は、俺たちに金をくれて、人間扱いしてくれた。ただ、それだけなのだ。

 

 だが、この絶対に救いのない地獄の底で、その『たったそれだけのこと』が、どれほど俺たちの魂を救済してくれたか。どれほど俺たちに、明日を生きる希望を与えてくれたか。言葉になど、到底できるはずがない。

 

「おい、お前ら! 泣いてる場合じゃねえぞ!!」

 

 スラムのまとめ役の男が、勢いよく立ち上がって叫んだ。

 

「あの女……いや、あの御方は、最後に仰ってくださった! 『明日もまた来るから、もっと美味しい物をたくさん用意しておいてくれ』と!」

 

「おおおおおッ!!」

 

「これ以上、あんな慈愛に満ちた聖女様に、俺たちの泥まみれの飯なんて絶対に食わせられねえ! 俺たちは人間になったんだ! ボルマンの旦那から買ってきた、この極上の豚肉と羊肉、そして新鮮な野菜がある!」

 

「そうだ! 女どもは腕によりをかけろ! 男どもは薪を集めろ! スラムの全霊を込めて、あの方、聖女様のための明日の『最高のご馳走』を作るんだ!!」

 

 おおおおおおおおおっっっ!!! 

 スラムの夜空に、地鳴りのような歓喜と決意の雄叫びが響き渡る。

 

「我らが慈愛の聖女様に、ありったけの感謝を伝えるんだ!!」

「聖女様万歳!! 俺たちの真の神様、万歳!!」

 

 誰もが狂熱に浮かされ、徹夜で明日の饗宴の準備に取り掛かる。

 

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